第3 お片付け
大きな音と一緒にユウカは出て行った。
辺りには冷たい空気が流れた。
「…………ユウカ、……」
とても悲しそうなやるせない表情をエレーナは浮かべ、ユウカの出た扉を暫く見つめていた。
「いやいや、いかんいかん。 こんなでは。
こんな気持ちでいては一日がもったいない。
それになんだよ。 あんな言い方しなくてもいいだろう。
ユウカも大人気《おとなげ》が無いんだよ。
阿呆がぁ」
そう言って引き返すと、部屋の有様を目の当たりにする。
「……うわぁ、……これは酷い……」
部屋は無残な光景。
まるでどこかの野蛮な動物が迷い込んで暴れ回ったかのように。
「これは流石に、怒るわな」
納得した。
エレーナはいつも通り、この狭い部屋で時間を潰す。
ダメだ、やることが無い。 と言うより落ち着かない。
「そうだ、アニメでも見るか」
エレーナは日課の様にアニメをPCで見ていた。
この世界のアニメと言うものは面白いらしく、良くできているとエレーナは高く評価している。
そして時は流れる。
「ん~、お腹がすいたのう。
御飯、ごはん―――。
あっ゛痛い゛っ。
うぅぅうぅっうぅぅうぅぅぅぅぅぅぅぅ、」
エレーナは割れた食器の破片を踏んで、蹲っていた。
「何じゃ、こんなところにまで破片が飛んでだのか。
っくぅ、痛い」
ユウカが破片をすべて拾っていたが、勢いよく飛んだ一つの破片が、リビングを飛び越えていた。
「ぬうぅ、」
気づかなかったのはあまりにも部屋がぐちゃぐちゃだから。
エレーナも部屋の惨劇に、何も言えない。
「とりあえず、飯だ」
冷蔵庫へ向かい扉を開ける。
「おぉ、今日はこれじゃの」
そこにはちゃんとエレーナのお昼ご飯、と書いてラップが捲いてあるトレーが入っている。
「おぉ、今日も美味そうだじゃのぉ」
エレーナにとって、ユウカの美味しい御飯を食す時は、数少ない楽しみの一つだった
ご機嫌で、アニメの写るPCの方へ運ぶ。
アニメはしっかりと一時停止状態。
しかし、下に散らばった服の残骸に足が絡まる。
「ぬわっ、」
凄まじい音と共に、こける。
勿論,御飯は床に散らばった。
「のぉわぁぁぁぁぁー
あたしの御飯がぁぁぁぁ゛ぁ゛ぁ゛―
そんな、どうして」
辺りは御飯が散乱していた。
「うぅ、この辺りは踏まない様にせねばな
とりあえず、冷蔵庫に入っている残りのモノを探して食べよう」
もう一度冷蔵庫へ戻ると扉を開ける。
「何じゃ、食べれそうなものが何もない……」
食材は有るが、調理済みのモノは他に入っていなかった。
「この葉っぱのようなものは食べられるのかのぉ?
それにこの赤色の長三角のモノはなんじゃ? 臭いがなんかすごいぞ……
キノコみたいなものも袋に丁寧に梱包されておるが、うーん。
仕方がない、これしか口にできそうなものが無いし、一度食べてはみるか
しっかし、何も入ってない冷蔵庫だな」
手に葉っぱ(ほうれん草)と、ニンジン、そしてしめじをもって、リビングに座った。
エレーナにしては得体のしれないものを持っている為、あえて流し台に近いリビングに座った。
まずは葉っぱのようなものをかぶる。
「うえぇっ、ぺっ。
なんと苦い、これは食い物では無いな」
強烈な苦みに耐えきれなくエレーナは速攻で吐いた。
「んーならばこの匂いがいびつな、赤いこいつか……
いや、食べたら実は美味いのかもしれん」
エレーナは口にしたくなかった。
が、食べ物がないなら食べるほかない!
バリボリボリ、
「うえぇっ、なんじゃ、この味は………、
あまり美味しくはない。と言うか固い。
赤いから、まぁ、あれと一緒かと思ったが、そもそも色もそんなに同じでもないし、ちょっと苦いし、美味しくもない」
二度とかじりたくはないと彼女は思った。
「ならば最後はこいつか……」
もうエレーナの中では、そう美味しい物ではないと、今までの過程から予想が付いていたが、どうしても何か食べたい。
お腹がすいている欲には抗えなかった。
だから彼女は、キノコを袋から解き放った。
クンクン、
「うむ、臭いはそう悪くはない。
が、食べて良い物か……。
ま、まぁ、冷蔵庫に入ってたんだし、食べれないモノではないと思うのだが、
まさか、毒とか……あるのではないだろうな……。
食べていいのか………?
