第1話 コインの表2
柳井は慌ててジッポライターを学生服のポケットにしまった。担任の下松は眉間にシワを寄せ、怪訝そうな表情でぼくらを見た。
「お前ら、こんな所で何やってんだ?」
普通は誰もここには来ないし、僕は道具箱に背を向けた形で3人に取り囲まれている。さらに普段から柳井たちは先生たちから目をつけられている。誰が見たってぼくがここでいじめられているのは明らかだ。
ぼくは救いを求めるように下松先生を見た。
「僕らは倉庫の整理に来たんです、大竹先生に言われて」
柳井はペロッと平然と嘘をついた。
「先生こそ、どうしたんですか?こんなところに」
柳井は入口を背にしている下松先生の横を素早くすり抜け、廊下を覗き込んだ。
「あっ!大島先生だ」
柳井は廊下にいる大島という若い女先生に手を振った。大島先生は美人で男子生徒から人気があった。柳井はすぐ二人がなぜ人気のないこの教室に来たかを悟った。
柳井は振り返り、勝ち誇った顔で笑みを下松先生に見せつけた。下松先生はバツの悪い表情を浮かべた。形勢が逆転した瞬間だった。
「大島先生と、何か取りに来たんですか?」
柳井は澄ました顔で助け舟を出した。下松先生はすぐさまそれに乗っかった。
「そうなんだ。運動会で使うタスキがあったろ」
「これですか?」
柳井は道具箱から素早く見つけ出し、下松先生に手渡した。
「もう運動会の準備ですか?早いですね」
下松先生は体育の先生だ。柳井はわざとらしくそう言ったが、下松先生はそれに乗るしかなかった。
「そうなんだよ、この時期からいろいろな」
「何か手伝いましょうか?」
「いや、大丈夫だ」
ぼくの恐怖で震えた表情は下松先生に伝わっているはずなのに、下松先生は自分の身を守ることだけでせいいっぱいのようだった。
下松先生は柳井のついた嘘に気づいていながら「倉庫の整理、ご苦労さん」と言って出て行った。
下松先生が出て行った途端、柳井は「何だあれ?あんなブスどこがいいんだよ」と言って笑い転げた。
ぼくは自分の前髪を触ると、焼けて粉々になった髪の毛が手についた。
柳井は「さて」と言って、首を傾けカキカキといわせた。
「続きを始めますか」
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