世界を疑い抗った彼の最果て
篠原りあ
第1話 帰還
『ふぅ……帰ってきたのか、長かったな』
異世界から帰還した俺は深く息を吸う。吐く。息が白く可視化されている。少し肌寒いが黒のロングコートを羽織っている為、多少は軽減されている。
ポケットに入れていた携帯型端末の電源をつけると画面右上に1%と記載され、画面左上にはNo signalと書かれてある。
どうやら、充電は1%で、圏外、または通信されていない。ということだろう。5年の間、電源を遮断しておいたが、古い端末の為、充電の消耗が激しいのだろう。更に、ここは東京都渋谷駅だと俺は認識している。その為、圏外はあり得ないだろう。ここでは後者の通信されていない。と考えるべきだ。
俺がゲートを使い帰還した場所は、5年前の記憶を遡れば〈東京都渋谷駅前〉だと思うが、現実は異なっていた。俺の眼前には多くの麦と思われる穀物畑になっていた。
俺は《search Lv.10》を使用し、辺り100km圏内の生命反応を探した。
一人。確認することができた。
俺は躊躇なく《teleport Lv.10》を使用した。
そこは、穀物管理施設メインコントロール室。
紅色の長髪をした美しい、女性がいた。
無駄の無い肉付きをしているが、胸はCカップ程度あると可視出来る部分で判断出来る。下半身が疼いたが、理性を強く保ち、解消した。
女の背後に転移した俺は彼女の肩を軽く叩き、呼びかけた。しかし、彼女は幽霊を見るかの如く腰を抜かし、デスクで頭を打ち、気絶した。
穀物管理施設を巡回していると、仮眠室なるものの扉を開けると、彼女、女の私室だと思われる部屋のベットに寝かせた。俺は、彼女が目を覚ますまで、彼女のデスクチェアーに座って待った。
5年の間、性発散を行なっていない為、不埒な行動を取るか迷ったが、知識として使えると考え、行動は破棄した。
「わ、私は…」
『気が付いたか』
彼女は目を覚ますと、現在地よりも、俺を疑った。
「貴方は…誰なのでしょうか…」
『あぁ、俺は神崎シキだ』
「カミザキ?それはミョウジと言われるモノを名乗っていたニホンのジンルイの真似事ですか?」
『いや、俺は至って真面目だ。今でも皆名乗っていると思うが?君の名を教えてくれないか?』
彼女が発した"ニホンのジンルイの真似事"から理解できるように、明らかに文明が異なっている証拠だろう。
確かに部屋を見た限り、冷蔵庫、調理器具、電球、風呂、トイレは無い。ただ、一部屋あるだけだ。
あるのは一箱の段ボールの中に、携帯型端末のような物、携帯食料らしき物、そして、多量多種類の薬だけだった。
彼女は見る限り若く、20代の女性だ。妊娠してる可能性は否定出来ないが、それでも妊娠していないと仮定しよう。ならば女性の月のモノは必ず来るだろう。それなのに用品が無いのは些か気になる点だ。
更に、風呂が無いが、彼女から異臭はしない。
トイレも無く、排泄はどのように行なっているのだろうか。
それに、一つの棚があるが、鍵がかけられていて開かない。シルエット調のガラスで何かが入っていることは解るが、開かない。乱暴に破壊し、破片を飛ばすよりも本人に聞く方が早いと考え、やめた。
彼女がベットから起き上がり、俺の方を向いて唇を開いて言った。
彼女の瞳は嘘偽りなく、真っ直ぐで悲しみが溢れているように見えた。
それは、今の意味が分からない世界にに適応出来てない俺の疲れだろう。
「私は識別No.00039です。カミザキシキさん」
『意味が分からないな。つまらない冗談はやめてくれ。何か本名を隠さなければならない訳でもあるのか?』
「だから、私は識別No.00039ですよ」
彼女は前とは異なり少し強く俺に言葉を放った。
『そ、その識別Noとはなんだ?』
「それは私達、第5世代人類に設定された識別目的の為のコードです」
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