プロローグ

プロローグ


 昔、こんな話をされた。



 私はね。妖精が見えるの。ほら、今も見えているわ。

 白くてうじゃうじゃとしたくさん飛んでる。

 とても俊敏に。

 この部屋は素晴らしい部屋よ。

 と。


 そう語り掛けるのは一人の女性。

 別に怪しい奴ではない。

 俺の姉だ。


 それはとても明るい、晴れた高層マンションの一室。

 南向きの窓からは、東から上る太陽の日が差し込んでくる。

 よく彼女は、窓の方を見て妖精を見ていた。

 ほら見て、と言わんばかりに。


 最初は何を言っているのかわからなかった。

 何所にもそんな白い物は居ないし。

 姉の言う通り見ようと努力したが、まったく俺には見えはしなかったからだ。


 そんなことがあって、俺は姉を心配した。

 頭に何か天性的なものがあるのか。

 後遺症的なものなのか、もしくは妄想癖が強すぎるだけなのか。

 妄想ならそれでいいが、それを当たり前の様に、人に語るのだけはやめてほしかった。


 俺はスピリチュアルな人が嫌いだった。

 あたかも、居ないものを居るのだと言ってきて。

 小さいおっさんがいるだの、幽霊が見えるだの、妖怪だの、心霊写真見ますと言った商売も。

 別に自分の中だけでその妄想を楽しむなら構わないが、それを人に信じさせようとするのは違うと思う。


 ただ、不意に見えたから、そんな感じのものを見た気がした。が勝手に見たに変わって、本などで読んだ怪奇現象とそっくり。から、その正体はそれだと、決めつけて語るのであれば、それは浅はかな発言なんじゃないか。ただ注目を浴びたいだけとしか捉えられなくなる。



 こう言った事は、色々と調べていくと、ある対峙にあたる。

 この世界では、光があると必ず影が存在するという事象だ。


 例えば、今問題になっている事を解決したくて、それを成しえる方法が、できたとする。すると必ずその成しえる方法を使うと、それに対しての問題点がまた新たに生まれる。

 つまり、それを打破するだけの力が生まれれば、今度はそれと同等の力を持った反対の力が新たに生まれるという事だ。

 この世界は必ず対になるようにできている。

 立ちはだかる壁も無く走れることは無いと言う事。

 


 だからもし、パワーをもつ怪物や幽霊、スーパーすごい神や悪魔とやらがいるのであれば、それに対抗しうる力が生まれるという理論。



 神があれば、魔法を使う人間や、聖なる結界を張れる人間がいてもおかしくない。それ以外にも、テレポートする人や、水を操ったり、火を吐く力を持った人間が現実する事になる。


 しかし、そんな人間はただの一人もこの世界にはいない。

 つまり、それはそんな力は無い。

 裏を返せば、そんなものはこの世界には存在していないという事だ。

 これは人間の作った妄想の世界で生きるものの話しであるという事。



 だけど、幾日か経って、俺が友達の家で、ただただ脱力していた時、姉が言うそいつらは現れた。

 それが俺にも見えた瞬間だった。

 


 白くて少し透明な丸いモノがいくつも目の前を走り回っている。


 こいつらは語り掛けてくることは一切なかった。

 それに、こっちに攻撃してくることも、近づくことも無い。

 忙しそうに周りを飛び回って居るだけ。


 しっかり確認しようと思って焦点を合わせようとしたら、そいつらは見えなくなった。


 それから、そいつらは俺の部屋でも見れるようになった。

 ついて来たのか??


 ただ、いつも見れるわけではなかった。

 そいつらを見る為には見方がある。


 その方法は、心を無にする事。と言うと語弊があるが、見ようとして見るのではなく、ただ、ぼーっと何気なく窓の外を、見る。

 別にどこに視点を当てるでもなく、ただ何気なく明るい窓全体を見るんだ。

 そうすると、この部屋には沢山の白い妖精と言うモノが 飛び回っているのがちゃんと見える。

 姉の話では、部屋によっては、それは見えないらしい。


 例えば暗く、陰気な部屋など、そういった部屋ではこいつらがいる事は無いらしい。

 彼らは、明るく、陽の気がある部屋に集まって来る。

 だからこの妖精が見える場所にいる人は、とても強い陽の気を持っているのだと姉は言う。



 しかしそれは妖精などと言うものではない。


 それがそういうもだと言う事を、きっと姉ちゃんは知らない。



 別に姉が嫌いなわけではない。

 優しくて人当たりがいい。だから俺は、姉ちゃんが大好きだ。

 だけど、そういった幻想を平気で信じて語ってしまう人になってしまった事にただただ、悲しくなった。


 この手の話がでると、流すことにしている。


 厳密に言うと、この白い球の正体は自分の白血球だ。

 明るく入ってくる光の方に目を向けると反射して、自分の瞳の中で働いている白血球を見ることができる。

 これは誰でも見ることができるモノ。 しかし注意してボーっとみていないと気付かないことが多い為、日常でも太陽の下で起こってはいるが、気づいている人が少ない。


 今までもこれからも俺は霊的な何かなんてものは大人が作ったまがい物。信じるつもりはない。

 と言うより信じていない。

そもそもおかしい話だ。何かが見えるだの、何かがそこにいるだの。俺からすれば、有名になりたい、自分はすごい人だと注目を浴びたという風にしか聞こえない。



 別に見えないモノを信じないと言っている訳ではない。


 確かに運命や、巡り合い、決まっていた定めなどは信じている。

 目に見えないし、形に無い。それを立証できる説明もできない。何故そんなことが起こったの?と聞かれれば。

”それが運命だからだ”としか答えようのない事柄。誰も事細かに経緯を説明できる者などいない事象。


 だからこそ人は形の無いモノをそのままにしておくのを怖がる。何かに付けて何かのせいにしたい生き物だから。




 じゃあ、ここで俺の横にいて、楽しそうにポテチを食っているこいつはいったい……なんだ?

 


 黒い羽に小さな鋭い牙が生えている。頭にも小さな角のようなものが二本可愛く頭を出している。


 それに極めつけはうねうね動いてる尻尾。


 黒くて先っぽが尖がっている。


 硬いのか?柔らかいのか?触るな!などと言うので、わからないが。

 よく動く尻尾。

 


 そして綺麗な透き通る金髪の女の子。


 目を開けた時に見える綺麗な薄水色の瞳。


 見た目は普通の小さな女の子なのに余計なものが色々と付いているのだから、普通の、”人”では無いのだろう。

 コスプレを疑ったが、ずっと一緒にるとそれがコスプレでない事がわかった。

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