第532話 国境の大きな街

 タウロ達一行は、軍事施設にある宿泊所で一泊すると、朝一番でスウェンの街を目指して出立した。


 その時には将軍自ら見送ってくれたので少し恐縮するところではあったが、それはあちらもある意味同じだっただろう。


 なにしろタウロは国王自らが叙爵した人物だし、肩書きも十分であったから、名誉伯爵持ちの将軍にとっても自分の首が飛んでもおかしくない状況であり、気を使うところである。


 そんな軍関係者からかなり気を使われながら見送られたタウロ一行は、昼過ぎにはスウェン伯爵領の領境に到着した。


 そこにはすぐにスウェン伯爵側の検問所があり、軍関係者は嫌がらせと思えるほどにしつこく荷物のチェックをされていた。


「上級冒険者か。軍関係者以外でこちら側から来るのは珍しいな。通って良いぞ」


 領兵がタウロ達の身分をBランク帯冒険者の証である白金のタグをチラッと見て確認すると、簡単に通過させた。


 タウロは軍関係者の扱いとは全く違う呆気ないチェックに少し驚いたが、ありがたく通らせてもらった。


「スウェン伯爵って、本当に将軍とは仲が悪いんだね……」


 タウロは検問所から離れた辺りでようやくそう漏らした。


「ここまであからさまな扱いだとわかり易いな」


 アンクも苦笑する。


「利害の絡む領境を挟んでいる貴族同士なんて普通こんなものよ?北部国境線は帝国との緊張状態があるからその分、ちょっとピリピリしているとは思うけどね」


 エアリスが貴族側としての感想を漏らした。


「ははは……。名誉貴族で良かったかも……」


 タウロが当初貰う予定であったサイーシの領地は旧ハラグーラ侯爵領と接していたから、もしもと考えると苦笑するしかないのであった。



 タウロ一行は、途中の村で一泊した後、翌日の昼にはスウェンの街に到着した。


「久しぶりに大きな街に来たな」


 ラグーネが城門を越えて中に入るとそう感想を漏らした。


 ラグーネの感想はもっともで、王都以来大きな街は一年くらい振りである。


「伯爵クラスの街にしては大きいわね」


 エアリスは侯爵令嬢としてちょっと対抗意識を燃やしてそう評価した。


「そうですね。でも、ボクは竜人族の村くらいの大きさが一番落ち着きます。……くっ、生きる!」


 シオンは感想を漏らしながらもふと『竜の穴』での修行期間を思い出したのだろう思わずいつもの口癖が飛び出た。


「竜人族の村も十分大きいし、色んなものの品揃えで言うとあっちの方が段違いで便利だぞ?」


 アンクが、シオンの頭を軽く叩いて、比べる対象が悪いとばかりに指摘する。


「はははっ、竜人族の村は別格だから。でも、この街も十分大きいよ。城壁も高いし、途中の村も柵を張り巡らし、警戒態勢十分だった事からも国境線の領地という感じだね」


 タウロはそう感想をまとめると、冒険者ギルドに向かう。


 冒険者ギルド・スウェン支部は、特徴的である青い屋根以外では、広い敷地に囲まれた今までに見た事がない作りであった。


 敷地も柵に囲まれ、街の中に小さい砦があるような作りだ。


「……物々しいね」


 タウロの感想がそれであった。


 ギルド建物内に入ると、そこはいつもの冒険者ギルドだった。


 一行は何となくその雰囲気から安心感を持って受付に行く。


「すみません。他所から来たので活動申請お願いします」


 タウロはチームを代表してタグを見せて手続きを始める。


「はーい!ようこそ、スウェン支部へ!それでは代表者のタグをお預かりします。──あれ?え……、タウロ・ジーロシュガー様?」


 受付嬢はタウロのタグを魔道具に通して身元確認し、言葉に詰まった。


 受付嬢は再度確認の為、魔道具に何度もタグを読み込ませるが、答えは一緒だ。


「タウロ様、一度奥で再度確認させてもらってよろしいでしょうか?」


 受付嬢は緊張した面持ちで、タウロ一行を奥に案内する姿勢を見せる。


 そこにエアリスがタウロの裾を掴んで一言、


「タウロ」


 と声を掛けた。


「……了解。──奥で確認ですね、わかりました。あ、その前にちょっといいですか?──支部全体の状態異常を回復させます。『状態異常回復』魔法!」


 タウロは受付嬢の後を付いて行く姿勢を見せながら、支部に居た冒険者達の多くに掛かっていると思われる状態異常を解く為に魔法を唱えた。


「何を!?」


 受付嬢はタウロの行為に警戒した。


「すみません。ちょっと複数の方の状態異常が気になったので」


 タウロは大した事がなかったように答えると受付嬢の案内に続く。


「……こちらです」


 受付嬢が通された場所は、上級冒険者が集う特別室であった。


 タウロ達も上級冒険者だから当然の扱いだが、今回は、上級冒険者だからこそ、他の上級冒険者のいる場所に案内する事でタウロ達怪しい冒険者を逃げられないようにする意図が最初はあったと思われる。


 だから、タウロが事前に『状態異常回復』魔法を唱えたのはこれを見越してであった。


 そう、この支部の多くの冒険者、職員の多くは、誰かの能力である『魅了』による影響を受けていたのだ。


「……みなさんの身元を詳しく調べる必要がありますので、上位鑑定士による鑑定を受けてもらってよろしいですか?」


 受付嬢は職員複数人とタウロ達に確認する。


「ええ、もちろんです。あと前もって軍施設でも上位鑑定してもらった証明書もあるので提出しておきます。──現在のみなさんなら信用できるので、いくらでも人物鑑定してください」


 タウロはにこりと笑顔を見せると、偽者一行がここに来ていた事を確信して答えるのであった。


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