第548話 新参チームの実力

 タウロ達『黒金の翼』に対抗意識を持つ『銀の双魔士』の実力を見せつけられた形の六日目であったが、その後、山中で野営するも魔物に襲われる事なく一夜を過ごした。


「驚いたな。アンタス山脈地帯の魔物は強力なものが多いから、多少の結界魔法では怖気づく事なく結界内に入ってくる事も多いのだが、昨晩はそれが全くなかった。君らの結界師は相当優秀だな」


 今回の雇い主でもあるA-チーム『青の雷獣』のリーダー・ジャックが、タウロに声を掛けるとエアリスを高評価した。


「エアリスは魔法、治癒、結界、全てにおいて秀でているうちの後衛の要ですから」


 タウロは誇れる仲間が褒められた事に素直に喜んで自慢したのだが、それはラグーネ達から見ると彼女自慢に映った。


「ヒュー!リーダーも彼女自慢するようになったか」


 アンクがタウロの後ろで口笛を吹いて茶化す。


「ちょっと、アンク。タウロは正当な評価に答えただけでしょ!」


 エアリスが茶化すアンクに軽く怒る素振りを見せた。


 それは照れ隠しであり、ラグーネとシオンはその事にすぐに気づいたが、そこは指摘しないでおいた。


「とにかくうちのエアリスをはじめ、みんなとても頼りになるんです」


 タウロは茶化すアンク、怒るエアリスに苦笑しながら答えた。


「はははっ、そうか!優秀な仲間は自慢だよな。うちもそうだ」


 ジャックは緊張感はないが、雰囲気の良いタウロのチームに感心するのであった。


 そして、続ける。


「それでは荷物をまとめて今日も目的地に向けて進もう。ここからはさらに道中が険しくなる。普通の冒険者達は近づかない奥地だ。魔物もBランク帯討伐対象がうようよいるし、場合によってはAランク帯の魔物もいるかもしれない。さすがにそのレベルは俺達も一度しか遭遇していないが、十分気を付けてくれ」


 ジャックは緊張感を持たせようと、全員に警告した。


『銀の双魔士』の面々は荷物をまとめる手を止めて、その話につばを飲み込んで聞き入ると、緊張する。


 タウロ達一行は強力な魔物との場数を踏んでいる分、それほどの緊張感は見せておらず、その分、歴戦の冒険者の持つ独特な雰囲気を漂わせていたから、その空気感に『青の雷獣』のメンバーは、密かに感心した。


 彼らはこのレベルの経験をすでに体験済みという油断のない佇まいだな。


 リーダーのジャックもそう内心で評価する。


 そして、全員の様子を見て、


「出発するぞ」


 とこの日の旅程を進める事にするのであった。



「ジャックさん、この先、登り切ったところの森に、魔物発見。あちらが風下なので、こっちにはすでに気づいているようです」


 タウロは『真眼』と『気配察知』の組み合わせで誰よりもいち早く気づいてリーダーのジャックに報告した。


「!? ……そうなのか? ──良く気づいたな……。俺の『索敵』には、まだ、かからないんだが……」


 ジャックはタウロの報告に驚くと、同じく索敵系能力を持つ『銀の双魔士』の野伏スキル持ちのブーダーに視線を向ける。


 この二チームは何度も一緒にクエストをこなしているので、お互いのスキルについて熟知しているのだ。


 ブーダーもまだ自分の索敵には何も引っ掛からないとばかりに、ジャックに首を振る。


「どうします?一応、『銀の双魔士』のリーダー・ジェマさんから、次の獲物は僕達が仕留める事になっていますが、仕留めて良いですか?」


 タウロは二人の半信半疑の反応に触れることなく聞き返す。


 こういうのは、実際に確認しないと信じてもらえないだろうから、うちが仕留めるしかない。


「……ああ、わかった。それでは頼む」


 ジャックは危険地帯に入ったばかりだし、B-チームの『黒金の翼』任せても大丈夫かと考えて了承した。


「アンク、ラグーネ前衛お願い。相手は多分シルエットからマンティコア一体。『気配遮断』も使用しているみたいだから、接近には気を付けて」


 タウロはジャック達の索敵系能力に引っ掛かっていない事からそう判断して指示した。


「ま、マンティコアだと!?」


 ジャックはタウロの言葉に驚いて聞き返した。


 マンティコアとは顔と耳は人間の男そのものだが皮膚は赤く、三列の歯が櫛の歯のように並んで生えており、目は赤い。


 獅子の胴体にサソリの尻尾を持つ、B+以上の複数チームでの討伐が推奨される強力な魔物である。


 つまり、A-チームの『青の雷獣』でもチーム単体で相手をするのはかなり大変な相手だ。


「あ、こちらに向かって来てる!みんな、行くよ!」


 タウロはジャックの驚きの反応に答えている暇もなくなり、エアリス達に声を掛けると、マジック収納からアルテミスの弓を取り出した。


 そして、『聖闇の矢』とつぶやくとタウロの右手に黒い光に包まれた一本の矢が現れる。


 それを弓につがえるとすぐさま前方の森に向かって放つ。


 その矢のスピードはまさに黒い一筋の光で、一瞬で森の中に吸い込まれて行く。


 タウロは、その『聖闇の矢』を立て続けに三本森の奥に放っていった。


「ぎゃー!」


 森の奥から人間の男の声と思われる声が響き、その一帯の木々から鳥が驚いて飛び立つ。


「ラグーネ、魔法来るよ!」


 タウロが仲間に警告する。


 ラグーネは無言で自慢の『鏡面魔亀製長方盾』をマジック収納から取り出し、前面に構えた。


 そして、盾に魔力を込め、いつもの『範囲防御』と、『魔法反射』を展開した。


 そこへ森の中から土魔法『岩槍』が無数に飛んでくる。


 それをラグーネが盾の能力で弾き飛ばしていると、その後ろに隠れるように待機していたアンクとシオンが、魔法の合間を縫って前に飛び出していく。


 エアリスはすでに全員に各身体強化魔法と、土魔法耐性魔法を続けざまに掛けている。


 アンクとシオンが、森の奥に突っ込んでいくと、そこには右目と前足、サソリの尾を負傷したマンティコアがいた。


 二人はそれを確認すると左右に分かれる。


 マンティコアはその動きに正面から視線を外し、アンクに頭部を、シオンにはサソリの尻尾を向けて警戒し、すぐに牽制用だろうか、無数の土魔法『石礫』をアンクの方に放つ。


 アンクは風のような素早い動きで次の瞬間にはその場におらず、常に動いてマンティコアの気を自分に向けさせる。


 そこにシオンが、サソリの尻尾の警戒網を掻い潜り、マンティコアの懐に飛び込むとその自慢の『相対乃魔籠手』による攻撃を繰り出す。


 マンティコアは、その攻撃を間一髪、ジャンプして躱した。


 だが、そこにその隙を待っていたとばかりに、冷たい光を放つ鋭い矢が空中でマンティコアを捕らえた。


 タウロの新技『極光の矢』である。


 その魔力を最小限に抑えた矢はマンティコアの硬い皮膚に深々と突き刺ささって心臓の数センチ手前まで迫って止まった。


 そこに、同じタイミングで放たれた思われるエアリスの雷魔法『雷針撃』がピンポイントでその矢に吸い込まれて行く。


 一瞬の閃光と共に、マンティコアは空中で動きを止めると、力を失い地面に落下した。


 そこに、アンクとシオンが油断せず距離を詰めるが、マンティコアはすでに絶命しているのであった。

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