第535話 本物と偽者(3)
タウロ一行は手分けしてボーダの街のタウロ(偽者)一行の情報を集める事にした。
そこで最初、冒険者が利用する宿屋を数軒しらみつぶしに当たってみたが空振りであった。
しかし、タウロはエアリスと二人、そこに泊まる冒険者に念の為聞いてみると、一番高い宿屋に泊まっているのではという話を聞いた。
「この街で一番高い宿屋は、街長邸近くにある『ボッターク亭』だろ。ジーロシュガー名誉子爵レベルならあそこだと思うぜ」
冒険者は目深に被ったフード越しにそう答えると部屋に戻っていく。
「僕のお金で高級宿屋に宿泊か……。──エアリス、みんなと合流して、『ボッターク亭』に向かおう」
タウロはエアリスと頷くと、他の宿屋を探しているラグーネ達と合流すべく一旦ギルドへと戻るのであった。
「……あれは、多分本物のタウロ・ジーロシュガーだ……!」
先程、タウロに『ボッターク亭』を教えた冒険者は急いで宿屋の二階に上がると、その一室に飛び込んだ。
「不味いぞ!俺達を探している冒険者チームがいる。それも多分、本物の『黒金の翼』の連中だ!」
男は室内で地図を広げて考えこむ姿勢を取っていた他の男に知らせた。
「どういう事だ?本物はこの一年以上消息不明のはずだろう?」
「その一年以上前のバリエーラ公爵領で聖女拉致作戦の時に戦った子供そっくりの奴が、俺達を探していたんだよ。俺はあの時の数少ない生き残りだからな、顔は覚えている」
フード目深に被っていた冒険者の男は、そのフードを外して額に傷の入った面を焦った様子で晒した。
「……荷物をまとめろ、ここを出るぞ。──タウロ(偽者)は今、どこだ?」
地図を見ていた男は今回の肝心要である『魅了』持ちのタウロ(偽者)居場所を確認した。
「今、外出中で他の三人と一緒のはずだが……」
額傷の男は答えると同時に丁度、そのタウロ(偽者)の声が階下から聞こえて来た。
「次のクエストで一緒する時はまたよろしくね」
タウロ(偽者)は階段横ですれ違った冒険者チームに愛想よく応じて声を掛けていた。
「タウロ、急な用だ。早く部屋に上がって来ててくれ」
額傷の男は階下のタウロ(偽者)一行に二階から声を掛ける。
「……どうした?」
タウロ(偽者)ではなく、一緒にいたフードの男の一人が額傷の男の緊張感のある声に何か察して素早く階段を駆け上がると、誰にも聞こえないように聞き返す。
「……本物が現れた。アルファがここを今すぐ出ると言っている」
「!──了解した。タウロ、撤収だ」
「えー、何で?僕、疲れたから少し休みたいのに!」
タウロ(偽者)は、緊張感のない返事をするが、他の五人は隣接する自分の部屋に戻ると数分で荷物をまとめて出る準備をした。
タウロ(偽者)はマジック収納持ちなのか、急かされると一瞬で荷物を収納する。
「アルファ、これからどうする?一旦、国境を越えて北に戻り、間者の報告を待つ方が良いかもしれないぞ」
「……タウロは北に戻すが、我々は引き続きこちらで情報収集だ。本物が現れたならこちらで始末する手もある」
「……当時の隊長も討ち取った相手だぞ?」
額傷の男はアルファと呼ばれた男にその難しさを質問する。
「その情報は聞いている。だが、あちらも瀕死だったのだろう?ならば今の我々はあちらの情報も把握している以上、負ける要素がない」
アルファは不敵な笑みを浮かべた。
「……わかった。俺も当時の仲間の仇は取りたいと思っていたからな。──では、タウロを護衛して国境に向かおう」
額傷の男はアルファに賛同すると、一同は宿屋を出るのであった。
「……やっぱり、あの冒険者さん嘘ついていたのか」
タウロは先程訪れた宿屋の出入り口を一望できる塔の上から能力『真眼』で見つめていた。
『竜の穴』での修行で『真眼』の一部が目覚め、遠くを見る事が出来る『鷹の目』のような働きをするようになっていたのだ。
「傍にちゃんと偽者がいるわ。タウロの予想通りね」
エアリスも見えているのか、感じているのかわからないが、タウロ(偽者)を確認している様子だ。
「ラグーネ達はどう?」
「すでに城門を出て国境検問所に向かっているわ」
「よし、じゃあ、僕達も向かおうか」
タウロはそう答えると、北の城門に小走りで向かうタウロ(偽者)一行を追うべく、塔から降りて走るのであった。
国境検問所手前の道。
「……アルファ、この先にいる三人、『黒金の翼』のメンバーだ」
遠視の出来る額傷の男が先頭を歩くアルファに、警告した。
「……先を読まれたか。……一旦引き返すぞ。検問所付近で揉めたら、すぐには出られなくなる可能性が高い。ここは避けて、他の国境検問所から出るしかない」
アルファがいち早く決断すると、タウロ(偽者)の腕を掴んで道を左折する。
「それはもう遅いと思う」
アルファと偽タウロの傍で、声が聞こえた。
「!?」
アルファはタウロ(偽者)の腕を離してその場から距離を取る。
他のメンバーも同じように、飛び退った。
「──これで偽者は確保」
という声と共に、その場にタウロとエアリスが現れた。
まるで、前世の映画のステルス性能を持つ宇宙人の登場シーンのようであった。
これはもちろん、タウロの魔法であり、二人までなら一緒に消える事が出来るようになったのだ。
タウロの腕は偽者のタウロの腕を掴んでいる。
「だ、誰だ、お前!僕はジーロシュガー名誉子爵だぞ!?この手を離せ!」
タウロ(偽者)は突然現れて自分の腕を掴んで離さない少年と綺麗な若い女性に名を名乗った。
「それは偶然だね。お初にお目にかかります、名誉子爵殿。実は僕もタウロ・ジーロシュガーって言うんだ、よろしくね?」
タウロはニッコリと笑顔で偽者に答えると、腕が立つであろう他の偽者メンバーを警戒するように一瞥するのであった。
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