第473話 作戦終了後

「特殊スキル【&%$#】の発動条件の一つ<聖女達を救いし者>を確認。[長命]を取得しました」


 意識を失っていたタウロは脳裏にはっきりと聞こえる『世界の声』と共に、目が覚めた。


 そこは広場の一角であり、エアリスの膝枕に頭を乗せていた。


「タウロ、目が覚めたわね?」


 エアリスがホッとした表情で目を開けたタウロを見下ろしている。


 タウロは感触の良い膝枕を我慢して起き上がって周囲を見てみると、負傷した領兵やアンクも横になっていた。


 その間をシオンが治療の為に動き回っている。


 ラグーネはそのお手伝いだ。


「アンクは大丈夫?」


「ええ。タウロから貰っていたポーションで負傷直後に治療していたから大事には至らなかったみたい。その後、シオンと私が治療したから、今は出血が多くて一時的に気を失って寝ているだけよ。それより、タウロの方が危険だったんだからね?」


 エアリスは立ち上がると溜息を吐いて見せた。


「ごめん。──それで帝国兵達は?」


「タウロが意識を失った直後に、能力が回復したから五、六人の帝国兵が囲みを突破して逃げ延びたみたい。でも、あの数だともう何もできないのではないかしら?それにしても、今回はぺらの活躍が一番ね」


 エアリスは傍にいるぺらを抱き上げると、タウロの肩に乗せる。


 ぺらは褒められた事が嬉しいのか、それともタウロが意識を取り戻した事が嬉しいのか肩の上でぴょんぴょんと跳ねるのであった。


「ぺら、ありがとう。僕達では多分、敵の隊長には勝てなかっただろうからね」


 タウロはそう言うと肩の上でご機嫌なぺらを撫でた。


 ぺらはタウロの手にスリスリするとさらにご機嫌のようだ。


「そうね。領兵の被害が甚大だし、捕らえた帝国兵はほぼ全員、口の中に仕込んでいた毒薬で自害したわ。私とシオンが解毒魔法で治療してなんとか三人程助けたけど、いつまた隙を見て自害しようとするかわからないから、監視が必要みたい」


 そんなやり取りをしていると、領兵の隊長と思われる男がタウロ達のところにやって来た。


「ムーサイ子爵が城館で報告をお待ちになっているのですが、ご同行して頂けますでしょうか?」


 今回の作戦は結果的にタウロ達有りきのものであったから、報告についていく必要がある。


「──わかりました。うちの仲間が目覚めたら同行する形でよろしいですか?」


「もちろんです。治療直後に無理を言ってすみません。当方も損害著しく、今回の敵がいかに強敵であったかの説明は、その中心で戦われたあなたから説明頂くのが一番でしょうから……。準備が出来たらお願いします」


 隊長は多くの部下を失って沈痛な面持ちだ。


 シオン達が治療している負傷者は比較的に軽度の者達である。


 少し離れたところには戦死した領兵が並べられ、友人だったのか元気な領兵がその遺体の傍で泣いている。


「……わかりました。想像以上の強敵でしたからね……」


 タウロは隊長に言うでもなく、そうつぶやく。


「あれは噂に聞く、北の帝国の切り札と言われている『金獅子』という特殊部隊だったのかもしれません……」


 隊長がある可能性を口にした。


「『金獅子』?」


 タウロは初めて聞く名だった。


「……帝国皇帝直下の精鋭部隊の事よ。『金獅子』は表舞台に出てくる事がない幻の部隊と言われていて、その存在を証明された事はこれまで一度もないはず。……でも、今回の件で、その存在もあり得ない事でもなさそうね」


 エアリスも隊長の言葉に深刻な顔つきになった。


「そんな部隊を動かしてでも聖女を手に入れたかったのかな……?」


「『聖女』の存在は国にとって大きな象徴になりますからな。当のルワン王国もそれを利用して……、おほん!失礼。──象徴として国の権威を上げようとしております。どこの国も考える事は同じという事でしょうな」


 隊長はルワン王国のドナイスン侯爵から派遣された兵士に聞かれない様にタウロとエアリスのみに聞こえる様に答えた。


「それでは、これからも聖女は狙われ続けるという事に……?」


 タウロはエアリスの視線を合わせるととんでもないトラブルに巻き込まれたという表情になった。


「どうでしょうな?『金獅子』は皇帝直下の少数精鋭部隊と言われています。どのくらいの規模なのかはわかりませんが、これだけの手練れが五十人も揃う事など、そうないと思います。今回のこれはその『金獅子』に大ダメージを与えた可能性は大きいかもしれません」


 隊長は口にしながら、自分達は凄い敵を相手に善戦したのかもしれないと少し表情が明るくなるのであった。


 そこへ、傍で寝ていたアンクが、


「……うーん。──はっ!?リーダー、エアリスは無事か!?」


 と慌てる様に目を覚ました。


「大丈夫だよ、アンク。それよりも、アンクも大怪我したんだから大丈夫かい?」


 タウロがアンクに手を貸して立たせる。


「俺は大丈夫さ。多少の出血くらい肉食えば治る。……敵はどうなった?」


 アンクは多くの領兵の遺体や負傷者が周囲にいる事で楽観できない状況を何となく把握した。


「それについては城館に向かう途中で説明するよ。隊長さん、行きましょうか」


「そうですな」


 隊長は頷くとタウロ達一同を馬車に案内し、城館に向かうのであった。

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