いやー、止めておくかぁ? 今までのモノも最悪だったぞ。
これだってその可能性は絶対高い。 てか99パーセントそうだろう。
だが残り1パーセントにかければ、もしかしたら美味の可能性も……。
いやいや形からしてうまそうな形をしておらんぞ、こやつ」
ぐぐぐぐうぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅ~。
エレーナのお腹がなる。早く食べ物を入れてくれと言わんばかりに。
えぇ~い、もうどうにでもなれ。
そう思って一つをちぎって食べた。
「うえぇっ、 ぺっ。
生キモイ
ダメだ、どれも食べれないモノばかりだ」
ちらっと、エレーナは戸棚の方を見た。
「くぅ~っそぉ!
なんでだ、なんでこんな時に限ってポテチがないんだ!」
それは自業自得だった。
エレーナは腹立って地団駄を踏む。
すると床に落ちたポテチの袋が目に入った。
思い出す、昨日の夜の事。
ユウカに片づけて寝ろと言われたのに、戸棚の中からプレミアムポテチを見つけてしまう自分。
そして、どれを食べようか迷った挙句、全部味見したいと袋を開けてしまった事。
そして、そのまま寝てしまって、部屋を散らかしたままのこの汚い部屋。
うむ。私のせいだ。
と何かを悟る。
片づけたかったが、ユウカの何もするなと言う言葉が彼女を止めていた。
仕方がない、とりあえずアニメの続きでも見るか~。
とふわふわとポテチの袋や、落ちている服などを避けながら歩いていく。
「痛゛い゛ぃっ」
そう言ってエレーナは小指を抑えた。
机の脚に小指の角をぶつけたエレーナは蹲る。
「くうぅぅっぃうぃっっ゛ぅ、
何と言う失態か。 この私がこのような屈辱を受けようとは」
涙ぐみながら、エレーナは部屋の散らかりようを再認識した。
「はぁー、もうだめだ。部屋を片付けよう。
この部屋にいてはいつ命を落とすやもしれん。
きっとユウカも綺麗になっていれば、喜んでくれるに違いない」
そう思ったエレーナはさっそく部屋を片付けようと、羽を横に広げ、汚れてしまってる服から洗濯が終わってる服まで、すべて拾いあげ洗濯機へ詰めた。
「歩かずに空を飛ぶようにしよう。 床は危険でいっぱいだからな。
よいしょっと。
っで、広い集めたはいいが、確かここに………
うむ。 はてな、どうしようか? 」
とりあえずスイッチなるものは入れてはみたが、何のボタンを押したらいいのかわからない。
そして確かユウカは洗剤を入れないといけないと言っていたな。
洗剤を入れようとしているエレーナだが、どれを入れていいのかがわからない。
思いつくものは、歯を磨く歯磨き粉。
それをエレーナは手に持っていた。
だが、洗濯機の中に垂らしてみたは良いものの、少し垂らしただけでは泡立つ気がしなかった。
「ん~足らんか? もう少し入れるか」
思いっきりチューブを握ると、歯磨き粉の中はほとんど出てしまった。
「ありゃりゃ、ま、まぁ、もう出てしまったものは仕方が無いな。 このまま回そう」
エレーナは、何とか歯磨き粉をチューブの中に直そうと試みたが、どうやっても入る気配が無かった。
そしてドラム式洗濯機のボタンをあれやこれやと押す。
だが、一向に回る気配がない。
「何でだ? こいつ私に逆らうつもりか。
頼むから早く回ってくれ」
色々ボタンを押せど、回る気配がない。
「そうか、もしや、これか! 」
バタンと洗濯機のふたを閉めると、洗濯機が回り出した。
「よし! 」
エレーナはとても喜んだ。
「えらいぞ。 貴様」
暫く回る洗濯機の中を覗くエレーナだが、何か違和感。
「いつも、もっと泡立っているような気が……」
何か違うと思ったエレーナはとりあえず洗濯機を止めようとした。
が、止め方がわからない。
「やばいぞ……
いや、落ち着け。 人間の事だ。 必ず、何かあった時の為に緊急停止できるようなボタンがあるはずだ。
落ち着け、私。
よく見て、それらしきものを探すのだ。
うむ。見つけたこれだ! 」
エレーナは大きめのボタンを押してみた。
キュュュュゥン、という音と共にすさまじく回転していた洗濯機は止まった。
「良くやった私」
ふたを開ける。
「やはりこれでは無かったか。
何せ、いつもと匂いが違う。
ユウカが回した時はもっと良い香りがしたのだ。
それが、私がやったらどうだ、まるでこれは、ツーンと来るミントのような香りがする。
もっといい匂いがするものを入れねばだ」
やる気満々だ。
