第2話 到着


「ようこそ。」


「よくぞいらしていただいた。

 とても嬉しく思うぞ」


「いえこちらこそ、お招きいただき光栄の至りでございます

陛下」



 私たちは頭を垂れた。


 



 馬車がついて、私たちは王宮に案内された。王様に会うためだ。


 お城の中はいつ見てもとても立派な造りになっていて、鮮やかな刺繍のシンボルともいえるものや、たくさんの画が飾ってある。


 兵士さんの後ろをついて歩いていくと、どこの壁もとても固そうで、色鮮やかな敷物が青や黄色で彩られていた。


「これは、アルスレット卿とそのご婦人様。

 ご無沙汰しております。

 以前の件はうまくいっておられているとか、さすが才文武なきまでの腕前には恐れ多いものですな」


「いやいや、シルク卿もまた南海岸で先日手柄を挙げられているとお伺いしております。」


「いやはや、大したことなどございません。

 どうです?また今晩ゆっくりと。貴方様とも語り合いたい事が山のようにありますゆえ」


「えぇこちらこそ喜んで。時間の許す限りですが私もお話ししたいこともありまいすし」


「いやはや、それは楽しみだ。ではまた、これから王の間でございましょう?

 王も大喜びでお迎えなされまするでしょう」


「あぁ。ありがとう。ではまた今晩」


 そう話して、白い髪の男爵男が私に手を振りながら去っていた。



 歩けば鎧を来た騎士や、お金持ちの貴族や、伯爵、男爵夫人、等すれ違うたびにお父様たちは声を掛けられていた。


「アルスレット卿、アルスレット卿! 」


 遠くから私たちを呼ぶ男性の声


「おぉ、レビン殿ではありませんか!

 ご無沙汰しております」


「いえ、こちらこそ急に呼び止めてしまい申し訳ありません。

 貴方の後ろ姿が見えた様でしたので、どうしても」


 走って来た男は息を整えようと頑張ってる。


「いやいや、その様子だととても仕事熱心でいらっしゃるところはお変わりなようだな」


「えぇ、これが私の務めでもありますから。

 ご婦人も遠路はるばるこの度はよくお越しいただきました。


 お母様が会釈する。男は私の方も見た


「ターニャちゃんも大きくなられて。」


 そう言って私の頭をポンポンとしてくる。


 なんだか久しぶりにあったから私もうれしかった。


「こんにちわ。おじさん」


 私はアーネに会える気持ちの高ぶりと、久しぶりに会えたおじさんとの再開に満面の笑みで答えた。

 レビンおじさんは私がもっと小さい時からよく私たちの遊び相手になってくれていたすごく優しいおじさん。

 私のところにはよくおじさん達一行が訪れることが多かった。レビンおじさんもその中の一人。彼はよく武装をした姿でいる事が多かったからとても強そうなイメージを私は持っている。まぁ、きっと実際強いんだと思うけど。


 なにかと言って色んなおじさん達がお父様とお話をしに来たわ。

 その時レビンおじさんだけは私の相手をしにきてくれた。

 とても紳士な人だった。

 きっと私が大人だったらこんな気を利かせてくれる男の人と結婚したいと思うんだろう。


 そしていつでも丁寧だったから、本当に私には理想の男の人に見えたわ。

 世の男性がみんなレビンおじさんみたいな人だったらいいのに。


 私のお父様ときたら、あの鋭い目に表情一つ動かさない顔。はたからみたら怒っているのかすらわからないあの尖った目は、私は好きではないわ。

 それに比べたらレビンおじさんはいつも笑顔を向けて話しかけてくれるからとても話しやすかった。まぁ、お父様にもいいところはあるのだけれど……


 かまってくれるという優しさ等は、断然レビンおじさんが勝っていたわ。

きっと女の人とお話しするのがとてもお上手な方なのね。お父様と違って。

 だから、レビンおじさんはどこか心のより処だったのかもしれない。




 よくアーネちゃんとお庭を走り回ったりしていて、塀を乗り越えて外に出て行くことが多かった。あのイタズラは楽しかったわ。結局見つかって怒られるのだけれど。いい思い出。

 それが楽しくて何度も何度も、乗り越えてはならないと言った塀を、私たちは乗り越えた。

 今度はどうやって行ったら怒られないで帰ってこれるか。そんなことを楽しんでいたのかも。

 あと、純粋にもっと外の世界を見てみたかったってのもあるわ。

 その度にレビンおじさんが汗くせ必死に探し回って、おじさんが見つけてくれた時はかばってくれたりもして。


 その時はうまく怒られるのを回避できたの。でも、お母様たちに先に見つかってしまうと、今でも恐ろしいほど長い時間怒られていたわ。

 思い出すだけでもぞっとする。


 私たちの事をそれだけ心配してくれたという事は痛いほど伝わったけれど。

 

