第18話 お兄ちゃんはお怒りのようです

 そう、あれは今朝のこと、愛海に挨拶する前の出来事だ……。


 俺はいつも、起きてすぐ水を飲むというルーティンを繰り返しているが、その中で起こった事件について話をしよう。


 冷蔵庫を開けると、そこには違和感しか存在しなかった。


『さてと、水飲むか……ん? なんか足りない…………あ、俺の取っておいたデザートのプリンが消えてる!?!?』


 そう、その違和感の正体は、冷蔵庫の中、真正面に置いていた俺のプリンが消えていたのだ。


 もちろん愛海に聞いた。ここに入ってたプリンの行方は知らないかと。その返答は『NO』。愛海には一切このことは言ってなかったので仕方ないとは思っていた。しかし、その時は夕佳もいた。その可能性も考えてみたが、俺がいる中でそんなことをするのはあり得ないと俺は断定した。寧ろそれは自明だろう。

 なら、残る選択肢は那月クソガキしかいない。アイツの人望は元々薄いから疑われて当然だ。あとアイツならやりかねない。

 なら、直接尋ねるしかないだろう?

 まあ、あの時は夕佳もいたがあの場で尋ねるのはちょっとな……。


「……おう、おかえり……那月」


 俺は仁王立ちで那月を待ち構える。


「あ、うん、ただいま。え? どうしたの? お兄なんかいつもと雰囲気が違うよ? なんですか? どこかのマオウサマ気取りですか?」

「ほう? 喧嘩を売る上手さだけは一人前だな」

「えへへ、ありがと」

「褒めてねぇよ……それより、お前……何か心当たりはないか? ―――そう、例えば何か自分のものじゃないものに手を出したみたいな」

「……えぇ? うーん、……怒らない?」

「怒らないから言ってみろ」

「実は……お兄が大事に取っていたロールケーキ食べちゃった☆ テヘッ」


 なにがテヘッだ……は? ちょっと待て、ロールケーキ? まさかあの某コンビニのプレミアムなスイーツのことを言っているのか?! 敢えて俺が冷蔵庫の死界に隠していたのに!! それにもかかわらずコイツは見つけだして、その上食べたと言うのか?!

 プリンの件は形状的に隠すのが難しかったが、それは少々予想外だ。

 よし、しっかりと罪は償ってもらうからな?


「よし、お前にはまた後で別に話がある」

「えええ違うの?!」


 そう、俺が怒っているのはロールケーキを食べられたからではなく、プリンを食べられたことにある。ロールケーキの方が少し優先度は上だが。


「なんでなんで?? 怒らないって言ったじゃん! 許してくれるって言ったじゃん!! プッ◯ンプリンも私にくれたじゃん!!」


 コイツ……白状しやがったな?


「は? 許すとは言った覚えがない。それとプッ◯ンプリンはあげてない。誰が食べていいって言ったんだ? ……とりあえずその例のロールケーキはあとで同じやつ買ってこい、あとプッ◯ンプリンもついでに」

「……知ってた? プッ◯ンプリンってプリンじゃないんだよ?」

「そんなこと知るか」

「えぇ~? お兄ってそんなことも分からないのぉ~? やだぁ、ウケるぅ」


 ゴンッ!


 那月の頭に俺の鉄槌てっついが落ちた。


「もちろんお前の自腹だからな??」

「いやあああ! 今月ピンチなのにいいい!! …………ううう……」


 既に那月は涙目だ。しかし、そこで甘くしてはコイツの思うつぼである。絶対に無罪放免にはしないからな??


「自業自得だ、このクソガキめ、俺のプッ◯ンプリンとロールケーキの恨みだ」


 俺は那月の首根っこを掴んでリビングまで連れて行こうとした―――が、1人の少女がそこにいることを完全に忘れていた。


「お兄ちゃん???」


 ああ、顔が青ざめるってこういうことを言うんだな……。

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