転生者の断罪者~生まれつきチートだからって、何してもいいと思うなよ~

加藤よしき

そして、彼がやってきた.1

 その世界は、チートによって滅んだ。豊かな自然、剣と魔法によって切り拓かれた文明、共存する様々な人種。ヴィンス王国が統治するサーダカ大陸には、それがあった。しかし、その全てが転生者たちによって滅んだ。

 異界から大陸へやってきた転生者たちは「チート」と呼ばれた。転生者たちが自分たちで名乗り、それが他者からの呼び名となった。チートには様々な種類があった。たとえば、この世界に生を受けた時点でレベル99、つまりこの世界において最高の戦闘能力、大陸を統治するヴィンス王国の軍隊にも相当する暴力だ。あるいは、この世界にはない科学技術や知識を持っている者もいた。チートは各々が異なった考え方を持っていた。

 考え方が違い、それぞれが強大な暴力を持つ。当たり前のようにヴィンス大陸ではチートたちの争いが起きた。

 まずヴィンス王国が滅んだ。そして、最小無数の国ができて、ある者は大陸全土を我が物にしようと考え、軍隊を率いて戦争を起こした。ある者はそうしたチートの野望を阻止しようと考えた。ある者は単に勝ち馬に乗ることを目指した。ある者は混乱に乗じて自分だけの理想の居場所を作ろうとした。

 強大な力を持つチートが国を率いて、サーダカ大陸のあちこちで死闘を繰り広げた。数千万の兵士たちが激突し、地平線まで死体に埋め尽くされたことがあったが、それらはまだマシだった。戦場で兵士が死ぬのは当然だからだ。厄介なことに、チートは戦場以外でも多数の死傷者を出した。2人のチートが些細な痴情のもつれで殴り合いを始め、その影響で国全体が焼き尽くされ、女も子供も関係なく灰になった。時には明確な意図を持った虐殺もあった。あるエルフたちの国では、1人のチートによる「ダークエルフ以外は必要ない」という思想から命の選別が起きた。ある時は「生理的に無理」という理由で、オークたちが極大魔法で氷漬けになった。もっとも、すべてのチートがこうした悪行に走ったわけではなく、中には静かな生活を望む者もいたが。

 こうした1000年に渡るチートたちの争いの果て、文明は崩壊し、大陸のほとんどは砂漠に覆われた死の土地となった。世界は滅び、一部のチートだけが豊かな土地と自分の国を持ち、自分たちの正義を謳っていた。

 そして、争いの火も消えはしなかった。

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