 辛かったわ……。


 でも、やり過ぎて、いつの間にかレビンおじさんにも先回りされていたり、それでもやっちゃうから、お母様たちに対策を取られて、塀には別の兵隊さんを置かれちゃって。

 それ以来、塀を越える事すらできなくなってしまったのよね。



「先の戦の時は本当にありがとうございました。」


「もう、それはよいと。あれはあの時に私ができる最善の策を施したまでですから。

 あれでアングリアの皆様のお役に立てたのならこれほど名誉なことはありませんよ」


 お父様は少しうれしそうなんだけど、困っているように見える。


「何をおっしゃる。貴方様のおかげで私たちは助かったも同然。

 私たちにとって命の恩人でございますから。


 今晩はお泊りになられるのでしょ。是非、我々の部屋にもお越しください。

 皆、貴方様に会いたがっておりますゆえ、皆喜びます」


「あぁ、また寄らせてもらうよ」


「では、私は行きます」


 そう言って別れた。







 やっと待ちに待ったアーネちゃんに会えるんだから気持ちが浮いて仕方がない。


 長い道を歩いて私たちは王座の前と足を運ぶ。



 歩く先に扉があって、そこを武装した兵士が待機している。


 どうやらお父様たちはこの扉の向こうに行こうとしているみたい。


 先導して案内をしてくれる人が兵士の人たちと目を合わせている。

 何かの合図みたいなのを目でやり取りしているように見える。


 扉がゆくっりと開く。


「陛下、アルスレット様とそのご家族様をお連れしました」


 と、案内していくれた人が大声を放った。


 今まで静かに前を歩いていた人だったから、いきなりの大きな声に私の肩が一瞬びくついた。



「通しなさい」


 奥から威厳のある声が聞こえると、扉が開く。



 私は目を輝かせた。


 アーネちゃん!


 そこにはこの国の王様が、真ん中にお妃様が、そしてそのまた横に、他の二人よりは小さな椅子にアーネちゃんが座っている。


 きらきら煌めく色とりどりの宝石に、固そうな金。

 見ているだけでとても暑そう。


 王様たちはとても素敵な衣装に身を包み、きらきらと輝いてる。

 素敵だわ。


 アーネちゃんも私も見てすごく満面な笑みをくれた。


「よくぞ参られた。アルスレット卿。

そしてご家族の皆様」


「こちらこそお招きいただき光栄の至極でございます」


お父様と私たちは王の前であいさつをする


 そして今に至る。


「頭をお上げ下さい。


 道中は長旅であったであろう。

 今晩はどうぞゆくっりとおくつろぎ頂き、疲れを取られなさい。」


「ありがとうございます。陛下」


 私たちは頭を上げ、お辞儀をする。


 こういうしきたりは何度か経験がある。私はなんだか堅苦しさも感じてはいるのだけれど仕方がないわよね。これが皆当たり前としている事なのだもの。


 それよりも早くアーネちゃんとお話ししたいなぁ……

 いつお話できるのかなと思うとこの時間がものすごく長い。



「さて。」



 王様は横に並び立つ何人かの人の中の一人に声をかける。


「はっ。陛下」


「今宵はアルスレット卿たちと共に食事をとる。


 あれの準備を頼む」


「はっ。承知いたしました。陛下」



「それから、アルスレット卿の方がたにいつもの部屋を」


「そちらは手配済みでございます。陛下。

 ゆっくりとおくつろぎになれるかと」


 慣れたように、横に立つ一人の歳いった髭を生やすおじさんが、わかっていますよと言わんばかりに、冷静に答えた。


「うん。そうか。


 して、あれはどうなっている。」



「はっ。

 心配ないかと、

 うまく進んでいると連絡がありました」


「そうか。

 ならばそちらは引きつづき任せるぞ」


「お任せください」


低く頭を下げる髪の長いおじさん


「それではまたお会いしよう」


「えぇ、またあとで」


 お父様に王がそういうと私たちは玉座の間を去った。


 また案内人の人に案内されて、とても大きなお部屋に案内された。



 うわーい。


 ふかふかのベッド。

 周りにはカーテンもついていてとても御洒落。

 素敵な装飾の鏡と机。

 テーブルの上にはいくつものお菓子が置いてある。

 マカロンにケーキ、カボチャのタルトにフルーツも盛りだくさん。

 あら、これは、とても高級な茶葉だわ。

 お母様に教わったもの。


 部屋の片隅には荷物が置かれていた。

 私たちの荷物もしっかりと部屋に運ばれてる。




 私は自分の鞄を探した。

 何かあったら嫌だから鞄の中に入れておいたのだけど、心配で心配で仕方が無かった。 


 良かったー。潰れてない。



「ターニャ、いくよ。」



 お父様とお母様が扉の前で私を待ってくれていた。とても優しい表情。


「はい。」


 私たちは部屋を出た。


 やっとアーネと会える。

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