第536話 本物と偽者(4)

 タウロは偽者一行に自己紹介をしてみせた。


 それに対して大慌てで驚く偽者のタウロ以外のリアクションは薄い。


「アルファ!助けろ!」


 偽物のタウロは、タウロの腕に力強く掴まれて振り切れないので仲間に助けを求める。


 するとタウロは偽者の足を蹴って払うとその場に倒し、あっという間に腕を縛り上げて拘束した。


 アルファ達は一緒にいるエアリスが威圧して警戒するのでそれに対して、隙を見つけられず動けない。


「……それじゃあ、うるさい偽者は拘束できたから後は君達だけど……。強そうだね。あ、君達、皇帝直下の精鋭部隊である『金獅子』の人達かな?」


「……」


 タウロの言葉にアルファ達は沈黙を守る。


「あ、図星かな?──そう言えばそっちの額に傷のある人、宰相領で聖女を誘拐しようとした時にいたうちの一人だよね?という事は、正解かぁ」


 タウロは時間稼ぎと駆け引きを踏まえてアルファ達を煽った。


「『金獅子』?はははっ!そんな馬鹿な。帝国国民の僕でもそんなもの御伽噺だとわかっているような伝説の話だよ?」


 縛り上げられ、タウロの足元に転がっているタウロ(偽者)はタウロ(本物)の言う事をあざ笑った。


「……なるほど。この偽者さんは、みなさんの正体を知らないまま利用されていたわけですか。この人の能力の『魅了』が目的だったんですね」


「……」


 アルファ達は否定も肯定もしない。


「……アルファ、ベータ、ガンマ、デルタ、シータ、何で言い返さないのさ?……『金獅子』なんて聞いてないよ?……帝国諜報機関『109』の人間じゃないの?」


 タウロ(偽者)は、聞かれてもいない事を不安に駆られてべらべらと口にしてしまう。


「モテオ、それ以上しゃべるな。想定外だが……、──全員、ここで本物を仕留めれば後が楽だ。……やるぞ」


 アルファが剣を構えてタウロの偽者のコードネームで呼び止めると、メンバーに合図を送る。


 そう告げた瞬間、タウロにアルファと額傷の男ベータ、そして、ガンマが襲い掛かった。


 デルタと女性のシータの二人はエアリスに襲い掛かる。


 タウロは小剣『タウロ改』をそれに合わせて抜き放ち、小剣に魔力を込めて長剣並みの長さになる光の剣でリーダーと思われるアルファを仕留めるべく斬った。


 アルファはその光の剣の間合いを間一髪で躱して後方に飛び退る。


 その間にベータとガンマがタウロの左右から肉薄して、タウロに剣を突き立てようとした。


 しかし、左側のガンマの攻撃は擬態化していたスライムエンペラーのぺらが難なく防ぎ、右側の額傷のベータはタウロの光の剣の返す刃で握りしめた剣ごと真っ二つにしていた。


「剣ごと……だと!?」


 額傷のベータは唖然としてそうつぶやくと絶命する。


 エアリスの方はというと、黒壇の杖の先端から伸びる光の槍で飛び掛かるデルタを串刺しにして、その返す柄の部分でシータを殴りつけて吹き飛ばしていた。


「ば、馬鹿な……。我らの攻撃を回避するどころか無傷で逆に仕留めるとは……!」


 アルファは先程までの冷静な姿から一転、歯ぎしりして悔しがった。


「これで、あなたとそちらのガンマさん?だけですよ。降伏してください」


 タウロが二対二なら負けないとばかりに降伏勧告をした。


「甘く見られたものだ……。確かに事前の情報とは比べものにならない動きに驚いたが、こちらも引けないのでな。刺し違えてでも、ここで仕留める!」


 アルファがガンマと視線を交わして頷くと、それだけで何をやろうとしているのかお互い理解し、懐に手を突っ込み小瓶を取り出した。


 そこへ良いタイミングでラグーネとアンク、シオンが合流する。


「これで五対二です、もう、無理ですよ。諦めてください」


「「黙れ!」」


 アルファとガンマは否定すると小瓶の中身を飲み干す。


 するとどうだろう。


「「うぉー!」」


 という雄叫びを上げると、アルファとガンマの姿が見る見るうちに人外の者に変貌していく。


 着ていた鎧を引き千切り服も大きくなる体に耐えられず破れる。


「「ガァーーー!」」


 二人は苦しそうな叫び声を上げると、完全に人の原形をとどめていないドラゴンの姿に変身するのであった。


「これは予想を超える事態なんだけど……!」


 タウロは対峙するアルファドラゴン相手に少し動揺する。


「まるで北の竜人族の変身みたいだわ」


 エアリスは過去に見た変身シーンを思い出してそれを口にした。


「それは違うぞ、エアリス。こんな小さい下級のドラゴンにはさすがの北の竜人族でも変身しないって!」


 ラグーネはエアリスの言葉に冷静なツッコミを入れる。


「どちらにせよ、いきなりドラゴン退治かよ!」


 アンクが、大魔剣を構えて人の二倍はある大きさのドラゴン二体に対峙した。


「この人達は正気はあるんでしょうか?」


 シオンも冷静にこのドラゴンたちを相手に何気に冷静である。


「目を見る限り……、正気はなさそう」


 タウロはがそう結論付けた瞬間、アルファドラゴンが素早い動きで噛みついてきた。


 タウロはそのタイミングに合わせて横にかわしながら光の剣を首に振るう。


 すると魔力のこもったものには耐性があるのか甲高い音と共に弾いた。


「みんな気を付けて、魔法耐性持ちだよ!」


 タウロはそう判断すると、


「ぺら!」


 と肩の上に乗っているぺらに声を掛ける。


 それだけでぺらは意志を汲んで、光の剣を引っ込めた『タウロ改』を覆うように擬態した。


 それはまさに黒い刃を模した剣である。


「それじゃあ、みんな。そっちのドラゴンは任せたよ!」


 タウロはガンマ・ドラゴンはラグーネ達に任せて、自らとエアリスはアルファ・ドラゴンに対するのであった。

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