ウルジンバドルから聞き取った座標を走りながら脳味噌に素早く刻み込むと無線手を見つけ出し、傍に呼びつけ小屋の陰に引きずり込み受話器を取って『流星』を呼び出す。


「リュウセイ、こちらオオカミマルイチ今から言う座標に艦砲射撃を食らわせてくれ」

『オオカミマルイチ、こちらリュウセイ、了解した座標を送れ』


 図嚢から地図を引っ張りだし、小屋の陰から的になる北側尾根の最高地点を睨みながら座標を伝える。


「汎用座標、五二三、八四一、繰り返す五二三、八四一、以上」

『了解、汎用座標、五二三、八四一、これを二回砲撃する。以上』 


 やがて聞こえる頭上を覆う無数の風切り音。

 そして。

 北側尾根最高地点に榴弾が降り注ぐ、第一回目の砲撃、たちまち八本の爆炎が吹きあがり、少し遅れて爆音が俺たちの鼓膜を叩く。

 続いて二回目、同じく八本の爆炎と八回の爆音。

 直後、無数の爆炎が次々と上り連続した爆音が鳴り響く、敵の砲弾に誘爆したのだ。砲撃は成功だ。

 小屋の陰からバチャン兵の歓声が聞こえる。

 続けて尾根の斜面にも砲撃の追加を要請する。潜んでいる土匪共を一掃するのだ。

 今度は艦砲の他に二門ある十連装艦載噴進弾も叩き込まれ、南北の森全体が文字通り燃え上がる。

 燃え盛る森の中から、爆音に劣らぬ怒号が聞こえてきた。

 塹壕銃の空になった弾倉に散弾を詰め込みつつモレンが。


「艦砲射撃に追われて捨て身の突撃ですな」


 振り向くと、頭上には『流星』が姿を見せており、巨大な翼様の艦体の下に張り付けられた二門の二連装砲、二基の二十五 ミリ三連装機銃、六基の ミリ単装機銃が南北の尾根の斜面に狙いを定めていた。

 無線手から受話器を取り、それに向かって俺は。


「リュウセイ、こちらオオカミマルイチ。こちらに接近中の敵部隊に対し、砲撃を要請する。目標は任意、以上」


 鉄火の豪雨が山肌に叩きつけられた。

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