第11 捜索

 気が付くと部屋が荒れていた。


 玄関の扉はしまっていたが、部屋中血だらけだった。


 一体何があったのか?

 ユウカはいまだ頭がおぼつかない。



 確か買い物に行く約束をしていて、それから……。


 少しずつ記憶をたどり寄せる。




 重い体を起こしながら、部屋の奥へと進む。


 物が荒れ狂って、血だらけの部屋。体が重く伸し掛かる。そこら中が痛い。


 壁に流れる血痕を見て思い出す。



 エリィー!!



 だが、どこにもエリィーの姿がない。



 エリィーがいなくなってどれくらいたった。


 色んな不安が頭を過る。

 だが、死体がない以上死んではいないはずだ。

 白骨化した死体もない。つまり、この部屋では殺害はされていないと見ても良い。

 そしてそんなに長く眠っているわけでもなければ、この部屋では日に当たってはいなさそうだ。



 エリィーが準備していたスーツケースがなくなっている事に気づく。


 この状況から見て、エリィーはどこかへ連れていかれたのではないだろかと言う推察がついた。


 犯人がスーツケースで運んでくれた選択肢には心底助かった。


 もしスーツケース無しで連れ出されていたとしたら、どうなっていた事か。


 犯人も頭の切れる奴だという事はこの行動からわかる。



 問題はエリィーが、どこに連れて行かれたか、だ。

 これだけはどうしてもわからない。



 とにかく、急いで外へ飛び出した。

 ユウカはいてもたってもいられないくて、思い当たるところを走って回った。

 もしかすると何か手掛かりが見つかるかもしれないから。



「あれ? ユウカ君? 」



 星達がユウカを見つけた。



「って、どうしたの?!

あんた傷だらけじゃん」



 黎が驚いて駆け寄る。



「あ、黎達か。 いや、大したことなんだ。

 なぁ、この辺で、でっかいスーツケースを持った奴とか見なかったか? 」



「え? スーツケース? そんなの見てないけど」


「いやユウカ君、病院に行った方がいいよ。 何があったの? 」


 星が心配してくる。


「いや、本当に大丈夫なんだ」


 ユウカ自身も血だらだと気づいたのは星達と話してからだった。

 とにかく適当ごまかした。


「ちょっと、階段で転んだだけで」



「転んでそんな傷だらけになるか! 」


 黎が突っ込んだ。

 それはそうだ。

 誰が見ても、階段から転んだなんて聞いたら、階段でそうはならないと言うほど、あざだらけだ。


「何かの事件に巻き込まれたとか? 」


 鋭い所をついて来る。

 勘のいい子たちである。



 だが、ユウカも背に腹は代えられない。


「もし、デカいスーツケースを持った奴がいたら俺に連絡をくれないか。

 それじゃあ」



 ユウカはそのまま駆け抜ける。 今は長々と話している場合じゃない。



「あれは、なんかヤバい事になってんじゃない? 」



「そうだよね。

わたしたちも探してあげよっか」



「そうだね。出来る限りさがしてあげよう。

 私たちはこっちを探そう」


「うん」


 星達はユウカとは違う道を走っていった。





「ったく、何が一体どうなってるんだよ。

 何でエリィーが狙われた?


 あいつとモールに行った時に、誰かに見られていたのか?

 エスカレーターの時に人だかりができてしまったし。

 もしかして、あの時に人間じゃないってばれたんじゃ? 



 それか、俺と住む前に、あいつ、何かやらかしていたのか? 

 あぁ~、考えてもらちが明かねぇ。


 どこにいるんだよ、エリィー! 」




 途方に暮れる。


 どこを探しても見つからなかった。

 それはそうだ。 どこに向かい、何のために、攫われたのか全く見当がつかないのだから。

 手掛かりはゼロ


 だけど、何かせずにはいられない。

 この間にもエリィーがどんな目に逢わされているのかわからないから。

 ユウカは走るのだが、どこを走ってもまも空振りする。

 ユウカのポケットの内側が振動する。


「もしもし? 」



「あ、ユウカ君? ごめん、探してるんだけど全然見つからなくて。

 黎の方もダメだって。

そっちはどう? 何か見つかったの? 」




 ユウカは星が探してくれていることに驚いた。

 何故、彼女は探してくれているのか?

 その、動機が彼には分からなかった。

 だけど、一刻の猶予もない。

 探せるものならありとあらゆる人を導入して探したいほど手掛かりがないのだから。



「え? 探してくれてる? ありがとう。

 俺の方も全く」


「だよね? 

 そのスーツケースって、前ユウカ君が持っていたやつ?

