第10話 朝チュンのようです

 九十九家の一日、それは布団から始まる。

 すずめが外でチュンチュンと鳴いている。

 とても清々しい朝だ。寝起きもとても良い。

 そして、同じ布団には妹2人と幼馴染の美少女が1人いる―――


 ……思ったんだが。


 こんなもん、日常じゃねーだろおおおおおおおおおお!!!

 毎日毎日こんなもんされたらたまったもんじゃねー!

 何がすずめだ! 誤解を招くだけだろうが! 完全に朝チュンと誤解されるだろうがあああ!!!


 はあ、はあ、はあ。


 寝起きですら最悪だ……いや、寝起きどころか寝てないんだよ……。


 大声で不満を叫びたいのだが、さすがに寝てる3人を理不尽に起こすわけにはいかない。


「はあ……」


 今日もロクなことが無さそうだ……。


 今日こそ何も変なことは起こらないだろうと願いながら、3人を起こすのだった―――と思ったが、布団には2人しかいなかった。

 愛海は朝ご飯の用意をしていたみたいで、寝室の外からいい匂いがしてきた。


「……おい、起きろー、朝だぞー」


 そう俺が言うと、起きたくないとばかりの返答が返ってきた。


「むにゃむにゃ……まだ眠い……」

「うーん、お兄……あと1時間……」


 1時間って……いつまで寝るつもりだ。


 まだ起きない様子だったので先にリビングへ向かうことにした。

 リビングに隣接するキッチンにはエプロンを着たかわいらしい妹―――愛海がいた。

 まるでその様子は新妻と言わざるを得ないものだった。


「おはよう、愛海」

「おはよっ! お兄ちゃん♪」


 フライパンで卵を焼きながら、器用に返事をする。


「あれ? 他の2人は?」

「まだ寝てるよ」

「じゃー、起こしてきてー!」

「1時間くらい寝たいって……那月が」

「なら、起きなかったら朝ご飯抜きって言って~、多分それで起きるから~」

「はあ、分かったよ」


 小さく溜め息を吐き、もう一度寝室に戻る。


「……おはよう、レン」

「ああ、夕佳、おはよう」


 いつの間にか夕佳は起きていたようだ。

 そして、那月はというと―――


『すやあ、すやあ』


 非常に心地よさそうに寝息を立てて寝ている。


「那月、起きろー……」


 あえて一拍空けてから言う。


「……愛海から言われたんだが、もし起きなかったら―――」

「―――!! おはようございます! お兄!」


 この態度の豹変には俺も夕佳も苦笑した。

 ちなみに、那月がこんなにも豹変したのは、前科を持っているからだ。

 その時、泣きながら愛海に懇願して何とか朝ご飯を食べさせてもらっていたが、あれにはさすがに(俺に)クソガキ認定されてる那月がかわいそうに見えてしまった。


 3人でリビングに向かうと、既に4人分の朝ご飯の用意ができていた。

 しかも、この朝ごはんの出来には感服するばかりだ。

 目玉焼きと焼いたパン、そしてウインナーが丁寧に盛り付けされている。

 この光景を目にすると食欲もそそるものだ。


『ぎゅううううううう』


 那月がお腹を押さえて頬を赤く染める。


「こ、これはその……」

「ふふ、お腹すいたんだよね」

「夕佳ねえ!!」

「御三人方~、ご飯ですよ~」


 エプロンを外し、キッチンから出てきた愛海が俺たちに言った。


「あ、ちゃんと手を洗ってね~」


 いつの間にか座卓に座り今にもパンを食べようとしていた那月が、ハッという表情になり『忘れてた~』と言って手を洗いに行った。それに次ぐように俺と夕佳も手を洗いに行く。


 手を洗った俺たちは、全員座卓に座った。


「「「「いただきます」」」」


 その言葉を合図に俺たちは食事をとり始める。那月は待ってましたと言わんばかりの速度でパンやウインナーを食べ、『ゴホッゴホッ』とむせていた。


「だ、大丈夫? ナッちゃん、そんなに早く食べてもパンは逃げないから、ねっ?」


 那月の背中をポンポンと叩きながら諭すように夕佳が言う。


「げほっ、じゃあウインナーと目玉焼きが逃げるじゃんか」

「いや、逃げないから」


 即座にツッコんでしまった。

 突然何を言い出すんだコイツ那月は。突如足とか生えられたら飯どころじゃねーだろうが。


「お兄ちゃんの言うとおりだよ、那月おねーちゃん? ゆっくり食べよ?」

「分かってるよ……」


 那月よりも愛海の方がよっぽど大人だなと改めて感じさせられた俺と夕佳であった。


 そうして食事が終わり、片付けを済ませ、着替えも済ませた(もちろん俺は別室)俺たちはしっかりと家の鍵を閉めてそれぞれの目的地へ向かった。

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