第505話 迷宮での秘密
ツヨーク隊長以下タイチ達護衛チームはタウロが今回の用事はほとんど済んだと、言われて地上に戻る事にした。
その帰り路の数時間の間にタウロからこれからについて説明をされた。
それは、このダンジョン『バビロン』にタウロの権限で案内した強い冒険者達がやって来る事になるというものだった。
ツヨーク隊長達はその話に「?」という状態になる。
そしてタウロは理解してもらえるように続けた。
それが、今日タウロが見せた能力と同じ力でこの『バビロン』に直接移動してくるので、出会った時はよろしくお願いします。というものであった。
「──つまり、タウロ君が『休憩室』で見せた能力で他のダンジョンから移動してくるその『強い冒険者達』とやらがダンジョン攻略の為にやってくると?……その『強い冒険者達』とはどのくらいの実力なんだい?君達が評価するという事はAランク帯冒険者という事かな?」
ツヨーク隊長が雲を掴むようなよくわからない話をどう解釈していいのかわからずに理解しようともう一度説明を求めた。
「……えっと。実力的にはSランク以上ですね。信じられない話だと思いますが、実際そのレベルの方々なので次回、実際あった時に確認してもらうしかないです」
「え、Sランク!?……タウロ君、Sランクはいわば、伝説レベルの冒険者の為に用意された名誉ランクみたいなもの。人外の者でもない限りそのクラスの冒険者は存在しないよ?」
黙ってツヨーク隊長とタウロの話を聞いていたタイチが、さすがに嘘と思って話に割って入った。
「……あはは。普通、そう思いますよね。後日、僕の能力でそのSランククラスの人達を連れてくるのでその時確認してください。お互い顔合わせしておいた方がトラブルも避けられますし」
タウロはエアリス達と苦笑しながら視線を交わしつつ、そう説明した。
「……タウロ君が説明するのなら、信じたいと思うが……、──了解した。それほどの実力者がこのダンジョン攻略に手を貸してくれるのなら、こちらとしては本当に助かる。あとは実際に会って確認できるのなら問題も無いだろう。詳しい事は後日話し合おう」
ツヨーク隊長はまだ少し疑問に思うところもあるようだったが、タウロが実際連れてくるというのだから信じるしかなかった。
それに、本当なら心強いし、嘘ならそれで終わりの話だ。
ツヨーク隊長はタウロの申し出を受け入れ、数日後、一階層の『休憩室』で落ち合う事にするのであった。
それから数日後の『休憩室』。
ツヨーク隊長とタイチ達護衛チームと、ダンジョン『バビロン』の事務手続きの為の管理責任者が待機していた。
管理責任者はツヨーク隊長の話について半信半疑の状態であった。
だが、王家の許可証を持つタウロ・ジーロシュガー名誉子爵が関わっている事から、仕事の予定を変更して確認の為、同行して来たのだった。
「あと数時間したら、引き返しますよ?正直、その移動手段を持った能力の持ち主がいたらそもそもこの『バビロン』だって踏破されていてもおかしくな──」
管理責任者がそう口にして言い終わる寸前であった。
目の前に円陣を組んだ多数の人が一瞬で現れた。
「!?」
管理責任者は目を見開いてその光景をはっきりと目撃した。
ツヨーク隊長達もわかっていながらも、大人数──ざっと三十人程度だろか?──が、現れたので剣に手を掛け少し警戒した。
円陣の輪の中にタウロ達が混ざっていて、ツヨーク隊長を確認したタウロが手を振って近づいてきた。
「ツヨーク隊長、連れて来ましたよ!」
タウロはそう声を掛けると、竜人族側の責任者の大勇者ロイをツヨーク隊長に紹介した。
二人はじっと目を見て握手を交わす。
「(人にしては)かなりの実力者だ。タウロ殿の言う通りですね」
握手と挨拶を終えた大勇者ロイはツヨーク隊長をそう評価した。
ツヨークは大勇者ロイを一目見て、何か感じるものがあったのか、それとも鑑定スキルのようなものを持っているのか、少し身を震わせていた。
「……タウロ殿。私は自分より圧倒的に強い人に出会うのは初めてです。それもタウロ殿が連れてきた人全員がその対象なのだから、震えずにはいられない」
ツヨーク隊長がそう評すと傍で副隊長であるタイチも冷や汗をびっしょりかいて頷いていた。
管理責任者はツヨークの言葉に驚き、彼が身震いしているのでどうやら本当にそう思っているようだと感じて息を呑んだ。
「あ、あの……。『バビロン』の事務方を務めております、管理責任者です。この方々がタウロ殿の同行者として、今後もその……、今のように瞬間的に現れてこのダンジョンの攻略に尽力してくれるという事でよろしいでしょうか?」
「はい。ただ、他にもいるので、入れ替わり立ち替わりになると思います。ですから、僕の名を出してもらう、もしくはそれを証明する何かを発行してもらい、ダンジョン内で遭遇した時にトラブルにならないようにしてもらいたいのです」
「その辺りはあらかじめ聞いていましたから、証明証の発行は可能です。──ちなみに少し、人物鑑定をさせてもらってよろしいですか?私は鑑定しないと評価できないので」
管理責任者はツヨーク隊長の反応から強い人達である事は察していたが、管理責任者として鑑定スキル持ちの本人としてはしっかりと確認したいのであった。
そこで大勇者ロイが、鑑定を代表して受ける事にした。
大勇者ロイは、鑑定阻害を切って、鑑定を許可する。
管理責任者はそれを確認して鑑定した。
そして、
「……だ、大勇者……!?見た事も聞いた事もないスキルや能力ばかり……。なるほど……、確かに大袈裟でなくSランクレベルと評すのは伊達じゃないみたいですね……。わかりました……。レベル的に劣るどころかとんでもない事は確認できました。ただ、この事は口外厳禁にした方が良さそうです。ツヨーク隊長、タイチ副隊長、それでいいですね?」
と深刻な顔つきで管理責任者は口止めをした。
「……わかりました」
ツヨーク隊長は当然だろうと、素直に頷いた。
「?──凄い事なのになんでだ?」
タイチは首を傾げる。
「タイチさん、Sランク以上の実力者が多数いる事が世間に知られた場合、色々な事で、力関係が壊れる可能性があるからですよ。だから、この事はダンジョン内だけでの秘密にしようという事だと思います」
タウロが純粋に強い人間に出会って驚いていたタイチに事の重要性を説くのであった。
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