第8話 混沌に巻き込まれてしまったようです

「わ、私は知らないよ?」


 那月はこの場をどうにかして逃れようとしている。


「うん、ナッちゃんが悪くないのは知ってる」


 笑顔なんだけど……さっきの愛海より怖えよ……。


「……で? レンくん? どうしてこんな話になっているのかなー」

「あの、夕佳さん? 目、目に光がありませんよ??」

「どうして勉強会の約束してたのに、時間通りに来なくて、妹さんとあんなことしてたのかなー??」

「ヒイイイイイ」


 怖えよ、夕佳さん、マジ怖えよ……。


 どたどたと足音がする。


「あ、夕佳さん、お兄ちゃんの部屋からお菓子持ってきたのでどう―――お兄ちゃん……? なにしてるの?」


 ん……? 俺の部屋から……?


「ごめんね、アイちゃん、レンには少しお仕置きが必要みたいだから……ね?」

「……夕佳さんに何したんですか……お兄ちゃん」


 愛海は呆れた顔で俺のことを見つめてくる。


「ご、誤解だって」

「あーあ」

「うるせっ、那月は黙ってろ」


 浮気現場だと勘違いされるだろうが!


「ん? ナッちゃんがなんて?」

「八つ当たりしない! お兄ちゃん!」

「……ハイ」


 さっきの二の舞となった。


 *――――*――――*――――*――――*


「ふーん、小学生の相手をしてたら帰ってくるのが遅くなったんだとねー」

「へー、お兄そんな趣味持ってたんだー」

「……お兄ちゃん?」


 というのを経て今に至る。


 那月は自分が今怒られていないというのをいいことに、調子に乗って後ろの方で彼女たちの援護射撃をしている。


 念のために断っておくが、俺は小さい子供を連れまわしたりするような怪しい趣味は持っていない。本当に俺は犯罪者予備軍ではない。そんなことを言われるのは心外だ。


 ましてやさっきみたいに身内や自分よりも年下の子どもにセクハラしたりなんてしない。……あれは不可抗力だった。むしろ罠にはめられたのはこっちの方だと言っても過言ではない。

 そもそも、ロン〇ヌスは俺の指のことを指したつもりだったのだ。


 それをわざわざ下の方と捉えた那月の方がヤバいんじゃないか??


 ―――という俺の弁明はむなしく却下され、俺がこってり絞られることとなってしまった。



 ―――――――――――――――――――――――――――――――――


「そういえば、夕佳さんってここから遠くないんですか?」


 愛海が大好きなパンダのマーチを口に放り込みながら質問した。


「いや、そうでもないよ。徒歩10分くらいでここまで着くから―――ね?レン?」

「ああ……そうだな……」


 俺は不貞腐れながらそう返す。まあなぜそんな態度かというと……そりゃあ二度も同じことを話して同じように怒られたら気も滅入るさ……。


「いつまで拗ねてんのさ」


 俺の好きなカントリーマールを食べながらなだめてくる。

 元の原因はお前だろうが、ていうかなんで俺のカントリーマール食ってんだよ!かえせえええ!


「……ちっ」


 という俺の抵抗は認められないのは目に見えて分かるので、あえて何も言わないことにした。ほんの少しの抵抗として舌打ちだけした。


「レン?ナッちゃんに舌打ちしないの!」

「そうだよお兄ちゃん!」

「へーい……」


 少しの抵抗すら許されないようだった。


「なあ、いつまでいるつもりなんだ?」

「―――ああ、そうだった。レンに渡すものがあったんだった」


 そう言って夕佳はカバンの中をあさりだした。


「?」


 俺はそれが何を意図しているのかわからなかったが、すぐに理解することとなる。


「はいこれ、誕生日プレゼントだよ。今日渡すつもりだったけど、勉強会来なかったから」

「……コップ?」

「お兄ちゃん、それはマグカップだよ」

「ひゅーひゅー、お兄も隅に置けないなぁ~」

「ちょっと、ナッちゃん?!そういうのじゃないってば!」


 那月が冷やかし、夕佳が困った表情になる。


「ほら、夕佳が困ってるじゃないか、やめてあげなよ」

「やめないよーだ、この変態ロリコン犯罪者予備軍めっ」

「なっ―――誰がロリコンの犯罪者予備軍だ?!」

「へー、変態は認めるんだ?」

「は? 変態じゃねーよ、というよりそんなにカントリーマール食べてたら……太るぞ?」

「い、言ったなー!! この変態KY野郎がー!!」

「うるせぇ、このアマ!」


 この茶番が続いている間愛海と夕佳は大笑いし、終わるまで九十九家は騒がしかった。



 ――――――――――――――――――――――――――――――



 マグカップは箱に入っている新品の状態なので割れることはありませんよ( ̄▽ ̄)

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