エレーナは自分が記憶する中で一番匂いが良いシャンプーを思い出し、持ってきて入れた。
「これだ、これに間違いない」
そう言ってワンプッシュ。
「流石に、これでは、泡立たんよの」
またプッシュ、さらにプッシュ。
プッシュ、プッシュ、プッシュ、プッシュ、プッシュ、プッシュ、プッシュ。
おまけにもう一丁プッシュ。 でも足りなさそうだからプッシュ。
「なんだ、これは。
全然たらん気しかせん。
えぇい面倒くさい、もういっそのこと全部入れてくれようか」
エレーナはボトル先を回してそのまま洗濯機へ注ぎ込んだ。
「うむ。 とても良い匂いだ。
これで良し!」
エレーナは満足そうにふたを閉めようとしたが、思い出したようにひらめく。
「あっ! そうだ、どうせなら、少しボディーソープ混ぜてやった方が奇麗になるのでは?
なんせ体を洗う洗剤だ。
服たちも綺麗になるやもしれん。 むしろボディーソープこそ正解ではないのか」
風呂場からボティーソープを持ってくる。
最初は少しだけと何プッシュかしていたが、面倒くさくなったエレーナは結局全部入れてしまった。
「そうだ、泡立つと言えば、台所に洗剤があったな。 あれはとても泡立ったような気がするが。
あやつもいれてやるか」
エレーナは洗剤を全部使いきるとユウカに怒られると思ったので、詰め替え用の特大サイズのボトルの方を持って来て、入れた。
「よし、終わりだ
後は任せたぞ! 」
思いっきり洗濯機のふたを閉めると、動き出した音を確認して、部屋の方へと胸を張って戻った。
「さて、次は掃除だな。
たしかあのうるさい奴がこの辺に、
お、いたいた。」
掃除機を片手にエレーナは床を掃除しだした。
「うーむ。 どうにもこの音にはまだ慣れん。
うるさくてかなわない。 お前、もう少し静かにはなれんのか」
と掃除機と会話している。
掃除機の音を我慢しながら、何とか部屋中を掃除し終えた。
汚れた床には水ぶきをし、残飯を拭きとった。
ついでに窓も扉も拭き上げた。
「おぉぉぉぉ――」
エレーナは感動した。 エレーナ至上完璧な出来だ。
「我ながら、こんなにも綺麗にできるものか。
さすが私だ。
見違えるようだぞ。 まるで、新居だ」
綺麗になった部屋に、目を輝かせ、自画自賛する。
ユウカが掃除している時よりもピカピカになっていた。
「ふぅ――っ。
とても落ち着く―。
なんだ、掃除もいいものだな」
ソファにもたれかかる。
「きっとユウカもこれを見たら、」
そんな妄想を膨らませニヤニヤするエレーナ。
「早くユウカ帰ってこないかな~」
時計を見ればまだ14時。
まだまだ帰っては来ない。
「そうだついでにお風呂も掃除してやろう
きっとさらにユウカも喜んでくれるぞ」
そう言って風呂場へ向かうエレーナ。
「うわっ、なんじゃこら――――!」
エレーナは扉を開けると、驚いた。
なんせ洗面所が泡で埋め尽くされているではないか。
もうどこに洗濯機があるのかすらわからない。
てか、泡で何も見えない。 さらにその泡は、扉を開けた途端、勢いよく出てこようとしたので、慌てて扉を閉める。
「な、な、な、なんなんだ、これは。
一体全体どうした。
これでは風呂場にたどり着けん。
何が、どうなっているのだ。」
エレーナは何となくで、もう一度扉を開けてみた。
「ぶはっ」
エレーナは泡に押し包まれた。
すぐさま扉を閉める。
「まずい。
まずい、まずい、まずい。
これはやってしまっている」
急に顔が青くなる。
確認してもう一度扉を開けてみたが、夢ではなかった。
泡はある。
つまりこれは現実だ。
この事態を何とかせねば。
しかしどうすれば、扉を開ければ部屋が泡まみれになってしまう。
それはユウカが怒るだろうし。
最悪と、この泡の発生源を生み続けている洗濯機はまだ動いているみたいだ。
あいつを止めないといけんが、扉もあけられん。
「と、とりあえず、止まるまで、扉で塞いでこのままにしておくか」
エレーナは止まってから考えればよいと一度アニメを見る事にした。
「この部屋は美しくてあの泡まみれの部屋を忘れさせてくれるようだ」
そう言って現実逃避をして気持ちを落ち着かせると、アニメに浸った。
「ついつい続きが気になって見入ってしまった。
ダメだ。これが悪い癖だな。
でも、なんと人の心を惹きつけるものか。 すごい物だ。 アニメとは
さて、あいつももう止まったころだろう、ちと、見に行って見るかな」
立ち上がった瞬間だった、綺麗にしたはずの床には泡が広がっている。
「あり?
