第629話 続・人事について

 ドワーフ自治区から戻ったタウロ達『黒金の翼』一行に、留守をしていたシオンが戻り、その代わりにアンクが、領兵隊隊長候補育成の為、一時的にチームを抜ける事になった。


 と言っても、領都にはいるし、領兵を引き連れて領内も動き回っているから、タウロ達と会えないわけでもないのだが。


 子供型自律思考人形ゴーレムセトは、引き続き、鉱山の方でロックシリーズ十体を操ってドワーフで今回鉱山長に任命したローガスを助けてもらっている。


 そして、肝心のタウロやエアリス達は領都の城館で領主代理であるロビンと共に、ブサーセン商会会長のブサーセンと面会していた。


「私が、交易所の責任者ですか?」


 ブサーセンは思いもよらない申し出に驚きの表情でポカンとしていた。


「はい。ブサーセン商会はこの領都で百年を越える老舗。他の商人達からも一目置かれて人望もありますし、ドワーフ自治区の交流再開の為に身銭を切って積極的に動いてくれていた事からも、信用に値する人物だと判断しました。どうでしょうか?」


 タウロは今回、冒険者としてではなく領主として依頼をしていたが、命令ではなくお願いなのが、タウロらしい。


「……お言葉ですが、領主様。一商会の会長が、このジーロシュガー領の交易所責任者を務めるのは今はよくても、後々弊害を生みかねないと思います。自分の商会の不利益になる動きは出来ないですし、それが、交易所の損失になる状況も生まれるかと」


「……確かに」


 タウロも本人からそう言われると、否定のしようがない。


 商人として自分の商会の利益の為に動くのはごく当然の事なのだ。


「──であるならば……。私、ソウキュウ・ブサーセンは本日をもって、ブサーセン商会の代表の座を息子ソータンに譲り、ブサーセンの名を捨てましょう。これならば、心おきなくその申し出を受ける事が出来ます」


「えー!? ブサーセンさん、流石にそこまでしてもらうわけには……」


「これからは、ソウキュウとお呼びください、領主様。このソウキュウ、このジーロシュガー領の交易所の再開とその発展の為に残りの人生を費やしていきたいと思います」


 ブサーセン会長、改めソウキュウは胸を叩くと、タウロの要請を受けるのであった。


 これにはタウロも断る理由がない。


 強いて言うなら、自分の依頼のせいで、ブサーセン商会会長を引退させる事になってしまった事であったが、


「はははっ! それは問題無いですよ。このソウキュウ、ドワーフ自治区との交流再開が果たせれば、あとを息子のソータンに任せて引退する気でいたのです。もう、私も四十八ですからな。あとは好きなように生きるつもりでいましたが、まさかこんな大役をお願いされるとは思いませんでした!」


 とソウキュウが嬉しそうに応じた。


「本当によろしいんですか?」


「もちろんです。私としては、この歳でこの領地のみんなの為に新たな役に立てる事が出来るというのは、心躍りますよ! はははっ!」


 ソウキュウは本当に嬉しそうに笑う。


「──わかりました。それでは交易所についてはソウキュウさんにお任せします。ちなみにソウキュウさん、交易所再開について、何か必要なものなどありますか?」


「まずは人ですが、それは募集をかければこの不景気だった領内です。失業していた者達がいくらでも集まるので問題ないでしょう。あとは元になる資金でしょうか?」


「それに付いては問題ありません。こちらを使用してください」


 タウロはそう言うとマジック収納から大金の入った大きな革袋をどんと机の上に置く。


「それでは遠慮なく……。──あとは、やはり、ドワーフ自治区だけでなく他の断絶している自治区との交流再開でしょうな。息子にも商人として動いてもらいますが、やはり、これは領主であるタウロ様に直接動いてもらうのが一番だと思います」


 ソウキュウは今回のドワーフ自治区との交流再開を目にして、やはり、上の者が進んで動いてくれる事で物事は大きく動くと痛感したようだ。


「──わかりました。僕もその考えだったので、その為にも各自治区に使者を送る予定です」


「あとは今始められている、各街道の整備についてでしょうか。これに最初に着手されたのはお見事ですが、今は、どこか一本に絞って整備を終わらせていくのが効率が良いかと」


「それに付いては問題ありません。一番の危険は魔物出没なので、鉱山までとドワーフ自治区、領都シュガー間の山街道の整備が終わり次第、次は、主要な自治区への道が重なっているエルフ自治区、領都シュガー間の街道整備にセトとロックシリーズを向かわせる予定です」


「それならば安心です。という事は次の交流再開相手はエルフ自治区という事でしょうか?」


 ソウキュウはタウロの次の行動を察して聞く。


「はい。その予定です。ただ、ドワーフ自治区のガスラ議長からは、エルフ自治区はうち以上に堅物だから、後回しにした方がいいかもしれない、と忠告はされましたけどね」


 タウロは苦笑すると答えた。


「確かに、そう言われるのも仕方がないかもしれないですな。前領主ルネスク伯爵は唯一エルフ自治区だけを必要以上に優遇して他と差別化していたのですが、そのせいでエルフ自治区は伯爵と裏で結んで俺達を見下している! と感じた自治区も少なくなく、そのせいで無用な恨みを買ったエルフは自治区に引っ込んでしまいました。そのせいでうちはおろか他の自治区とも現在、交流を断っているのが現状です」


「それは根が深そうですね……」


 タウロはロビンからも話は何となく聞いていたのだが、現地の人間から具体的に聞くと交渉の余地があるのか想像がつかない。


「どちらにせよ、全てはまず一歩からですよ。私は早速、交易所再開作業に取り掛かりますので、こちらはお任せください。──それでは」


 ソウキュウはそう告げると、足早に城館をあとにするのであった。


「あ、ロビンさん。冒険者ギルドシュガー支部の支部長を呼んで今後の連携について話し合いをしたいのですがいいですか?」


「冒険者ギルドと、なのです?」


 ロビンは何の連携かわからなくて首を捻る。


「ええ。ここは各自治区や王家直轄地である秘境特区と境界線を接している土地。現在、領兵隊の育成にアンクが一生懸命頑張ってくれていますが、その領兵隊も活躍の場は領都や、村々での人相手が一番の仕事です。それに対し領内にはびこる魔物退治の専門家は冒険者。つまり、各地へ繋がる街道の治安には冒険者ギルドの力が必要になります。ですからこちらが援助金を出してこの地に冒険者を呼び戻すサポートをしたいと思います」


「わかりましたなのです! 早速、支部長を呼んで具体的な話をするのです!」


 ロビンはすぐに使用人に命じて動き出す。


「他にもやる事は多いけど……。あとは僕が各自治区に行って頭を下げる事だよね?」


 後ろで控えるエアリス達に話を振る。


「領内は街道整備と交易所再開で物が動きやすくなって、経済も少しは回るから良いとして……、鉱山も稼働するし、治安維持の為の案も今の通り。……そうね、あとはやっぱり各自治区との交流再開で人と物の流れをより活発にする事かしら?」


 エアリスはロビンが資金不足で中々出来なかった部分をタウロが可能にしたので、今後やるべき事について指摘する。


「うん。それじゃ、次は、出してある使者からの報告を待って、各自治区に訪問だね」


 タウロはエアリスの言葉で頭の中を整理すると、次やるべき事を定めるのであった。

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