第533話 本物と偽者(1)

 タウロの鑑定は冒険者ギルドスウェン支部長監視のもと、在中の上級鑑定士によって行われた。


 その場には数名の職員の他、上級冒険者数チームもおり、タウロ達が偽者の場合に、捕縛する気満々である。


「なっ!これは!?」


 上級鑑定士は軍事施設での鑑定同様に、タウロの沢山ある肩書きに唖然とする。


「どうした?やはり、偽者か?」


 ギルド支部長はタウロ以下偽者一行に変な動きがあったら対処すべく、周囲の上級冒険者達に合図を送る姿勢を取っている。


「……た、多分、本物かと。しかし、こんな膨大な肩書きを持つもうすぐ十五歳の子供なんているのか……?」


 鑑定士にとって、タウロの鑑定結果は信じられないものであったが、事実は事実である。


 鑑定士は試しにタウロの傍にいるエアリスも鑑定するが、阻害された。


「この私の上級鑑定を阻害出来る、だと!?」


「ちょっと、私の事を勝手に鑑定しようとしないでくれる?──まぁ、いいわ。ご自由にどうぞ」


 エアリスは鑑定阻害効果のあるネックレスを外して鑑定を許可する。


「……ヴァンダイン侯爵令嬢!?し、失礼しました!──支部長、この方々は本物です。これまでここを拠点に活動していたタウロ・ジーロシュガーを名乗る一行はよく考えると私の鑑定を受けていませんが、この結果を考えるとそちらが偽者の可能性が高いと思います……」


 上級鑑定士はタウロとエアリスの鑑定結果にこれ以上証明するものはないとばかりに、ギルド支部長に冷や汗をかきながら進言した。


「そんな馬鹿な……!? ──という事は、我々はずっと騙されていたという事なのか……? ほぼ不可能なはずの冒険者ギルドのタグが偽造されていたという事になるぞ……!?」


 支部長は上級冒険者として、名誉子爵として偽者一行を丁重に扱っていたから、そのショックは大きい。


「そう言えば、タウロ様、いえ、偽者一行のタグは魔道具で確認する時、時間が少しかかるんです。魔道具の調子が悪いのかなと思っていたんですが、タグの方に問題があったのかも……」


 受付嬢は偽者一行の支持者であったが、タウロによって『魅了』が解かれた事で、辻褄が合わない事について、ようやく気づいて疑問を口にした。


「……そう言えば、奴の率いる仲間には帝国出身者もいたのになぜ疑わなかったのだ……?」


 支部長も急に疑わしいところが思い出された。


 他の職員や居合わせた上級冒険者達も今までは疑問に思わず、スルーしていた事を思い出して口にしてざわつき始める。


 全ては偽タウロの『魅了』による力が大きいのだろう。


 『魅了』に掛かった人々は、好感を持つ偽タウロに対して、多少の齟齬や疑いも自分に都合よく解釈した人物像を作り上げてしまい、辻褄を合わせていたのだ。


「これで、僕達が本物とわかったからには、冒険者ギルド・スウェン支部長。相応の対処はしてくれますよね?」


「も、もちろんです!偽者一行のタグの機能停止と北部地方冒険者ギルドに速やかな警戒を訴え、発見次第拘束します!──タグの偽造は重罪、領主にも伝えて動いてもらいましょう」


 支部長は職員達に命令してその手続きを至急行わせる。


 ギルド内は突然降って湧いたような大問題に大騒ぎになるのであった。



「これで解決に向かうとは思うけど……、みんなこれからどうする?」


 タウロが、周囲の騒ぎを見ながら、エアリス達に今後について確認した。


「それはもちろん、私達で偽者一行を見つけ出して捕らえるのが一番じゃない?」


 エアリスは、静かに怒りのオーラを滲ませながら答えた。


 エアリスさんが怒ってらっしゃる……!


 タウロはそのオーラに気づいて内心驚く。


「早く見つけ出して、血祭りにしねぇとな」


 アンクもニヤリと笑みを浮かべる。


「偽者は私達でけりを付けるのが一番だ」


 ラグーネもみんなに賛同してノリノリだ。


「タウロ様を騙った時点で、ボクは絶対に許しません!」


 シオンも握り拳を作って制裁を宣言した。


 偽者一行さん、死んだな……。


 タウロはみんなのやる気十分さに、自分を騙った偽者に少し同情するのであった。



 その頃──。


「みなさん、ところでいつになったら、北に戻れるのでしょうか?」


 タウロ(偽者)が仲間である他の五人に確認をした。


 場所は、スウェン伯爵領の国境線近くの砦である。


 タウロ(偽者)一行は、サート王国入国後、各領主の国境の警備体制から王国直轄の軍事施設などを視察して回りながらも冒険者としてクエストもクリアしていた。


「タウロ殿。我々は崇高な任務を秘めて北部を探索しているのですよ?そんな暇はありません。それに国境線の情報が完璧になったら今度は、他の地域の軍事施設も見て回る必要があるに決まっているでしょう」


 フードを深くかぶった仲間の一人が、諭すようにタウロ(偽者)に答える。


「で、でもさすがにこれ以上続けると危険では? いつバレるかもわからないのに……」


 タウロ(偽者)は心配そうに答えた。


「大丈夫ですよ。あなたの持つ『魅了能力』のお陰で相手は多少の疑問も好感を持って都合よく解釈してくれます。だから相手に気づかれる事などほぼ皆無です」


「でも、もし本物が現れたりしたら……」


 タウロ(偽者)の不安は、仲間の言葉でも拭えない。


「はははっ!それは大丈夫ですよ。リーダーのタウロを含む『黒金の翼』は王都で失踪し、一年以上姿を現していませんから。我々はその動向を調べていましたが、死んだ以外に考えられない程、その足取りはぱたりと無くなっています。だからこそ、そのタグや記章を帝国の技術の粋を集めて偽造したのです。こうして潜入しているのも本人が現れる可能性がないと踏んだからですよ」


 仲間の男は自信を持って答えた。


「でも、ギルドの口座が凍結されそうになったじゃないですか!」


「それはきっと、王都の方でずっと動きがない口座が突然動き出したので不審に思った関係者がいたのでしょう。ですが、北部まで来てそれをわざわざ確認はしないですよ。実際、こちらで再度手続きしたら、ピタリと止まったじゃないですか。これで完全に口座にある大金はあなたのものです。好きなだけ使うといい」


 仲間の男は全く帝国の懐が痛まないお金なので、このタウロ(偽者)に報酬代わりに自由に使う事を勧めた。


「そ、そうかな?……まぁ、それならいいけど……」


 タウロ(偽者)はそこでやっと納得すると大金の入った口座を思い出し、上機嫌になるのであったが、本物が近くに迫っている事など知る由もないのであった。

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