第11話 呼び出しをくらったようです

あれから大して何も問題は起きなかった。


あるとすれば夕佳と一緒に歩きながら話をしていたところに、偶然広樹と遭遇してしまったことだ。今まで俺と夕佳が一緒に登校していたことは噂として蔓延していたが、まさか本当だとは思わなかったのか、目ん玉ひん剥いてこっちを見ていた。

正直バレるのは時間の問題だとは思っていたが、こんなに早くバレるとは思ってもいなかった。


いつも通り、学校に着いたのちに夕佳と別れる。そして、後ろからついてきていた広樹に話しかけられる。


「なあレン、なんでレンがあの夕佳ちゃんと登校してたんだ?」


ひそひそと、周りに聞こえないように話す。


「今まで言ってなかったな―――アイツとは家が近くなんだよ」

「いや、家が近いからって一緒には登校しないだろ」

「確かにな……」

「なんだ? 何か特別な関係だったりするのか?」

「まあそういうことになるか―――夕佳とは、幼馴染なんだよ」


いつかバレるとは思っていたので、白状することにした。


「ぅえ!? いいなあ、あんな美人さんと幼馴染なんて―――このラブコメ主人公が!」

「なんだよ、ラブコメ主人公って……」

「ラブコメ主人公はラブコメ主人公だよ!」


そう悪態をつきながら俺と広樹は教室に向かった。結局、ラブコメ主人公の意味は分からないままだが。


「おはよー、レン、ヒロ」

「おはよう、アヤ」


まだ英士は来ていないらしい。


「おはよ……」

「ちょっとちょっと、ヒロ? そんな不機嫌になってどうしたのよ?」

「アヤ! 聞いてくれよ! レンがあの1年のマドンナこと白石夕佳さんと―――」

「あー! あー! あー! 聞こえなーい! 聞こえなーい!」


何故か俺は、綾香に聞こえてはならないと直感的に思ってしまった。


「な、なによ……別に減るものじゃないんだからいいでしょ」

「そうだぞレン、男なら堂々としとけ!」

「ったく……わかったよ……確かに減るものじゃねーし」


俺は両手をあげ降参のポーズをとった。


「で、だけど……その白石さんと幼馴染の関係だったんだって」

「え、えええええ!?」


綾香の驚きの大声によって周りの人がこっちを向いた。―――だから広樹の発言を妨いだというのに……。


「ちょ、う、うるせえ!」

「ハッ……! ごめん……」


自分がしたことに気づき、慌てて口をふさいだ。幸いなことに、俺たちの話は周りには聞かれていなかったようだ。


「いや、まさかそんなご関係だったとは……」

「そんなご関係程度で済ませられるレベルじゃない! キャッキャウフフのリア充レベルだよ!」

「意味わかんねーよ」


いや、お前も十分にリアルが充実してる、略してリア充の一員だからな?


という話をしていると、英士が来た。


「まあ、俺は毎日リアってるけどな」

「は? なんだよリアってるって? 変な言葉開発するな」

「どうしたレン、いつもよりも不機嫌じゃないか。あと、リアってるってのはリアルが充実してるってことだよ。現に俺も勉強でリアってるからさ、仲間じゃないか」


何故だろう、このエイジの笑顔、すごく殴りたい。あと、リア充の意味はさっき説明したわ。


「なんだよ『』って、俺はいつも健全でえらい男子高校生であって優等生でもあるんだぞっ」


よくアニメとかでありそうでなさそうな人差し指と親指を銃の形にして前に向ける、萌えポーズをとる。ついでにウインク。それでも顔は笑っておらず、顔から下だけ見たらまだましだが、健全(?)な男子高校生が真顔でこんなことをしたらホラー以外の何物でもない。


「「寒い(な)」」


広樹と綾香は自分で自分を抱くようなポーズをとった。


「違うレン、人差し指と親指の間の角度が直角になっていない」

「なんだよ、その指摘……」


と、英士が俺に懇々と萌えポーズの大切さを教えてもらっていると―――


ピンポンパンポーン。


『1年4組 九十九恋君、今すぐ生徒会室まで来てください』


「行ってらっしゃい、健全でえら~い男子高校生の九十九恋君??」


広樹がここぞとばかりに俺を煽ってくる。

綾香は笑わないのに必死で、英士は萌えポーズの指南をしていたところに校内アナウンスと言う邪魔が入ったため、少し不機嫌だ。


「……へいへい、いってきますよーだ」


半ば投げやりで返事した。


「―――ったく、朝から何なんだよ……」


しかしレンの思惑とは異なり、彼にとって吉な出来事であることはまだこの時は誰も知らない。

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