第462話 聖女への称賛
タウロ達は、公爵領の領兵達に警護され、住民達の熱狂的な歓声を浴びながら公爵の城館まで案内される事になった。
先程までは本物の聖女一行に歓声を上げていた住民達であったが、大火事になりかけた四か所をあっという間に消化してしまった聖女一行に今度は姿を見せている事からその姿に熱狂していた。
もちろん、それはエアリスであり、聖女ではないのだが……。
「さっきの聖女様を乗せた馬車は何だったのだ?」
「きっと、乗ってなかったんじゃないか?」
「そうか! だから今、こちらにいるのだな!」
領兵に先導されたタウロ一行は、そのエアリスの美しい姿に聖女と誤解した住民達が奇跡の様な消火活動をした一行に再度熱狂的な感謝の声援を送った。
「ありがとう!」
「家が燃えなくて済んだよ!」
「その姿もまさに聖女だ!」
タウロ一行は、誤解されて困惑する一方であった。
「領兵隊長さん、何度も言いますが、僕達、聖女様に付き従うただの取り巻きで、このエアリスは聖女ではないんですけど?」
歓声の中、先導する領兵隊長の横まで歩み寄ったタウロが、再度、事情を説明した。
「え? ──今、なんて言いました? 聞こえづらいのでもう一回お願いします!」
周囲の大歓声に聞きづらそうにしていた領兵隊長は、タウロの真実の説明に聞き間違えたと思って聞き返した。
タウロは周囲の声にかき消されない様にもう一度、大きな声で説明した。
「だ・か・らですね!エアリスは聖女様ではないんです!」
「大丈夫ですよ!わざわざ何度も否定しなくても承知していますから!」
領兵隊長は相変わらず、タウロ達が有名人の様な謙遜をしているのだと誤解しているようだ。
話が通じない……!
タウロは、エアリスに振りかえって首を振ると、エアリス本人も呆れた様に溜息を吐いた。
そんな盛り上がりを見せる住民を後にタウロ一行は公爵の城館に案内されるのであった。
城館ではタウロが再度、バリエーラ公爵から貰った家紋入りのペンを見せて事情を説明した。
宰相であるバリエーラ公爵はもちろん、王都に詰めているのでその代理として息子のムーサイ子爵がその説明を聞いた。
「……なるほど、それは大変ご迷惑をお掛けしました。そして、城下での火事の消火ありがとうございます。我が父から、タウロ殿のお噂はかねがね聞いております。それに、そのペンの贈り物を任され、選んだのは私なのですよ」
宰相の息子、ムーサイ子爵は、そう言うと笑ってタウロの肩を叩いた。
宰相の嫡男であるムーサイ子爵は三十半ばの中年紳士で、宰相に似て知的且つ、武芸にも秀でていそうな体躯の持ち主である。
「そうだったのですか!とても良い品をありがとうございます!」
タウロは贈り物に感謝の意を示した。
「はははっ!すでにその分以上の返礼を先程の騒ぎで頂いた形ですから礼には及びません。──聖女の件は、こちらで上手く処理しておきましょう。本物の聖女様の手前、ヴァンダイン侯爵令嬢もそう呼ばれるのは不本意でしょうから」
ムーサイ子爵は、タウロの背後にいるエアリスに軽く会釈すると、そう告げるのであった。
「ありがとうございます、ムーサイ子爵。それで、聖女様とその一行は今どこに?」
「今、用意した部屋に案内して休憩を取ってもらっているところですから、みなさんも案内しましょう。しばらくしたら歓迎会が行われる事になっていますので、それまでお休み下さい。──この方々を特別室に案内せよ」
ムーサイ子爵は、タウロの質問に答えると、聖女一行とは違う部屋へと使用人に案内させるのであった。
各自男女二組に分かれて豪華な特別室に案内された。
他の聖女やルワン王国側責任者ドナイスン侯爵、サート王国側責任者王太子など要人には個室を割り当てているが、他の者は数も多いしグループ毎に大きな部屋を用意していたから、タウロ達は文字通り、ちょっとした特別扱いと言っていいだろう。
このタウロ達の特別扱いは、事情を知らない取り巻き連中の間でちょっとした憶測を呼んだ。
と言っても、その憶測の出元はハラグーラ侯爵の孫とその取り巻きによるもので、ヴァンダイン侯爵令嬢が地位を笠に着て公爵側に特別扱いを要求したというものだ。
その憶測は王太子の耳にも入り、公爵側の責任者ムーサイ子爵に説明を要求してきたが、ムーサイ子爵はエアリス一行が、城下の火事の鎮火に大きく貢献してくれた事によるお礼であり、そのエアリス達はその功績を聖女が行ったものだという事にしてくれたので、責任者である王太子殿下の指導が行き届いてますな、と賞賛して見せた。
これには、王太子もまんざらでもないと思ったのか、それ以上は追及せず、不問にした。
「城下で今、私大人気なの?」
聖女マチルダは、ルワン王国側の取り巻きから説明を受けると、理由がわからないのであったが、
「聖女様のご威光で、城下で起こった火事が鎮火したのだとか。住民達は口々に『聖女様万歳!』と、口々に賞賛しております。これまでで一番熱狂的な雰囲気ですよ」
と、城下の噂を耳にした取り巻きがマチルダを褒めちぎった。
「そうなの?──まぁ、いいわ。そんなに私に期待してくれるなら、明日の『祝福』もちょっと本気出そうかしら」
聖女マチルダは、ご機嫌になるのであった。
もちろん、これはエアリスに対する賞賛の結果であったが、事実を知る王太子はもちろんの事、ムーサイ子爵や当の本人であるエアリス達がマチルダに伝える事は一切無いのであった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます