第546話 地元の若手一流冒険者

 その日の朝。


 スウェンの街の東門にA-チーム『青の雷獣』をはじめとし、地元の若い人気B-チーム『銀の双魔士』、そして見かけないが噂で有名になっていた偽者冒険者チームを討伐した事で街では名前だけは知られているB-チーム『黒金の翼』という冒険者ギルドの贅沢な三チームが集まっていたので、朝早くからクエストに行く他の冒険者達の注目の的になっていた。


「『青の雷獣』のリーダー・ジャックさんだ……! 久しぶりに見たけど、やっぱりオーラが違うな……!」


「地元の若手の出世頭、双子のジェマとジェミス姉妹率いる『銀の双魔士』もいるぞ。豪華メンバーだな」


「そして、残るあっちが、『黒金の翼』の本物の方のチームか。偽者チームの方が強そうに見えたが大丈夫か? 子供が二人も混じっているぞ?」


「……どちらにせよ、豪華メンバーで今からクエストに向かうのか。どんなクエストだろうな?」


「完了報告後に情報が出て来るだろう、上級クエストとはそういうもんだ」


「そうなのか……。かっけぇー! かたや俺達は薬草採取のFランクかぁ。早くあそこまで上り詰めたいな!」


 一般の冒険者達にとって、上級冒険者はひと握りの成功を掴んだ者達であるから、上を諦めたベテランから初心者まで、その姿は眩しく映るのであった。



「今日は朝早くから他の冒険者が多いな。目立つから目的地に向かいながら詳しい事を話そう」


『青の雷獣』のリーダー・ジャックは、目立つ事で自分達が発見した古代遺跡の情報が洩れる事を危惧したのか、全員揃うと早々に出発を促した。


『銀の双魔士』もタウロ達『黒金の翼』もその提案に頷く。


 三チームは小走りに東門を離れ、人気がない道に入ると速度を落とし、アンタス山脈地帯方面に向かう。


「ここから目的地までは早くて約十日だ。場所はまだ詳しくは言わない。まず、君らのチームには依頼通り、現地での俺達チームの支援を中心に頼みたい。古代遺跡はダンジョンではないが、洞窟を抜けた地下の奥にあるから、出来るだけ俺達はそこに到着するまで力を温存しておきたい。何しろ本命は到着した先にいるからな」


『青の雷獣』のリーダー・ジャックが今回の仕事内容一部、全員に告げた。


「本命?」


『銀の双魔士』のリーダー・ジェマが、聞き返した。


「ああ。古代遺跡にはそれを守る守護者がいる。前回発見した時には、こちらもアイテムの類から体力、魔力ともにカツカツだったからな。戦わずに引き返してきた。だから今回は君らの力を借りて遺跡まで力を温存した状態で辿りつき、守護者討伐に全力を注ぐつもりだ。だから、君達には支援を頼んだんだ」


「……なるほど。了解です。それでは道中に遭遇する可能性のある強力な魔物、地下で遭遇した魔物について簡単に教えてもらっていいですか?僕らはこの地に来たばかりなのであまり詳しくありませんから」


 タウロが『青の雷獣』のリーダー・ジャックに聞く。


「道中の魔物くらい聞かなくても上手く対応するのが、一流冒険者ってものよ?」


『銀の双魔士』のリーダージェマが、ジャックが答える前に、タウロを挑発するように指摘した。


 ジェマは双子で無口なジェミスの代わりに代弁しているところもあり、ジェマの意見に賛同とばかりにジェミスは傍で頷いている。


「無駄な動きで体力や魔力を余計に消費をするより、効率よく倒して本命までジャックさん達を送り届ける方が良いと思うのですが?」


 タウロは挑発には乗らず、冷静に答えた。


 エアリス達もジェマ達の挑発には、若いなぁ、と言わんばかりの温かい目で見つめている。


 双子のジェマ、ジェミスは若いと言っても十九歳で、他のメンバーの片手剣兼盾役のジミンと、野伏で薬師も兼ねているブーダーは、二十代後半でアンクと同年代だ。


 それでもBランク帯冒険者として平均年齢は低い方である。


 そもそも、タウロ達『黒金の翼』のメンバーが若すぎるのだ。


 タウロとシオンの二人は十五歳でまだ未成年、エアリスは十七歳、ラグーネは二十歳、アンクのみがBランク帯の脂の乗った年代の二十八歳で上級冒険者という雰囲気であった。


 だが、リーダーのタウロは名誉子爵持ちだし、エアリス達全員も称号持ちだから、同じB-チームであっても全然格が違う。


 A-チームのリーダー・ジャックでさえ、貴族位はもちろん、称号さえ持っていないのだ。


 しかし、チーム『銀の双魔士』は偽者の方の『黒金の翼』と意気投合していた事もあるし、スウェンの街の冒険者ギルドでは一番注目の若手チームという自負もあるから本物の『黒金の翼』については、どこまでも気に入らないのであった。


 ジェマはタウロの当然な回答に歯ぎしりすると、「ふん!」と鼻息を鳴らすとチームごと、距離を取る。


 離れ際に片手剣盾役のジミンが申し訳なさそうに頭を下げるのが印象的であった。


「……まぁ、無理にとは言わんが、これも仕事だ。現場で問題にならない程度には、仲良くしてくれ」


『青の雷獣』のリーダー・ジャックが苦笑してタウロに言う。


「ははは……。僕達は何もしていないんですけどね」


 タウロもジャックに釣られ、苦笑して応じる。


「あの双子は地元でずっと双子の天才魔法使いとしてちやほやされてきたからな。それに街の最年少一流冒険者だったから、君らの登場は嫉妬の対象なんだろう。まあ、実戦になったらきっちりと仕事はこなしてくれるから安心してくれ。──それでさっきの質問だが──」


 ジャックはそう言うと、タウロの質問であった道中遭遇が予想される強力な魔物や地下で戦った魔物について歩きながら説明を始める。


 時折、リーダー・ジャックの説明を補足するようにメンバーの森の神官フォレスが間に入って付け足す。


 それにまた、タウロやエアリスが質問するという形で、道中を進む事になるのであった。

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