第475話 諸々の面会
タウロはムーサイ子爵の叙爵推薦の申し出を即答で断った。
「僕はそんなつもりありませんから!」
「ですが、タウロ殿はグラウニュート伯爵家の世継ぎの座を弟君に譲ってしまわれたのでしょう?そうなると今回の手柄で爵位を頂くのが一番では?」
ムーサイ子爵はタウロのような人材を放っておくわけにはいかないとばかりに食い下がった。
「爵位、貰っておけば?」
横で聞いていたエアリスが突然ムーサイ子爵に味方する様に会話に入って来た。
「エアリスまで何を言うのさ。僕は縛られるのが嫌で冒険者をやっているのに……」
タウロは一番の味方だと思っていたエアリスからの勧めに驚いた。
「落ち着きなさいよタウロ。ほとんどいないけど冒険者の中には、その功績から爵位持ちの人もいるのよ。もちろん、宮廷貴族や領地持ちではなく、名誉貴族だけど」
「名誉貴族?」
「そう、貴族には領地持ちの貴族と、王家から報酬を貰う官僚化した宮廷貴族、そして、それ以外の活動において国に貢献する名誉貴族がいるの。さっき言った冒険者の爵位持ちはこの名誉貴族ね。他にも国の文化などに大きく貢献した人にも稀に王家から叙爵される事もあるわ。まぁ、名誉貴族は文字通り名誉としての叙爵だから領地も無いし、給金も出るわけではないけどね。ただ、貴族である事には変わりないから発言権も人権も貴族としての扱いを受けられるから、とても便利よ。冒険者として今後もやっていこうと思ったら、庶民では出入り禁止の地域や場所、国の管理するダンジョンへの出入りもやり易くなるわよ?」
「そうですよ、タウロ殿。名誉貴族の爵位は何かと便利です。もちろん、貴族としての義務も発生しますが、正直こちらは嘆かわしい事に守っていない者も貴族の中にはいるのであまり重く受け止められずによろしいかと思います」
「……本当に大丈夫なんですか?」
タウロは冒険者として有用と言われるとかなり心が動くのであった。
「ええ、もちろんです。父にはその辺りもちゃんとお伝えしておきましょう。今回の功績だと序列としては一番下の騎士爵辺りになるかもしれませんが、貴族は貴族。権利は与えられるので行きたいところに行けるようになると思いますよ」
ムーサイ子爵もここぞとばかりに、勧める。
「良い話じゃないかタウロ。よくわからないが、『黒金の翼』にも箔が付くし、私は良いと思うぞ」
ラグーネが、意外にノリノリで賛同した。
「俺も良いと思うぜ、リーダー。意外に出入りが規制されている場所ってのは多いからな。貴族の肩書きは有用だと思う」
アンクも傭兵時代の経験で見聞きしている事もあるのだろう、賛成した。
「ボクも賛成です!」
シオンはよく話を聞いていなかったが、タウロに有益なら何でも賛成である。
「……うーん。貴族としての義務は気になるところだけど……。騎士爵なら別にいいのかな?」
タウロはみんなが賛成なので断れなくなっていた。
「それでは、父と話を進めますね。私と父が推薦すれば何とかなると思いますのでお任せ下さい」
ムーサイ子爵は胸を叩くと叙爵を保証するのであった。
タウロ達はムーサイ子爵との面会後、部屋に戻ると、今度は王太子の使者が部屋の傍で待機していた。
「王太子がお二人をお呼びです」
使者はそれだけ言うと、付いてくるように促した。
「……ラグーネ、アンク、シオン、三人は部屋で待っていて」
タウロはエアリスと溜息交じりに視線を交わすと王太子のいる部屋へと赴くのであった。
「殿下、エアリス嬢、タウロ殿をお連れしました」
使者の男性が王太子の部屋の扉をノックしてそう伝えた。
「……入れ」
使者が扉を開け、エアリスとタウロの入室を促す。
二人は、素直にそれに従って部屋に入るのであった。
中には、豪華な装飾品や絵画が飾られた広い部屋が広がっていた。
「座るがよい」
王太子は不機嫌そうに二人を席に着かせる。
「私に何も知らせる事無く好き勝手やってくれたそうだな?下手をしたらルワン王国との間に亀裂を生むかもしれない事だぞ。それを王太子である私に一言もないとはな」
「恐れながら殿下。どこから情報が洩れるかわからないとあっては、現場の判断で実行しなければならない状況でした。それにここはバリエーラ公爵領。その責任者代理であるムーサイ子爵の判断があれば何も問題は無いかと思います」
タウロはもっともな正論を伝えた。
「聖女一行護衛のサート王国側責任者は私だぞ!」
ぐうの音も出ない様な反論に、王太子は責任者としての立場を盾に取った。
「お言葉ですが王太子殿下。作戦自体は私が囮であり、聖女様は一切関わっておられません。そしてこのバリエーラ公爵領の責任者ムーサイ子爵の判断と、囮役の私がOKを出した以上問題はないと思いますけど」
エアリスももっともな意見を述べた。
「君達は私の管理下だろう!もし報告があれば、そもそも話し合いする事で、問題自体起きなかった可能性がある!」
王太子は帝国との人脈があるので話し合いさえすれば問題は起きなかったと思っているようだ。
「聖女様を誘拐する命令を受け、潜伏している帝国兵とどのように話し合えるとお思いですか?まさか、王都の帝国大使館に使者を出し、近日中に行われる誘拐を実行しないで下さいと、伝えるつもりですか?帝国がそんな事、認めて中止するとお思いですか?」
いくら何でも話し合いで解決できる状況ではない。
帝国は虎の子の『金獅子』部隊まで出して来ている。
秘密の部隊である以上認めるわけがないし、それを伝えても帝国に利するだけだ。
そういう意味も含めてタウロは反論するのであった。
「こちらが知っていると前もって知らせれば、あちらは躊躇するはずだ!そうすれば問題はおきないはずだ。つまり、今回の件はムーサイ子爵と君達二人が問題を表面化させたのだから、君達が悪い!」
王太子は帝国相手に穏便に済ませられると本気で思っているようだ。
相手は本気で聖女を狙っていたし、誘拐後は他の国の仕業に見せようといくつか偽の証拠も用意していた事は帝国兵の遺品から出て来ていてわかっていたのだ。
それらの証拠からこの国に対する配慮は一切無いし、ルワン王国側とサート王国の確執も狙っていたと思われる。
どの国も自国の国益を一番に考えるのが当然であるから、王太子の帝国への配慮は危険なものであった。
「その判断は、この国の最高責任者である国王陛下に委ねます。僕達は王国貴族の子息令嬢として、やれる事をやれたと思っています。それに不満がおありでしたら、陛下の判断の後、また、改めて仰って下さい」
タウロが国王判断を口にすると、王太子もそれ以上は何も言えなくなった。
王太子にとっても国王である父は絶対であるようだ。
「それでは殿下、失礼します。私達も今回、命懸けの作戦で疲労困憊なので、労いの言葉ありがとうございました。──それに聖女様に何も無くて良かったです」
もちろん王太子からの労いの言葉など一切なかったから、それはただのエアリスの皮肉であった。
王太子が顔を真っ赤にするのを気づかないふりをして、二人は退室するのであった。
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