41.「負けたら死ぬ、くらいの気迫を感じたぞ」
「――完敗、だったね……、まぁ、予想通りだったけど」
「クジラ……、アンタ、運動音痴ってレベルじゃないだろ、砂浜をマトモに歩くことすらできねぇじゃねーか、ジジィかよ」
「……そういうホタルこそ、来た球を全部スパイクで打ち返そうとするから、スカッて全部ボールが僕のところに来たんじゃない」
「……いや、一発で決めた方が手っ取り早いと思ったんだよ……、それにしても、アゲハ、すげぇ動きだったな……」
「うん……、柳さんって勉強だけじゃなくて運動もできるんだね。体育は男女で別だから、知らなかったけど」
「それはそうなんだけど……、アイツ何かに憑りつかれてなかったか? ……『負けたら死ぬ』くらいの気迫を感じたぞ」
「確かに……、雷に関しては、ほぼ何にもしてなくて、ボーッと突っ立ってただけだったね」
「ハハッ……、アゲハと三対一でも、勝てる気がしねぇな」
ホタルの口から、自然と笑みがこぼれて、僕……、葵クジラも、釣られるように笑って――
……そういえば――
四人分の焼きそばが入ったビニール袋をひっさげながら、人込みの砂浜を並んで歩く僕とホタル。僕はふと、とある事実に気づいた。
「……ホタルとこうやって普通に話すの、久しぶりだね」
「――えっ……?」
キョトンとした表情のホタル。猫みたいに丸い目が、さらに丸々と大きく広がった。
「……いやさ、中学一年くらいのときは、まだ普通に話してたと思うんだけど。なんか……、いつからかわかんないけど、ホタル、僕のこと殴るか蹴るかしかしなくなったじゃない」
「ぐっ……、そ、ソレハ――」
ごにょごにょと歯切れの悪いホタルはなんだか挙動不審で、僕がジッとホタルの顔を覗き込んでいると、ぷいっと視線を逸らされてしまった。……えっ、僕なんかまずいコト言ったのかな?
ちょっとだけ間が空いて、ホタルが恥ずかしそうに口を開いて。
「……あ、アンタのコト好きって……、そう思うようになってから、うまく喋れなくなっちまったんだよ……」
――えっ……?
小さな声で、子供みたいに口をとがらせて、頬を朱色に染めて――
……そんな、そんな……、それじゃあ、それじゃあまるで――
「――それ、好きな子にいじわるする、小学生の男子みたいじゃん」
「――ッッ!」
手負いの獣のような目つきのホタルが僕のことを見上げて、その目からは、みるみる涙が滲んでいく。僕の胸中、悪い予感がモヤモヤと広がっていって、『防衛本能』が瞬間的に全神経を駆け巡り――
而して、『遅かった』。
「……そうだよ、アタシは、恋してるってだけで頭真っ白になっちまうようなバカで、しかも女ですらない、……ただの、クソガキだよっ! 悪いかっ! バカ―――ッ!!」
――ばっこーんっ。
ホタルの右ストレートパンチが僕の顔面に炸裂し、
晴天の青空を一人の海パン野郎が舞う。
……結局、殴るんじゃないか――
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