第461話 火事場の活躍
次の火事現場は領兵が先に駆け付け、野次馬を下がらせたり、避難させるなど住民の安全確保を優先していたが、火事の方は広がる一方で消火に手間取っていた。
タウロ達はそこに到着すると、早速、火消しに協力しようとしたが、領兵から見ればただの余所者である。
消化の為に火事場に近づこうとするタウロ達を不審者扱いして取り押さえようと槍を構えた。
「僕達は怪しいものではありません!」
タウロは領兵を率いる隊長らしき男に、マジック収納から一本の高価なペンを出して見せた。
「?──こ、これは!領主様の家紋入りのもの!?」
そのペンは、宰相であるバリエーラ公爵から、タウロのお披露目会のお祝いに贈られた品であった。
公爵家の家紋が入っているという事は、そういう利用の仕方をしても大丈夫という意味だ。
「──失礼ながら、我が領主様とはどういったご関係で……?」
「その説明はこの火を消してからにしましょう。──エアリス、お願い!」
「わかったわ!」
すぐに、エアリスは魔法を詠唱すると、先程同様、局地的な豪雨をその場に降らせた。
タウロとアンク、ラグーネは延焼部分の建物を破壊しては、他に火が移らない様に防いでいく。
領兵達はこの手際の良さに、ただ茫然と現場を見つめるのであった。
タウロ達の活躍で大火事になりかけた現場は、消火されて広範囲に火が移る事なく収まった。
野次馬や領兵達はこの光景を目にして、
「『聖女』様だ……!」
「『聖女』様が、火事を消火して下さったぞ!」
「『聖女』様とそのお付きの方々、ありがとうございます!」
と歓声を上げる。
先程の現場と同じ反応になってしまった。
現場の領兵隊長もタウロ達の正体が『聖女』御一行だと勘違いしたのか、跪くと、
「ご尽力、ありがとうございました!」
と、お礼を言われる始末であった。
「あ、違うんですけどね?」
タウロは、訂正するのだが、次の現場が待っている。
正体を明かす事もままならないまま、タウロ達はその場を後にするのであった。
残りの現場も大火事になる一歩手前で、その場にいち早く駆け付けた領兵により、延焼は防ぎつつ、駆け付けたタウロ達が消火するという形で解決した。
四件目の火事を消火した時には、もう、現場周辺の住民達の間では、『聖女』様御一行が奇跡的な魔法で消火活動を行ってくれた。と、喧伝され、広まりつつあった。
エアリスは自分で降らせた雨でびしょ濡れであったが、水も滴る良い女とも言うべき、とても絵になるような美女であったから、『聖女』であるという説得力が増し、誤解を生むのであった。
その時、本物の『聖女』一行は、公爵の城館に到着し、歓迎されていたから奇妙な噂になったが、何もしていない本物の『聖女』の評判はうなぎ上りになるのであった。
「……やっぱり、これは放火だよね?」
タウロが火事の消火した後の現場を見て、エアリス達に確認した。
「四件も同時だからそれ以外ないわね。それに魔力の残滓も感じるし」
エアリスもタウロの結論に同意した。
「……そして、野次馬の中に犯人がいるのもお約束……、かな?」
タウロは、『気配察知』の能力で野次馬の中にこちらに悪感情を向ける気配を感じ取った。
とは言え、この数である。
その中から見つけ出すのは困難であった。
そして、その気配もすぐに消えた。
きっとこの場を離れたのだろう。
「これは宰相閣下に恨みを持つ誰かがお膝元での嫌がらせなのか、『聖女』に関わる謀略なのか、それともどちらもなのか……。このどさくさで、『聖女』一行が襲撃されていないところを見ると前者かな?」
タウロは、エアリス達に相談しつつ、考えを整理するのであった。
「前者の場合、『聖女』一行歓迎パレードに便乗して警備が手薄になった地区に放火し、領都を混乱に陥れる算段だったって事か?」
アンクが、タウロの考えを細かく分析して見せた。
「それだと、他にも手を用意していても良くないか?」
ラグーネが、物足りなさを感じたのか疑問を口にした。
「四か所とも大火事にならなかったから、次の手を打たなかったのではないでしょうか?」
シオンが、当然と思える指摘をした。
「そうね。シオンの言う通り、私達がそれを未然に防いだ事になるのかも」
エアリスはシオンの指摘に賛同した。
「今回は、エアリスの活躍のお陰だよ。──この通り、『聖女』扱いだし」
タウロは野次馬達から「『聖女』様、こっち向いてー!」と、黄色い声援を受けるエアリスを冷やかすのであった。
「ちょっと、お願いだから止めて!」
エアリスは本当に嫌がる素振りを見せたので、タウロは素直に従い止めると、そこへ領兵隊長がやって来て、その案内で公爵城館に案内される事になるのであった。
タウロは領兵隊長に道すがら、『聖女』本人ではなく、その一行の者だと伝えたのだが、
「……わかります。大騒ぎになってしまいますもんね。そうですよね。うん」
と、前世で一流芸能人がプライベートで騒ぎにならない様に、ただのそっくりさんですと答え、それに対して妙に理解を示す食堂の店主の様な反応をされるのであった。
「まぁ、悪い噂でもないけど……、後でまた説明する事にしようか」
タウロもこれ以上は説明しても理解を得られないと思ったのか匙を投げるのであった。
こうして、タウロ一行は、『聖女』様とその側近としてバリエーラ領都の住民の間で一躍人気の的になるのであった。
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