第507話 精鋭冒険者達との出会い

 ダンジョン攻略の最有力は王国出資の冒険者攻略組であった。


 そのメンバーはAランク帯冒険者を中心とした複数の精鋭からなるチームで、ダンジョン関係者の中では有名であった。


 そのチームに入れる事が、冒険者にとって最高のステータスとも一部では言われている。


「ようやく『バビロン』における人類が踏破した最大深層である百階層だ。みんなここまで到達するのにも沢山の時間と多大な犠牲も払った。だが、本当の冒険はこれからだ」


 下へ続く階段を発見したリーダーが目を輝かせて仲間に気合を入れる。


 そして続けた。


「よし、いつも各階層にある何もない『休憩室』でまずは休む事にしよう!」


 リーダーはそう言うと先頭を切ってその『休憩室』に向かった。


 そこに人影が見えた。


 子供だ。


 いや、他にも沢山の人影がある。


 人型の魔物?いや、『休憩室』には敵対性魔物は一切入れない事は承知している。という事は先客?いや。それもないはずだ。我々以外の冒険者チームは引き返したから、うちのチームしかここまで深く潜ってはいないはずだ。


 攻略組のリーダーが困惑する中、他の仲間も人影に気づいて警戒態勢を取った。


「あ!こんにちは!もしかして、みなさんは王国出資の『竜の五徳』さんを中心にしたチームですか?」


『竜の五徳』のリーダー、カーズは百階層という深層の緊張感とはかけ離れた元気な声掛けに驚き、反射的に頷いて返事した。


「あ、ああ……」


「──丁度良かった!管理責任者の方から話は伺ってました。大丈夫ですか?うちはチーム『黒金の翼』です。そして僕が、そのリーダーのタウロと言います。──エアリス、シオン、負傷者を治療して上げて」


 タウロが背後に向かって言うと、これまた若い二人が『竜の五徳』をはじめとしたボロボロのメンバーに駆け寄る。


「……君達は一体……」


 リーダーのカーズは呆気にとられる。


 そこに竜人族のメンバーも駆け寄ってきた。


 カーズはその竜人族のメンバーの実力を本能的に肌で感じて正気に戻った。


「君らはいつ百階層までを踏破したのだ……?俺達以外、この階層に挑戦しているチームはいないはずだったのだが……。いや、『黒金の翼』と言ったか……。聞かないチーム名だ……」


 リーダーのカーズはダンジョンに長く潜っている間に地上では凄いチームが現れていたのかもしれないと負傷した仲間に肩を貸して『休憩室』に運ぶ竜人族の強そうな人々を凝視するのであった。


「改めて、僕が『黒金の翼』のリーダーで名誉子爵のタウロ・ジーロシュガーと言います」


「その歳で名誉子爵!?……いや、俺達よりも早くここまで潜る実力があるのだ、名誉子爵でも当然か……。ちなみに聞いた事がないチーム名だがランクはどの程度なのだ?うちは冒険者チームの寄せ集めだからランクもまちまちだが、うちはA+の『竜の五徳』、俺はカーズ名誉男爵だ。他にもAランクの『光虎』、同じくAランクの『蒼亀』、B+の『天翔馬』がメンバーだ。他にも仲間がいたが、ここに辿り着く前に力不足と判断して、他の冒険者チームと一緒に引き返らせた」


「賢明な判断だと思います。えっと『黒金の翼』自体はB-のチームですが、他のメンバーが規格外なのでそのメンバーがこれより下の層の攻略にあたる感じですね」


 タウロの説明にカーズは驚いて目を見開く。


 B-?確かにこの少年、只者ではない雰囲気は感じるが、言われてみれば、他のメンバーに比べれば大した事がなさそうな気もする。それにまだ、少年だ。いくらどんなに才能があったとしても経験が無ければすぐ死んでしまう事はままある事だし、ここまで苦労して潜って来た雰囲気もないな……。


 カーズはタウロの実力を測りかねて考え込むのであった。


「タウロ殿。我々はいつもの通り三チームに分けて攻略の為、下の階層に向かおうかと思いますので後はお任せしてよろしいですか?サポートチームをおいて行きますから」


 竜人族の大勇者ロイはタウロに提案する。


「了解です。そうして下さい。僕達もこの方々の治療を済ませたら、地上に戻りますので」


 タウロは大勇者ロイと他の竜人族のメンバーに「お気を付けて!」と、声を掛けると送り出すのであった。


「それで、ですが……。カーズさん、どうしますか?」


 タウロが振り返るとカーズに改めて声を掛けた。


「どう……とは?」


 カーズもタウロの言葉の真意が分からず聞き返した。


「見たところ、結構消耗も激しい様子。一度、地上に戻って装備を整え直し、再度ここから挑戦しますか?もちろん、その往復料金は頂きますが」


「地上に戻る?いやいや、これからさらに下に潜るところなので引き返せませんよ。確かに消耗はしていますが、人数も減った分、食料は十分です。装備は少し心持たない者もいますが、それはみんなでカバーできる範囲。ここからさらに潜って人類の記録を塗り替えたいと思っています」


 カーズは相手が名誉子爵なので丁寧に答えた。


「あ、ここから引き返して一から、と言っているのではなく、一旦、戻ってここから再出発しないかという提案です」


「?」


 カーズはタウロの言っている事が理解出来ず、頭の上は疑問符ばかりであった。


「──すみません。わかりづらいですよね。百聞は一見に如かず、体験してもらいましょう」


 タウロはそう言うとカーズを『休憩室』内に案内する。


「それでは一階層に移動しますね」


 タウロはカーズの手を掴むと『空間転移』を使って一階層に瞬時に移動した。


「みんながいなくなった!?」


 カーズには『休憩室』にいた仲間が一瞬で消えたように感じたようだ。


 それと入れ替わるようにそこには王国騎士が十人程待機していた。


「あ、タウロ殿、他の皆様は?うん?そちらの方は……?あ!『竜の五徳』のカーズ殿!?」


 騎士の一人がタウロに気づいて声を掛け、一緒のカーズに気が付いた。


「君は確か『バビロン』に潜る時に、言葉を交わした王国騎士の!──それではここは本当に一階層なのか!?」


「はい。ダンジョン『バビロン』の一階層です。どうします?一旦、みなさんにも戻ってもらって休憩を取りますか?判断はお任せします。往復するのに特別料金は頂きますが」


 タウロは余裕のある笑顔でそう答えるのであった。

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