戦う前から、勝敗を決められました

桃口 優/ハッピーエンドを超える作家

第1話 「私が勝てない?」

「琴葉(ことは)は、僕に勝てないよ」




 そう、はっきりと言われた。

 まさか山瀬 成亮(やませ しげあき)からそんな言葉を聞く日が来るとは、思ってもみなかった。

 私、山口 琴葉は今正直感情が現実に追いついていない。

 成亮とは、同じ高校のただのクラスメイトだ。

 いつもおどおどしている態度も、背が低く少し暗い見た目も私のタイプとは全く違う。

 でも私のいるグループになぜかいるからちょくちょく話する。私のいるグループは、男子も女子もごちゃまぜのグループだ。

 今まで成亮とは学生生活のイベントごとにいろいろ勝負をしてきた。いつも私から勝負をしようと言っていた。そして、それらの戦いに私は一度たりとも、負けたことがなかった。

 それなのに、今日の成亮は別人のように余裕な顔をしている。

 まるで勝負する前から、結果がわかっているかのような顔だ。

 その日から、私と成亮とのある戦いは始まったのだ。

 



 その戦いとは、バス乗り場で行われる。

 いや、もっと細かくいうと、今私が手に持っているスマホの画面の中でだ。

 つまりは、こういうことだ。

 私達は高校にバス通学している。

 学校が終わってからバスが来るまで少し時間がある。

 その間に、スマホで同じゲームをする。そのスマホのゲームは、同じゲームをやってる人とリアルタイムで対戦ができる。

 私達はオンラインでそのゲーム内で、戦うのだ。

 ゲーム名は、「アクション」だ。

 そのゲームは、基本的にはアバターを作り、育てるものだ。強さは武器や防具だけでなく、オーラや見た目、人気などによっても変わる。さらにイベントや課金でしか手に入らないものも多数ある。

 今回はその自分で育てたアバターと、相手のアバターを直接戦わせ勝敗を決めるのだ。

 けれど、ただの攻撃力だけで勝敗が決まるわけではない。

 戦っている3分間の間のアバターの様々な「行動」が勝敗を決める。

 最終的にポイント数が高い方が勝ちだ。

 私もスマホで全くゲームをしないわけでないけど、暇つぶし程度にパズルゲームをやるぐらいだった。

 いつものようにバスを待っていると男子達がスマホを見ながらやたらと盛り上がっていた。


「どうしたの?」と私が聞くと、「成亮がもう神。いや、もはや神超え」と男子が大声で言ってきた。

 えっ、あの成亮がみんなから注目を浴びてるの?と信じられなかった。疑いをもったまま、成亮のスマホを見ると「300連勝達成」という文字と、やたらかっこいい剣をもったアバターがいた。

 

「たかがゲームでしょ?」


 正直驚いた。でもそれを素直に褒められなかった。むしろ、どうでもいいかのように言い放ってしまった。


「ゲームだと琴葉はバカにするんだね。じゃあ琴葉が今日からやり始めても、僕に勝てるよね?だって、たかがゲームなんだもんね」

 

「当たり前でしょ。すぐにいつものように勝てるよ」


 流石の私もゲームはそんなに詳しくない。しかもやったこともないものだ。

 しかし、そんなことよりもどうしたのだろう。なんだかいつもの頼りない成亮と違う。

 胸が静かにドキッとした。

 しかしときめいている場合じゃない。

 これまで成亮との戦いで、私は勝ち続けてきた。だからどんな内容の勝負でも、今更成亮に負けるわけにはいかない。

 

 

「じゃあ、早速明日、帰りに勝負だからね」


「いいよ。勝負したことをすぐに後悔することに、


 私が言葉を言い終わる前に、成亮があの言葉を被せてきたのだった。

 

 

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