第37 すれ違う二人

桂川、黎、学は、星が生徒会から早く解放されたとして、一緒に駅を回って遊んでいた。


「でも、良かったな。 星ちゃんが、生徒会無くてこうやって遊べるの久しぶりだしな」


「ほんとだよね。 星めずらしいじゃん。 ほんとに今日は生徒会で残らなくていいの?」


「うん。 そうなんだ。 今日は早く終わっちゃったから溜まってる仕事がなくて」


 学が後ろから話しかける


「未来さん、いつも朝早く登校して頑張ってるんだろ? 努力のたまものだな」


「おぁー、 じゃあ星も生徒会の仕事に慣れだしてきたわけだねぇ! これからはこうやって一緒に遊べる日が来るんだね」


 黎はとても嬉しそうにしていた。



「えぇ、それは言い過ぎだよ。 それに、たぶん今日だけだから」


「何だよそれ、やっぱ大変なんだな!生徒会って。 俺らで良かったらいつでも言ってくれよ。仕事できるかは別として」


 桂川はいつも頑張る舞を気にかけた。



「いやー、桂川には無理だって。 だって生徒会の仕事だよぉ」


「何だと、このアマぁ」


 黎がいかにもと思っている事を口にする。 四人はとても楽しそうにじゃれ合っていた。


「実はきょう、ちょっと手伝ってもらっちゃって、それでね、早く帰れただけなの」



「そっか。 そんないい奴がいるんだな」


 桂川は泣いていた。


 そんな楽しい会話は一瞬にして過ぎ去った。 それは丁度4人がレストランの前を通り掛かった時の事。



「あれ、あれってユウカに似てないか? 」


「お、ほんとだユウカじゃねぇか」


 学はレストランの窓からユウカらしき人物を指さした。 それは後ろ向木の姿で何やらしていた。


「あ、ほんとだ、なんかユウカっぽい。 けど、その奥に座ってるのって女の人じゃ……」



 三には口を詰むった。 星はあまりの事に口を押えていた。


「あれ、キスしてる?!」


 四人は見てはいけないもの見てしまったと思った。 四人の中でいち早く感情を読み取った黎は星に肩をつかみながら声をかけた。



「さ、行こっか。 星どこ行きたい?」


「え? 私は……」


 星は何も考えられないでいた。


「ほら、男子いつまで見てんの行くよぉ」


「だって、アイツ! ユウカの野郎」


 学が桂川の首根っこをつかむ。


「はぁ、もういいから行くぞ」


 学は無理矢理、桂川の顔を、星の方に向けさせた。




「はぁ、たく。 あいつ本当になにやってんだ」


 桂川は煮えくり返っていた。






「もういいか?」


 ユウカは恥ずかしくて仕方がない。 何が良くて公衆の面々の中、堂々と首元をさらけ出して見せねばならんのか。 


「ない。 そんな、何も、……無い」



「満足いったか? 襲われたであろう傷跡だってないんだろ?」



 しっかりと確認した。 そこには傷跡等何一つなかった。



 確かに見たのに。 事の重大差を、危険を伝えたいのに、伝えれば伝えるほど、舞の前から証言が消えていった。




 それにな、フランだってエリィーだっていたんだ。そんなに膨大な魔力なんだったら。あいつらがいち早く起きて気づいてるはずだろ? エリィーは何も言ってなかったし、フランはなんか言ってたのか?」


