第630話 次の自治区へ
各自治区に出した使者の返事は芳しくなかった。
連日、送った使者達が戻ってきて、報告してくれたのだが、領境の検問所で追い返されるのがほとんどで、取り付く島もない状況ばかりらしい。
その為、領境を接していない自治区などには到底足を運べないから様子も伺えない。
特にエルフ自治区は、検問所の門が固く閉ざされ、使者の口上に返事はおろか、反応もないというから、相当嫌われていると考えるべきかもしれなかった。
その報告の数々をタウロは城館の広間で聞いていた。
「……参ったなぁ。想像以上の根深さがあるね……。──でも、使者を出して訪問したい旨は伝えたから、最低限の礼儀は尽くしたという事で、あとはこちらから直接会いに行くしかないね」
タウロはエアリス達に新たな旅を示唆する。
「どこから行くの? 領境を接しているのは、ドワーフ自治区以外だとエルフ自治区、小人族自治区、蜥蜴人自治区などが大きいところみたいだけど?」
エアリスがロビンが用意した地図を覗き込んで答えた。
「ドワーフ自治区の隣にある蜥蜴人自治区でもいいけど、ここは湿地帯ばかりらしいから他の自治区に足を延ばすのに交通の便があまり良くなさそうじゃない?」
「それなら小人族自治区がいいんじゃない? ここなら、北に蜥蜴人自治区、南にエルフ自治区とダークエルフ自治区もあって問題のエルフ系自治区が近いから」
エアリスの指摘通り、地図上は、小人族自治区の立地はタウロのジーロシュガー領くらい良い場所にある。
「それは私も考えましたが、どうやらそうでもないみたいなのですよ?」
犬人族である領主代理のロビンが口を挟む。
「どういう事?」
タウロが興味を示して続きを話すように促す。
「小人族自治区は文字通り、全てが小人サイズという事で、道も建物も全て自分達にとって快適な大きさらしいなのです。その為、周辺の自治区の中心になりそうでも、他の種族にしたら、その小人サイズが不便過ぎて敬遠されている場所だとか。それに小人族は結構好戦的なので自治区内で争いも多く、今は、三つの勢力に分かれて抗争を繰り広げているようだとソウキュウさんが言っていましたのです」
「内部抗争? 何が理由で争っているのかな? 僕達でその抗争を収められたら今後の付き合い方も改善されそうだけど……」
「原因まではわからないのです。でも、現在治安はかなり悪いと思われるので避ける方が利口なようなのです」
「そうなると一番僕達に対して険悪ムードなエルフ自治区……か。確か、ドワーフ族とも犬猿の仲だったっけ?」
今は他の自治区と仲良くなり、外堀を埋めてからエルフとの交渉に入りたいと思っていたタウロは、エルフ自治区の情報をロビンに求めた。
「はい、『エルフとドワーフが同じ船に乗ると、五分で沈む』という言葉がある程なのです。さすがにこれは大袈裟な表現だと思いますが、そういう意味では、ドワーフ自治区と最初に交流を再開した事は印象的によくないかもしれないのです」
「増々駄目じゃん! ──でも、各エルフ自治区の存在はこの南西部の自治区が密集している土地の中で重要な種族の一つである事に変わりはないからね。駄目元で行ってみようか?」
タウロは決断すると、みんなに同意を求めた。
「タウロの言う通りね。失敗を恐れていては何も進まないわ」
と賛同するエアリス。
「うむ。エルフ族相手なら私も何かしら一役買えるかもしれないぞ?」
とよくわからない自信を見せるラグーネ。
「自治区がどんなところか楽しみです!」
今回でようやく自治区に行けるので元気よく答えるシオン。
「タウロ様、エルフ自治区との交流が再開できたら、あとは何とかなるのです!」
と意外にざっくりと応じるロビン。
「よし、旅の準備は出来ているし、明日の朝一番でエルフ自治区に向かうよ!」
タウロはみんなの賛同を得て、出立を決めるのであった。
そして、翌日の朝。
城館前でアンクが見送りに来ていた。
「このタイミングでエルフ自治区かよ、リーダー。俺も行きたかったが、今回は我慢だな。帰ってきた時には領兵隊を任せられる人材を育成しておくぜ!」
アンクは一緒に行けない事がとても残念そうであったが、前向きに取らえて宣言した。
「うん、領内の治安はアンクに任せたよ。──ロビンさん、ドワーフの労働者がこれから一気に増えてくると思うので、ドワーフのローガスさんとその辺の打ち合わせもよろしくお願いします」
「わかりましたのです! タウロ様も旅の安全を願っているのです!」
ロビンは元気よく答える。
「それじゃ行くよ」
タウロはそう言うとマジック収納から狼型
「がう!」
出てきた瞬間、嬉しそうにガロがタウロに頬ずりして、その場に乗り易いように身を伏せた。
タウロ一行はそのガロに次々に跨っていく。
「目指すはエルフ自治区。ガロ、よろしくね!」
タウロがお願いすると、ガロは立ち上がり「がう!」と元気よく応じて走り出す。
そして、ガロの風のような疾駆によって、タウロ達の姿はあっという間に見えなくなるのであった。
「じゃあ、俺は若人達を今日も鍛えるか!」
アンクが寂しさを振り切るように、元気よく言う。
「アンクさん、領内の治安をよろしくお願いするのです。私もタウロ様達が戻ってきた時に、さらに領内の経済が良くなっているよう頑張るのです!」
ロビンもアンクを励ますように告げる。
そして、二人は今できる事をこの日もまた、一所懸命励むのであった。
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