第688話 前夜の話し合い

 連日、タウロは懐かしい人々と面会を繰り返していた。


 当然ながら、タウロが養子入りしたグラウニュート伯爵とアイーダ夫人。


 そして、同じ歳ながらタウロの弟にあたるグラウニュート伯爵家の嫡男ハクはもちろんだが、ハクの育ての親であるクロスも招待され、面会をして挨拶を受けていた。


「こうしていろんな懐かしい人達と面会をしていると、僕達の冒険がいかに濃いものだったのかがわかるよね」


 面会の間の時間に、タウロは傍にいたエアリスにしみじみと答える。


「そうね。その全てには、さすがに私も関わってはいないけど、いろんな経験が出来たから凄く感謝しているわ、ありがとう」


 エアリスは「うふふっ」と少し笑うとお礼を言う。


「……まあ、僕の言動で迷惑をかけた事も沢山あるのだけど……。──こちらこそ、いつも傍にいてくれてありがとう」


 タウロはみんなに迷惑をかけた事がある事も自覚しているから、お礼を言うのであった。



 面会はパーティーの前日まで続き、貴族だと近隣の初めましての貴族から、ダンサスの村を領地の一部とし、タウロに命を助けられた事があるダレーダー伯爵、宰相の息子であり、こちらは聖女誘拐未遂時にタウロにお世話になったムーサイ子爵も久し振りの面会を済ませた。


「ふぅー。とりあえず、当日、話す時間がなさそうな人もひっくるめて面会できたのは大きいね。あとはパーティー後に面会するとして、いよいよ明日が本番かぁ……」


 タウロは自分の領主就任&昇爵発表パーティーが想像以上に大規模なので、ドキドキしていた。


「パーティー後も交流のまだない各自治区の代表との交渉もあるんだろう? リーダーは大変だな」


 アンクは他人事のように、同情する。


「アンクさん、その間、僕達もやれる事はやらないといけませんよ!」


 シオンがアンクを珍しく注意した。


 すると、子供型自律思考人形セトも同意するように頷く。


「わかっているって! だから俺もシャルと一緒に、領兵隊を指導しているんじゃないか。当日の警備もあるしな。お陰でこの仕事も悪くないかもと、思い始めているところさ」


 アンクは思わず、最近の心境をそう語る。


「やっぱりそんな事考えていたのね。でも、いいんじゃないかしら? アンクは意外に安定した生活を求めていたし、そのままこの地で働く事も選択肢のひとつにするのは悪くないと思うわよ?」


 エアリスがアンクの本音を聞いても驚く事なく支持した。


「私はタウロと冒険を共にする血の盟約があるからな。タウロが冒険を続ける限り、どこまでも付いていくぞ」


 ラグーネは当然とばかりに、今後も冒険者を続ける意向を示した。


「ボクもタウロ様に付き従います!」


 シオンは相変わらずだ。


 セトと狼型人形ガロ、スライムエンペラーのぺらも同意するように、頷いたりぴょんぴょん跳ねる。


「おいおい。俺は別に冒険が嫌というわけじゃないからな? ただ、みんなと違って年齢を考えるとそういう時期も自ずと先に近づくから、考えの一つにだな……」


 アンクもタウロ達と年齢が離れている事に気を遣っていたのだ。


 それにアンクの次に歳であるラグーネはそもそも竜人族で長命だから年齢を気にする種族ではないし、アンクと比べても十歳近く若い。


 そうなると人族であるアンクが色々と今後の事を考えるのは当然の事だろう。


「もちろん、アンクが好きなようにしてくれていいんだよ? 僕はアンクの事は冒険者仲間として、友人としてとても大事だからね。それにほとんど家族みたいなものだから。アンクが落ち着いた生活をしたいなら、領地で働いてもらいたいかな。それが僕も安心できるしね」


 タウロはアンクの考えを尊重する姿勢を取った。


「リーダー、ありがとう。だが、俺もまだまだ、冒険者として頑張るつもりだぞ? 歳と言っても、まだ、ピチピチの二十八歳だからな? あと十五年以上は戦える!」


 アンクも『竜の穴』の修行で、能力的にも現役でいられる寿命を延ばせているから、実際、人族としては最強に近い部類にいるのは確かだろう。


「はははっ。戦えるかどうかじゃなくて、今後の希望についてだよ。それに、二人も最近、一緒にいない時間も増えて色々考えるところあるんでしょ?」


 タウロは当然アンクを評価している、だが、それよりも望んでいる幸せが何かの方を優先してほしいから確信を突く指摘をした。


「な、何を言っているのだ、タウロ!」


 ラグーネが突然話を振られたので動揺する。


「そ、そうだぞ、リーダー。俺達はまだ……」


 アンクとラグーネは一緒の時間が長く、逆に距離が近すぎて進展していなかったのだが、アンクが領兵の指導の為にタウロ達に同行できない日々が続いた事で、二人はお互い考える時間が出来て、真剣に向き合う事が出来たようであった。


「二人とも、何を遠慮しているのよ。いまさらじゃない。付き合うなり、結婚するなりしなさいよ。みんなとっくにわかっていた事なんだから」


 エアリスが二人の背中を押すようにそう告げる。


「「いや……、一応、付き合ってはいるんだが……」」


 アンクとラグーネは声を揃えて恥ずかしそうに応じる。


「はははっ! それなら、祝福しないとね。ラグーネ、血の盟約が大事なのはわかるけど、あれは友人としてお互い助け合う為のものでしょ? 常に一緒に冒険し続けなくてはいけないわけじゃないんだから、二人の時間を大切にしてね。僕としては二人を束縛する気は毛頭ないよ?」


「「……」」


 二人は目を合わせると、どうしたものかと考える素振りを見せた。


「二人とも本気なんでしょ?」


 エアリスは再度二人の心を確認する。


「「それは、もちろんだ!」」


 二人はまた、一緒のタイミングで返事をした。


「あとは二人で話し合いなよ。落ち着いてまた冒険に出かけるにしても、時間は十分あるんだからさ」


 タウロは笑顔で二人にそう応じると、ゆっくりと考える時間がある事を告げるのであった。

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