第642話 全力の浄化活動
見事にトロール皇帝を討ち取ったタウロ一行だったが、これで終わりではない。
残党のトロール系魔物はまだ、沢山いたから引き続き討伐は行われたし、タウロはトロール皇帝によってダメージを受けた男女大人型
門番エルフも一人でいるわけにはいかないから、タウロ一行に同行する。
タウロ達は災害とも言われるS級魔物を討伐してなお、進み続ける体力があったのだから門番エルフは夢でも見ているのだろうかという気分になっていた。
正直、トロール皇帝が出現、タウロ達が倒す選択をした時点で自分の命はこれで終わりだと覚悟を決めていたのだ。
だが、タウロ達は最初から戦い方を決めていたかのように、流れるような動きでトロール皇帝に攻勢をかけ、イケると判断したところから一気に畳みかけ、損害を最小限に抑えて討伐してしまった。
もちろん、討伐後は全員息が上がっていたし、想像以上のプレッシャーの中でギリギリの戦いをしていたのだろう事は伝わってきていたから、その時点で撤退を決めてもおかしくない。
なにしろトロール自体の数はそれでも多いのだ。
きっと、最深部辺りの魔素が濃く、そこで、魔物が生まれているに違いない。
タウロ達はそれをわかっているから、災害級魔物を討伐して疲弊している中、さらに潜る判断をしたので、脱帽であった。
もちろん、危険が伴うし、門番エルフも死ぬ可能性は高いかもしれない。
だが、タウロ達の英雄的行動に自分は命を賭けてこのチームが成し遂げる行為を見守る義務があると確信するのであった。
「この階層、魔素が特別濃いね……」
タウロが先頭を進みながら地下に充満する魔素に苦しそうに答える。
「そうね。この辺りがこのダンジョンもどきの魔物発生源の気がするわ──タウロ、シオン。ここで『浄化』を行いましょう」
エアリスはタウロの指摘通り魔素の濃さからそう判断した。
「わかった(わかりました)」
タウロとシオンは応じると、ラグーネと門番エルフに周囲の警戒をお願いする。
一応はタウロが『真眼』による『気配察知』で周囲の魔物について警戒しているが、もしもの場合があるからだ。
だが、ラグーネがいれば問題ないだろう。
その判断でエアリスを中心に『浄化』魔法を詠唱し始める。
エアリスは『聖女』スキル持ちであり、一年間『竜の穴』で修行した事で『大浄化』が使用できるようになっていた。
さらに、シオンも『光魔道僧』というスキル持ちで、浄化系は得意としている。
タウロは『文字化け』スキルで早いうちに『浄化』を覚えて以来、その精度を高めているから二人のサポートに十分なほどの力を持っており、この三人が同時にこのダンジョンもどきを浄化すれば、かなりの成果があるはずだ。
三人はエアリスに合わせて詠唱を続ける。
そして、
「『大浄化』!(『浄化』!)(『聖浄化』!)」
エアリス、タウロ、シオンがそれぞれの得意な浄化系魔法を唱えると、それらが一つになり洞窟内に光が広がっていく。
その光はどんどん広がっていき、各層にも届いていくようだ。
三人はその一つの魔法に魔力の全てを注ぐ。
どのくらい経ったであろうか?
それは一瞬だったのか? 数瞬だったのか? それとももっと長い時間だったのか? ラグーネと門番エルフは光に目をやられてしばらく目を開けられなかったが、気づくとエアリス達の魔法は収まっていた。
「……成功したのか?」
門番エルフが誰に聞くでもなくそうつぶやく。
「終わったな」
ラグーネが自信満々にそれに応じた。
その視線の先にはタウロ、エアリス、シオンがくたびれたようにその場に座り込み、タウロに配られた魔力回復ポーションを飲み干す姿であった。
「エアリスの勢いに引っ張られて、魔力込め過ぎた……」
タウロが苦笑して二本目の魔力回復ポーションを飲み始める。
「タウロに普通の『浄化』魔法であれだけの威力を出されると、こっちも力が入るわよ」
エアリスは呆れながら、タウロから再度魔力回復ポーションを受け取り、愚痴を漏らす。
「ボクはお二人の勢いに引っ張られて魔力枯渇するかと思いましたよ?」
シオンは笑いながら、二人と同じように魔力回復ポーションを再度飲み始めた。
「はははっ……。まあ、そのお陰で充満していた魔素もすっかり晴れたみたいだし、これならしばらくはダンジョンもどき化する事もないんじゃない?」
タウロは門番エルフを安心させる為にも、そう説明的に告げると、三本目の魔力回復ポーションを三人で飲み干すのであった。
「本当ですか!? それはこのエルフ自治区が出来て以来、初めての功績ですよ!」
門番エルフはタウロ達の行った功績がどんなに凄い事かを口にした。
「そんな大袈裟なものではないですよ。それにまた、時間が経つと魔素が集まってくるかもしれないですし……。あ、でも、今は全く感じないので当分は大丈夫だと思いますよ。ね? エアリス」
タウロは専門家ではないのでぬか喜びをさせてもまずいと思ったのか、一応、念を押しておく。
「もう、大丈夫じゃないかしら? 私の広範囲を浄化する『大浄化』、シオンの局地的な範囲を高威力で浄化する特殊魔法『聖浄化』、そして、二つを後押しする高魔力で唱えたタウロの『浄化』。この三つで浄化できなかったら、あとは竜人族の『真聖女』マリアさんを呼んでくるしかないわ」
エアリスがそう言うと、タウロとラグーネも思い出したように、「それなら……」とラグーネが『次元回廊』を開き、タウロが『空間転移』をして消えた。
「お二人が消えましたよ!?」
門番エルフは驚くが、エアリスとシオンは慣れたもので、「すぐに戻って来るわよ」とエアリスが言うとシオンもそれに頷くのであった。
しばらくすると、事情を聴いたヴァンダイン侯爵領の守護者として過ごしていた竜人族の『真聖女』マリアがタウロに連れられて現れた。
「ここね? ──……うん。大丈夫じゃないかしら? 多分、前回ここを浄化したのって先代の竜人族の『真聖女』だったはずだから、この感じなら五百年以上は大丈夫……、あら? 何かあるみたい」
『真聖女』マリアは来るなり、エアリスに軽く手を振って、ダンジョンもどき内の様子を感じてそう批評した。
そして、一部に何か感じたのか指差す。
タウロがその指差された方向に歩いて行って、地面に落ちている黒い塊を拾い上げた。
それはどこかで見た覚えがある。
「これって、もしかして、
実際の迷宮核には全く及ばない歪な形だが、その色や雰囲気は確かに言われて見るとそんな感じがする。
「驚いた……! ここ、本当にダンジョン化しようとしていたのね」
エアリスはタウロの手の中にある迷宮核もどきを覗き込んで、呆れる。
「でも、ダンジョン化する前で良かった。あ、マリアさん、ありがとうございます」
タウロはお手数をお掛けした事をマリアに謝ると、「じゃあ、帰りますね」とマリアもあっけらかんとした態度でまた、帰っていくのであった。
マリアを送り届けて、すぐに戻ってきたタウロは、
「じゃあ、放置するわけにいかないから、これ壊しておくね」
と歪な形の迷宮核もどきをその場で破壊する事にするのであった。
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