第499話 叙爵

 王都到着から数日後。


 グラウニュート伯爵邸でゆっくりしていたタウロ一行の元に王宮から使者が訪れ、国王との面会が予定されていると知らされた。


 使者が言うには、タウロ達の王都帰還を知った宰相が動いて、国王の過密な日程にタウロ達との面会をすぐにねじ込んだらしい。


「それでは明朝、改めて私が使者として訪れますので準備をお願いします。陛下との面会は公式のものですが大袈裟なものではないので、自分に相応しい格好でそれぞれ身綺麗にされていれば問題は無いと思います」


 使者はタウロとエアリスの背後に立つラグーネ達をチラッと見てそう言った。


「……わかりました。それでは明日、よろしくお願いします」


 タウロは使者に答えると帰るのを見送るのであった。



「リーダーとエアリスだけかと思ったら私達もなのだな」


 ラグーネが意外な展開だと思ったのか驚いた表情で、やっと使者が帰ったタイミングで口を開いた。


「だ、大丈夫でしょうか?ボク、作法とか全くわからないです……」


 シオンが、緊張した面持ちでそう漏らした。


「あっちが会うって言うんだから多少の礼儀知らずでも許してもらえるだろう?俺もさすがに国王陛下相手の礼儀作法なんて知らないぜ?いざという時はリーダーとエアリスの真似をしていれば大丈夫さ」


 貴族に対する作法は意外に身に付けているアンクが、シオンの緊張を和らげて上げようと、そう口にして背中を軽く叩くのであった。


「はははっ。僕も詳しい礼儀作法なんて知らないよ。宰相閣下に初めて会った時も適当だったし。要は相手を敬う気持ちで対応する事じゃないかな?」


 意外にタウロがいい加減な事を口にした。


「タウロもちょっと危ないわよ。……仕方ないわね。明日は私の真似をしておけば大丈夫よ。あ、まずは国王陛下を凝視しないように気を付けて、チラ見も駄目よ?基本、足元か地面を見るようにね。許可が出たら頭を上げる感じよ。あと、陛下から質問があった場合、直接答えないようにね?直接は不敬になるから」


「マジか?言われなきゃ、興味本位で凝視するところだったぜ。それに即答するところだった……」


 アンクが、貴族とは勝手が違う作法に驚いた。


「最初はタウロか私が質問を受けるだろうから真似すれば大丈夫だとは思うけどね」


 エアリスはどうやら自分がしっかりしないといけないらしいとわかって責任を感じると、みんなを安心させるのであった。



 国王との面会当日。


 王宮に招かれたタウロ一行は、簡易的な行事で使われる小さめの、それでいてちゃんと玉座もある部屋に通されていた。


 段差のある玉座にはもちろん、国王が座り、傍には宰相と近衛騎士数名が控えている。


 タウロ達はふかふかの絨毯の上に跪くと下を向いていた。


 前日のエアリスの指導もあって、入室する際にはみんな玉座の方を凝視する事無くタウロとエアリスを真似して跪いて待機した。


「タウロ・グラウニュート。エアリス・ヴァンダイン。その方らの親には我も助けられている。それに……、タウロ・グラウニュート、そなたには我が息子の一人、フルーエがかなり世話になっていると聞く。あやつもこの数年で大分王子として自覚を持ち、国政にも貢献して評判が良くなっている。感謝するぞ」


 国王は宰相を通さず、直接声を掛けた。


 タウロとエアリスは宰相をチラッと見て、返答していいか確認する。


 宰相が、国王に確認と視線を送ると、国王が頷いた。


「二人とも、陛下のご下問に直接返答する事を許可する」


 宰相が、そう答えると、タウロエアリスは別に示し合わせたわけでなく同時に感謝の言葉で応じた。


「「勿体なきお言葉、ありがとうございます」」


「うむ。二人とも、噂以上に闊達な雰囲気があって良いな。──この度、タウロ・グラウニュート、宰相がそなたの叙爵を推薦しておる。聞けばそなたは今世間を騒がせているジーロ・シュガーその人らしいな?この国への文化的貢献が大きい事もわかった。それに此度のルワン王国からの客人である聖女一行についての問題の数々にも活躍してくれたと宰相の息子、ムーサイ子爵からも報告を受けておる。ハラグーラ侯爵領でも何やらあったらしいな?」


 国王はどこまで知っているのかタウロ達の活躍について一通りわかっている口ぶりであった。


 タウロはハラグーラ侯爵が領都において大規模な魔法と呪術を用いた奇怪な術で近隣から魔力をかき集めていた事、それにより周辺領地は流行り病や不作になっていた可能性を指摘した。


 ただし、何かが起きてそれらの術が解け、ハラグーラ侯爵領は大ダメージをうけたらしいとも告げた。


「……ふむ。こちらが受けている報告通りでもあるな。それが誰の力によるものか、そなたは知っているか?──いや、聞くのは止めておこう。そなたらの活躍は十分なようだ。フルーエからも話を聞いていたが尾ひれが付いたものでもないらしい。──宰相」


 国王は宰相に何かを促した。


「それでは……、まずはアンク、ラグーネ両名には王国名誉騎士の地位を与える」


「「え?」」


 黙って終始タウロ達の背後で静かにしていた二人は思わず、声を出した。


「シオンは王国名誉神官の地位を。エアリス・ヴァンダインには、王国名誉魔導士の地位を与える」


「「え?」」


 さらに二人もまた、思わず声が出た。


「そして、タウロ・グラウニュート。国への貢献と今回の活躍により、子爵に叙爵する事とする」


「……え?」


 タウロは一瞬、思考がついていかなかった。


 エアリス達もそれは同じで、宰相の口から出た言葉にタウロ同様「?」という表情を浮かべている。


 みんなで前日想像していたのは、名誉貴族持ちの冒険者に多い、名誉騎士爵が与えられるだろうと話していたのだ。


 ちなみにその名誉騎士爵の地位も、冒険者の中ではAランク級冒険者にごく一部である。


 それらを飛び越える形でいきなり子爵である。それも名誉が付かない方だ。


 その事に驚き、まだ、タウロも言葉が出てこなかった。


 そこへ、宰相は追い打ちでもかけるかのように、


「……なお、家名はジーロシュガー、タウロ・ジーロシュガー子爵とする」


 と、続けたのであった。

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