「それは、何も。 そんな事は知らないって……」



「ほら見ろ。 それだと、やぱっりお前が見たのは夢か幻だったって事だろ。 とりあえず帰ろう」


 違う。 違うのに。 信じて欲しいのに、これ以上話す言葉がない。



「い、嫌よ」


 舞は心底脅えているようだった。

 ユウカはその様子を見て少し考えた。


「もし、お前の話しが本当だとしたら、二人が危ないだろ? それに、もしそいつが居なかったら、あいつらも交えて一度ちゃんと話してみよう。 だから一度戻ろう」



 フランを守らなければ。 舞のその気持ちが恐怖に勝った。


「うん、そうだよね。……戻りゃなきゃ」



 ユウカの家に近づくにつれ舞は、行くのを渋り出していた。


「ねぇ、ユウカ、やっぱり、本当に帰るんだよね」



「何だ、お前怖いのか?」


「あ、当たり前でしょうが。 あんなの見ちゃったら、流石にヤバいんだから」


 行くと言った矢先がこれでは重い溜息がでて仕方がない。


「はぁ、今はそいつの魔力とか感じてるのか」



「か、感じてない」


「だったらいないから、行くぞ」



 舞は、そいつを見る事を恐れていると言うよりは、その魔力事体を感じる事が怖かった。 感じたたくなかった 感じてしまえば逃げられないのだから。


 舞はぎゅっとユウカの腕にしがみついた。


「お前、マジかよ」


「だ、だって仕方ないでしょ? か、帰るんでしょ?」


 ユウカはここまでくると、舞が見たと言うものも疑えなくなってきた。 あまりものビビりようは、普段の舞からは考えられなかった。 後この時の舞は本当に可愛いかった。

 腰を引いて、少しでも大きな声を出せば、腰が抜けそうな体勢に、ユウカも少し真剣に捉えようと思った。


 

 そんな二人を一人の学生が見てたい。彼は駅を目指して歩いていた時、丁度家を挟んで一本横の路地を歩いていた。十字路に差し掛かった時、家で隠れていたお互いの姿が見えた。

 同じ学園制服をきたカップルが歩いている。 見たかった訳ではない。赤の他人がどこでいちゃついていようと関係ないし気にも留めない。 だけど、それが桜華舞だったから彼は足を止めてしまった。

 男とべったりと腕を組んで帰る舞の姿。頼りきったように寄り添う彼女の知らない一面。

 桜華舞には好きな人がいた?

 この事にすごく胸を痛めながら、麻木は一人の男を見ていた。 あの男はいったい誰なんだと?







