西側の山肌に十六式を連射で叩きこんだあと、リ・ウォンは弾倉を交換しながら「なんで『流星』を追い返すんです!」


「奴等の狙いは俺たちじゃねぇ!『流星』だ!七十五 ミリ山砲の有効射程距離まで誘い込んで叩き落とすつもりだ!対戦車徹甲弾をつかえば、丙飛戦(丙種飛行戦闘艦)の装甲も無事じゃ済まねぇ!俺たちは『流星』狩りの餌だよ餌!」


「だったらどうします!?」とのリ・ウォンからの問いに答える代わりに、近くでうずくまる村長の一本角を引っ掴み、眉間に二十式の銃口を突き付け。


「オイ!コラ!テメェ!奴等が大砲を据えてる場所、知ってるだろ?知ってたら答えろ!」


 村長はうつろな目をこちらに向けると無表情のままで。


「知らない、本当に知らない、大砲の弾も他の荷物も脅されて預かっただけだ。村の男達は奴等に荷役夫にされるために連れていかれた。この村の者は関係ない」


 チッ、使えねぇ野郎だ。

 携帯無線機を引っ掴み、偵察小隊の小隊長を呼び出す。ウルジンバドル中尉。熊みたいな人相風体の豪傑だ。


「オオカミマルナナ、こちらオオカミマルイチだ。奴等が山砲を据えてる場所を見つけたい。すまんがお前の所の二つの分隊を走らせてくれ、奴らのたくらみから考えると尾根の向こうはあり得ない、東西の稜線の何処か、多分の定石から言って最高部だ。頼む!」

「オオカミマルイチ、こちらオオカミマルナナ。承知しました。三十分下さい、絶対に見つけます。見つけ次第座標でお知らせします。以上」


 頼むぜ熊さん、頼りにしてまっせ!

 報告を待つ間も当然奴等は手を休めず撃ち込んでくる。

 そしてこちらも徐々に消耗が見えてきた。持ち弾も消費され、負傷者も増え、手当てや看護に手間が取られその分戦力も減衰する。

 

「オオカミマルイチ!こちらオオカミマルニ!防衛線が一部突破されました!一個小隊ほどがそちらになだれ込んできます!」


 西側に配置していた第二小隊からの悲痛な叫び、了解したとしか言えねぇだろうが、物陰から覗くと頭から一本角を生やした集団が撃ちまくりながら突っ込んでくる。

 

「西側の防衛線が食い破られたぞ!全力で叩きつぶせ!」


 そう叫ぶなり手榴弾を取り出すと、村の通りを駆けてくる敵に向け投げつける。爆音を聞いてから二十式を連射しつつ俺も小屋の影を飛び出した。

 手榴弾の破片にやられた角付を飛び越して、向うから突っ込んできた奴等に襲い掛かる。後ろから斃れたヤツに止めを刺すモレンの塹壕銃の銃声と、リ・ウォンの「中隊長に続け!」と怒鳴る声が銃声と爆音に紛れ聞こえる。

 前の奴の腹に、横から迫る奴の顔面に、その陰から来た奴には胸に七.五 ミリ弾をぶち込んで倒し、再び目の前に現れた奴の角を掴んで地面に叩きつけ、仰臥したところを弾倉の残りを全部撃ち込む。

 横に見えた小屋の陰に飛び込んで弾倉を交換していると、リ・ウォンが瞬く間に十六式の三点射で小屋に迫った三人の角付を撃ち殺し俺の隣に飛び込んできた。


「自分の役割忘れて突っ走ったらダメでしょうが、中隊長殿!」


 弾倉を交換しつつリ・ウォン。小屋の陰からこちらに迫って来た角付に弾をぶち込みつつ俺は。


「上役が率先して働いてるとこ見せねぇとな!『やってみせ、言って聞かせて』ってね。これ誰の言葉だったっけ?」

「知りませんよ。そんなの」


 そう言い捨ててまた撃ちまくりながら飛び出して行く、おれも飛び出そうと腰を上げると視界の横に小さな人影。

 見ると角を生やした一際小さな人影が、歩兵銃をしっかりと両手で構え走っている。年端も行かねぇガキだ。

 どこかで見たがガキだな。反射的に二十式を構える。

 俺の存在に気付き、立ち止まりこちらを向く、首には干からびたバチャン族の尾っぽが二重巻にされている。

 ああ、ハレシにぶん殴られてたあのガキだ。

 自然で実に慣れた風に銃口をこっちに向けて来た。距離は5 メートルほど。まず、外すことはない。

 何のためらいもなく引き金を引く。

 全自動ではじき出された鉛玉は、まだ薄い胸板を貫いて肋骨を打ち砕き心臓や肺を滅茶苦茶に破壊し、銃口を上にずらして、あどけない顔を引き裂いて頭蓋骨を叩き壊し脳味噌をぶちまける。

 ほんの数秒だ。

 十やそこいらのガキの上半身を血と肉の塊にした直後、ウルジンバドル中尉の声が無線機から響く。


「オオカミマルイチ!こちらオオカミマルニ!山砲を見つけました!」

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