第549話 力の温存
タウロとエアリスは視界を遮る森の茂みを挟んでマンティコアを仕留めた為、『青の雷獣』と『銀の双魔士』の二チームからは、あまり何が起きているのかわからなかった。
いや、厳密には森の奥にいる魔物と戦っているようだという事は伝わってきた。
実際、槍使いと思われる盾持ちの美女が茂みの奥から飛んできた土の攻撃魔法を未然に防いだし、大剣使いと僧侶戦士の少女が奥に飛び込んでいった。
そこに、少年リーダーのタウロが茂みの奥に矢を放ち、それにタイミングを合わせるように、美女のエアリスが雷魔法を使用する。
だが、『青の雷獣』のリーダー・ジャックの目算ではマンティコア相手だとまだ、攻撃としては弱いと思った。
なにしろ相手はB+以上の実力を求められる魔物である。
皮膚も硬いし、生半可な魔法攻撃では弾かれるのだ。
だから、タウロの放った『極光の矢』とやらは、そのマンティコアを仕留めるには微妙に思えたし、エアリスの魔法は鋭さはあっても、止めを刺すには威力が足りない気がしたのである。
だから、タウロが一言、
「仕留めました」
という報告には、耳を疑った。
それで居てもたってもいられず、仲間と共に確認の為に森の奥へと走り出していた。
茂みをかき分けて奥に行くと、先に着いたラグーネ、切り込んでいったアンクとシオンが魔物の解体をすでに行っていた。
「……確かに、マンティコアだ……。──ちょっといいかい?」
リーダーのジャックは他の仲間と興味深げにマンティコアの死因を確認する。
「ジャック、これは右目と前足、サソリの尾の負傷は軽微だ。死因は心臓辺りに刺さっているタウロ殿が放った矢か? いや、少し浅い……それに、この焦げ目……、あのお嬢ちゃんが放った雷魔法だ……! ──という事は、ギリギリのところで仕留められたという事か?」
『青の雷獣』の戦斧使い、アックがマンティコアの心臓辺りを確認して事細かに分析した。
「実に精密で無駄のない仕留め方だ。ギリギリで仕留めたと言えば、聞こえが悪いが、彼らの場合、チームの連携でわざとギリギリの力で仕留めて見せた、という感じがするな」
「それに雷魔法をピンポイントで仲間が放った矢に合わせて放つ芸当なんて私には出来ないわ……」
『青の雷獣』魔法使いボマーヌがエアリスの精密で魔力操作が巧みな魔法に感心して驚いた。
そこに、タウロとエアリスがやって来た。
「アンク、解体はみんなを待たせるから、野営の時でいいよ。あとは僕がマジック収納に入れておくから」
タウロはマンティコアを仕留めた事については誇るでもなく、みんなでの連携プレーのお陰だから当然とばかりにマンティコアに歩み寄って、マジック収納に入れる。
そして、
「みんなお疲れ様、アンクもシオンも標的の気を散らしてくれてありがとう。ラグーネも敵の先制打を上手くいなしてくれたから、僕とエアリスで力を抑えて仕留められたよ。今回のテーマ通りだね」
と仲間を褒めた。
「テーマ?」
リーダーのジャックがこのBランク帯で新参であるはずのチームリーダータウロの言葉に引っ掛かって仲間達の疑問を代弁するように聞いてみた。
「はい。ジャックさん達の力の温存はもちろんの事、僕達も浪費を避けて温存できる戦い方を心掛ける事がテーマです」
「つまり……、実力的にギリギリだから上手く立ち回って勝利したのではなく、本当にギリギリの能力で勝利してみせた、と……?」
ジャックが目を見開き、愕然としながら聞く。
「うーん……。まあ、そんな感じであってると思います」
タウロは語弊がないか少し考え込んでから、ジャックの言葉に頷いて見せた。
「う、嘘よ!」
あまりの手際と、強敵であるはずのマンティコア討伐で浮かれていないタウロ達に色んな意味で呆然としていた『銀の双魔士』のリーダー双子の姉ジェマが、思わずそう漏らした。
「嘘?」
タウロはその指摘に首を傾げる。
「ただのまぐれよ! それを私達の前だからって、さも、最初から実力温存して戦ったように話しているだけだわ!そもそも、見えない奥の茂みに矢を放って心臓に当てるのだって難しいし、当たると信じて魔法を矢の
ジェマは支離滅裂な事を言い始めた。
どちらかと言うと、まぐれでその二つの事を行う方が、ほぼ不可能である。
狙ってやったと言う方が、信憑性があると思えるところだろう。
それがいかに困難な技であってもだ。
「……ジェマ、落ち着いて。おかしな事を言ってる」
そんな錯乱状態に近い批判をする姉ジェマを、双子の妹のジェミスが落ち着かせる為に止めた。
「なんでよ! ジェミスまでこいつらを庇うの!?」
姉ジェマは興奮気味であったが、
「ジェマ、落ち着け。俺達『青の雷獣』から見ても、マンティコアはまぐれでどうこう出来る相手じゃないのはわかる。彼らの実力は本物だ」
ジャックの擁護にさすがにジェマも何も言い返せなくなった。
そして、落ち着きを少し取り戻したのか、
「……わかったわよ。今回のクエストに相応しいチームという事くらいは、認めるわよ……」
と答えるとプイッと振り返って表情を隠した。
『気配察知』から、悔しい気配が伝わってくるが、悪意はないようだ。
タウロはそれを確認すると、多くを語らず、ジャックに「先を急ぎましょう」と提案するのであった。
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