ユウカのマンション入り口。



「つ、着いたわね、」


「じゃあ、入るからな」


 異常に怖がる舞に一応一言忠告だけ入れてあげた。



 見た目も綺麗なマンションだと言うのに、舞だけは、大嫌いなお化け屋敷に、強制的に入れさせられようとしている人に見える。 



 ユウカの家の扉の前。


 しっかりとユウカにしがみつき、手を絡めて握りしめる舞がいた。 もう腰が抜けそうだ。



「居るのか?」


 もう言葉は出ない。 ただ舞は首を横に振るだけが精いっぱいだった。 足をいつもよりも内股に入れ、今にも涙を流しそうな表情をして唇を噛み締める。



「本当に大丈夫かよ……」


 そんな姿に流石にユウカも困り果てる。



 ユウカが玄関の扉を片手で開ける。


 急に走り寄ってくる物体がいた。



「ユウカーおかえり。今日は遅かったのだな」


「……おかえりなさい、舞」



 エリィーとフランだった。エリィーは2人の姿を見てなるほどと察した。


「ん?何だ?二人とも、もうそんな親密な中になったのか?」


 エリィーはニヤニヤと嬉しそうにしてる。

 フランも照れていはいたが、祝福したそうな表情で2人を見ているようだった。



「さてはお主ら、デートしていたな」



「違うわい」


 すかさずユウカが飛び出す。


 だが、舞は本調子ではないので、しばらくユウカから離れない。強く、強くユウカの腕を握りしめていた。



「……舞、何かあったの?」


 フランは舞の普段との変化にいち早く気づき、舞を心配していた。

 2人はレストランでの事をエリィー達に話した。


――――――――――――――――――。



「そうか、そう言う事があったと」


 エリィー達は舞の話しを真剣に聞いていた。



「どう思う? エリィー?」


「うーん。 正直に言ってそのような魔力は感じたことがないがな。 フラン、お前はどうだ?」


「……私も、それは無い」



「だってよ、舞」


 舞1人だけが納得がいかない結果になった。

 三人も舞の異様な姿が見てわかるのだが、どうしたって、落ち着かせてあげられるような言葉が出てこない。 どう考えたって居ないのだから。



「しかし、私達の魔力を感じられる人間がいる事が、私には驚きだ」



「俺もだ、そんな事ってあるのか?」



「そう言えば、テレビで、人間には”霊感”と言うものを感じたり使える者がいると見たのだが、そう言う不思議な力の派生なのかも知れんな」


「じゃあ、魔力ってやつは人間でも感じられるのか」


「知らん。 私はその人間の使う”霊力”と言うものを知らんからな。 そこは舞に聞くのが一番なんじゃないか?」


 三人は舞を見た。


「私は……」


 舞は何かを伝えようとしていた。 だが、何を思い出しているのか、何かが彼女の口を瞑らせる。言いたそうにしているのに言えない何か。



 舞は何か決心を決めたのか、口を開いた。



「私は霊力をもってるの。 これのおかげで小さい頃から嫌な思いもたくさんしてきたんだけど。霊力は成長してからどんどんと強くなっていってるみたい」


「じゃあ幽霊とかも見えてるのか」


「そうね、そうと言ってもいいけど。 あんたたちがイメージしてるような、ものじゃないわよ。それは霊感が強い人。 私のはどっちかと言うと、霊感もあるけど霊力の方が強い。 オーラみたいなものと言えば伝わりやすいのかな。 その人の力の源が見えるって感じ」


 エリィーも霊感や霊力について興味があった。


「ん? 幽霊? 幽霊ってあのオバケェ~とか言うやつか?

 それと霊感と言うのは、私達のように力に変えられるのか?」


「変に伸ばすな。 お化けだ」


「そうね、私達が呼んでいる霊力っていうのは、身に宿して身を守る事、また攻撃の威力を強める事もできるみたい」



「ほう。それはすごいな。 ではお前の家計は陰陽師とか言うやつなのだな。 にしてはお主は桜華と名乗っているし、安倍晴明とかって言う名前ではないのだな?」



「それは映画とかドラマの話だから。 別に桜華は……」



 ユウカだけがついて行けてなかった。


「は? どういう事だよ? じゃあお前もフランみたいに強靭な力技とかできるって事か?」


「霊力と魔力はまた全然違う。 霊力は憑依させて疑似的に力を少し上げる感じ。 対して魔力は……そうね、自分の筋肉みたいなものかしら。 元から宿主に有って、それは宿主次第でいくらでも成長させることが出来る形のない筋肉、気力みたいなものからしら」


 舞はそんな事よりも、白い怪物の事が気になって仕方がない。


「それより、その白い化け物が、あなた達の世界から来てたりはしないの? 見たこともない?

 全身真っ白のように包まれていて、背が高い白髪の女性みたいな怪物」



「んーどうだかな。 思い当たる節は無いぞ。 白いと言えば銀狼を思い出したが、あいつらの姿はこの世界で言うと、犬みたいな姿だからな。それ以外だと何だろうか?」


 エリィーは深く頭を悩ませたが、これと言って思い当たる節は無い。


 舞はフランにも聞いた。


「フランは?」


「……私だったら確かに、肌が白いし髪も銀色だから、似ている?」


 フランはフードを取って見せた。


 三人は固まる。



「まぁ、確かにフランは白いけど。 お前じゃないわ。 」


「うむ。ありえん」


「そんな可愛い物じゃ無いよ? フラン」


 フランは場を和まそうとしてやっているのか、それとも素なのか、三人は分からないでいた。


「とにかくだ、 もしまたそんなのが現れたら、私達も気づくはずだ。 それに、フランだっているんだから、舞もそこまで脅えることは無いと思うぞ。

 みんなも死んでおらんのだ。 もしかしたら、何かが重なってそういう現象を見たのかもしれん」


「……うん。 今度は私も、周り警戒、もっとしてみるから。 怖がらないで」



「それにな、相手に夢を見せて恐怖を植え付ける悪魔などもおるからな。 そいつの仕業かもしれんぞ。 と言ってもそいつは小童こわっぱのようなものだからな、出たとしても簡単に潰してくれよう」



「非力なお前には無理だ」



 ユウカが食ってきた。


「な、何だと!?」


 エリィーとユウカの言い合いが始まる。



「そうなのかな……?」



 舞はまだ腑に落ちないが、三人の意気揚々とした姿に見間違いだったのかもと思うように努める事にした。






 夜中


「おい、舞。 何でそんな物騒なモン抱いて蹲ってんだよ」



 舞は刀を抱きしめながら、座って寝ようとしていた。



「う、うっさいわね。 あんたは知らないから。 あいつの怖さを」



「だから大丈夫だっちゅうに」



 何度言っても聞かない舞はしばらくこの姿勢で眠っていた。ユウカも慣れればその内落ち着くだろうと、舞をそっとしておいた。 



 しかし、舞は正直この家に居るのが居ずらさを感じていた。 ここでは自分の務めが果たせない。

舞は刀を見て悩んでいた。


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