 そのスーツケースには何か大切なものでも入っているの? 」



 その通りである。

 大切なものではなく、かけがえのない命がかかっている。

 何としても探し出さなくてはならない。



「あぁ、すごく大切なものだ。

 絶対に見つけないといけない」



「それって、なんなの? 」



 だが、それだけは、答えられない。

 彼女の存在を知らす訳にはいかない。


 例えそれが、親身になってくれそうな、学友であっても。

 どこで、どんな風に転ぶか、この世の中は分からないから。

 できる事なら知らない事は知らないほうがいい。

 特にこんな、現実離れした事象には特に注意が必要だ。

 このような事件に巻き込まれない為にも。



「俺の生活費が入っていて、あれが無くなると大変なんだ」


「それは大変! 

 警察には届けたの? 」


「いや、まだ大事にはしたくないんだ」



「そんな事いってる場合じゃ無いよ」


「いや、ちょっと色々事情があるんだ。

 頼む。 俺が言うまでは警察には掛け合わないでくれ

 あと、もしスーツケースを持っている奴を見ても、絶対話しちゃだめだ。

 俺に連絡だけくれ。 本当に頼む。 約束してくれ」



「う~ん、ユウカ君の言っている事がいまいちよくわから無いけど、ユウカ君がそう言うならわかった。

 でもごめんね。 私、そろそろ、夕方には予定があるから、いったん帰らないといけないの。

 黎も用事があるみたいで。

 帰りながら、探せるだけ探して見るから、何かあったらまた連絡頂戴。 

 私も連絡するから、それじゃ」



 星からの連絡には胸が躍っていた。

 ここまで親身になってくれる彼女の優しさには、誰もが一目置く。

 そういう意味ではおせっかい焼きなのかもしれない。




 ユウカは了承すると、また走り出す。

 近くの公園、学校の周り、路地裏や、隣の町。

 各所を走り回って探す。




 そんな時だった。

 彼が一人の女の子とぶつかった。

 丁度、前からスマホをいじって歩いてた女の子が向かって来ていた為だ。


「あっ、痛ったぁ」



「うわっ」



勢いよく走っていた為、その女性とユウカは尻餅をつく。



「ってててて、何なんだよぉ、もぉ」


「すみません。 

大丈夫ですか

うっ、 」



 ユウカの傷がここへきて痛み出す。

 彼は相当の傷を負いながら、それを忘れて走っていた。

 人とは不思議なもので、その時の痛みを、忘れて行動することがある。

 痛みを感じ取る神経が、その信号を受け取らないのだ。

 これをアドレナリンでという人もいる。

 その結果、体の危険信号に気づかずいつもの様に動けるのだ。

 だが、アドレナリンが切れると無かったことにしていたそれが、現実に現れる。

 強烈な痛みと、動けなくなるような、苦しみである。



「おめぇ、どこ見て歩いてんだよ。 てか、走ってんじゃねぇよ。


 って、お前、なんだ? その傷? だ、大丈夫かよ? 」



 ぶつかったのはギャルだった。

 彼女は制服を着ているのだが、ユウカ達の学校のものではない。



「だ、大丈夫、……」



 ユウカは。沈みそうになる体を横のガードを持って何とか支える。



「いや、大丈夫じゃねぇっつの!

 今救急車呼ぶから! 」


「いや、本当に要らないんだ、

 早く行かないと……」




 ユウカはただ真直ぐに進もうとする。

 無我夢中で、とり憑かれたように歩みを進めた。


「は? お前……何言って? 


 う、うわっ、お、おい、なんだよ! 」



 ユウカは目の前にいるギャルに当たり、そのまま押し倒した。



「な、何なんだよ、こいつ。


 重っめぇ、  どけよ、おい。 服が汚れんだろうが」



 ユウカは気を失っていて、動くことをしない。

 ギャルの華奢な体では、男性のユウカをどけるのはやっとだ。

 倒れた人間はとても重い。

 下敷きになっているギャルが抜け出すには至難の業である。



「はぁ、何、人の上で寝てんだよ!おい。


 ちょっと、もうだめだ。 動かねぇ。


 フラン! 」




 何かが現れ、ユウカは天高く蹴り飛ばされていた。

 打ち上げ花火のように、綺麗に打ちあがっていった。


「ちょ、あんたやり過ぎ、バカ」


 ギャルは天高くあっがたユウカを見て唖然とする。



「……ごめんなさい」



「っもぉ、死んだらどうすんだよぉ。

 ただでさえ、見た目死にかけてんだぞ、アレ。

 これちょっとヤバいかも……」



 ギャルは落下したユウカに近寄っていく。

 生死を確認したかったから。



「おーい、大丈夫かー?


 返事がない。


 まぁ、一応救急車呼んでおくか」


 血まみれになっているわけではない。

 そこに気絶したように倒れている男。

 死んでいないにしても人として放っておく訳には行かない訳で、ユウカは病院へ搬送されることになった。



「行こ。

 さっきは、ありがとね」


 ギャルは何事も無かったのかのように、手を繋いで去っていった。





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