なんでこんなところにまで泡が??」
急いで洗面所へ行こうと、廊下への扉を開けた時、泡は綺麗にした部屋を包みこむように流れた
「そ、そんな。廊下が大変な事に。
うわっ、私が奇麗にした部屋が!
折角ユウカの為に綺麗にしたのにぃ」
時計を見るともう18時を回っていた。
ユウカがいつもなら帰ってきてる時間だが、今日はまだ帰ってきていない。
エレーナは思考を繰り返す。
これはもしかして、帰ってくるのが遅いのか?
この時間に帰ってこないとなると、いつも言っている、仕事とかいう所に行っている可能性がある。
もしそうなら、ユウカはまだまだ帰ってこない。
チャンスでは無いか。
もし何か用事があって帰ってくるのが遅いのであれば、まだこの泡たちを処理できそうだ。
ユウカが帰って来る前に何とかしなければ。
流石にこれは殺される。
彼女は一つの解を出した。
昨日から色々あった上に、泡まみれになった部屋を見ようものなら、ユウカがエレーナを殺すには十分だ。
とりあえずこの泡をかき出そう。 廊下のそこらじゅうの泡という泡を手ですくい集める。
「ただいま~ぁ」
あれ……?
ユウカと、エレーナの目が合う
計算がくるった。
ユウカが目をやると、部屋中泡まみれ。
まるで雲の中にいるような廊下。
そこで楽しそうに泡をすくって遊ぶ、金髪の少女の姿があった。
「お、おかえりなさい、
ユウカ」
「おう、ただいま。
これなに?
お前、なにやってんの?」
「へ?えっ?
な、何って、」
手には泡。
たくさんの泡をすくっている姿。
これで掃除をしているなどとは到底見えない態勢。
エレーナはあきらめた。
決して笑顔は絶やさずに、ユウカに理解してもらおうと精一杯のごまかしをしてみた。
「み、見ろ、あ、あ、泡パーティをしていたのだ。
すごいだろう。た、楽しいぞ。
いやー疲れて帰ってくるお前の為にな。
少しでも楽し場所を作ろと思ってだな。
どうだ?ユウカも一緒に遊ばない、か?」
「ほおぅ。 泡パーティ。
お前俺が朝言った言葉覚えてるか」
「え、、、うん。」
エレーナは笑顔を絶やさない。冷や汗を掻きながらも。
「なら、言ってみろ」
「行ってきます」
絶対に笑顔を絶やさない。
「違うな。
そんな事は一言も言ってない。
お前に忠告した奴だ」
「うん。 そうだよね」
「俺が言って、出て行った言葉はなんだ」
「いってらっしゃい」
「それは、お前が俺に言った言葉だ」
「あれーそうだったかな。 覚えてないなー」
絶対に。
「お前今覚えてるって言ったな」
「ごめんなさい。 忘れちゃったかも。 たった今」
笑顔を。
「そうか。 ならそんなお前の為にもう一度だけ言ってやる」
「えーいいよ、そんなの。 ユウカに同じことをまた言わせるなんて悪いし」
「俺はな、お前に、お前は絶対何もするなよと言って出て行ったんだ。
お前次何かやってたら許さないからなと言ったんだ」
「あー、そっかそっか。 思い出した。 思い出しまた」
「これはなんだ」
「うん?
泡パーティー」
たやさない。
ユウカの顔を見て、エレーナの絶やさなかった笑顔が、この世の終わりのような顔に変った。
「エレーナぁぁあぁぁぁぁぁァぁぁぁぁあぁぁあぁぁぁぁ゛ぁ゛」
部屋中にユウカの声が響き渡った。
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