第450話 祝福の儀

 タウロ達が、国内を巡る予定である『聖女』マチルダに同行する事が決定した翌日。


「みんなごめん。思わぬ事態になっちゃった」


 エアリスはうなだれると、集まったタウロ達に改めて謝った。


「相手はこの国の王太子だろう?それを相手に断るという選択肢はないから仕方ないさ」


 アンクが、平謝りのエアリスを擁護した。


「そうだぞ。タウロでさえ何もできなかったのだ。この場合は仕方ないのだ」


 ラグーネも親友を案じて庇う。


「ボクもその場にいましたから言いますが、あれは断れないと思います」


 シオンも前日の状況を思い出して頷いた。


「兄上、俺だけごめんなさい」


 ハクは状況が掴めないまま、意気消沈する一同をみて謝罪した。


 義兄であるタウロが、自分を庇ったのだけはわかっていたからだ。


「ハクは元々、手続きでこちらに来ていただけだし、王子殿下のお願いに便乗して僕が同行させただけだから、大丈夫だよ。それよりも、王都内での『聖女』の活動がある間に今後について話し合っておこう。──アンクとラグーネはどうしたい?」


 タウロは、そう言うと、今後の活動についての話題に切り替えた。


 王都内どころかこれから『聖女』の活動に付き合わされるのだ。


 この間に同年代の有力な貴族や才能溢れる者達と親しくなれるチャンスではあるが、冒険者として気持ちが強いタウロにとっては、正直どうでもいいことではある。


 だが、仲間として復帰したエアリスの立場も考える必要がある。


 自分を犠牲にしてみんなを庇おうと動いてくれたのだ。


「俺達はもちろん、リーダーについて行くよな?」


 アンクがラグーネに話を振った。


「もちろんだ。私達もその聖女一行について行けるとよいのだがな」


 ラグーネもアンクに同意すると、タウロに案を求めた。


「……うーん。あの時はハクを外してシオンを入れるくらいしか対応できなかったけど、王子ならもしかしたら何か案があるかもしれない」


 さすがのタウロもそれくらいしか案が思いつかなかった。


 なにしろ相手は、この国の王太子と、話題の『聖女』である。状況を覆すのは難しい。


 頼れるのはフルーエ王子くらいだった。


「……そうね。でも、いくらフルーエ王子でも王太子殿下と『聖女』の決定を覆すのは難しいと思う。だから、最悪、護衛の近衛騎士の中にアンクとラグーネを入れてもらうくらいしか思いつかないわ」


 エアリスもタウロと同じ様な意見だった。


「俺とラグーネはリーダー達に同行できれば何でもいいぜ。それにやる事は同じ旅だろ?何の問題もないさ」


「アンクの言う通りだ」


 二人は前向きにそう頷くのであった。


 こうして、あまり実になる話し合いとは言えないが、今後についての決定が行われるのであった。



 この日の、昼。


 タウロ達は『聖女』の王都での活動として、早速王宮で行われる『祝福の儀』に同行する事になった。


「ついに、聖女マチルダ様の秘術が見られるのだな!」


「前回の聖女は百年ほど前に現れ、祝福された国はその後繫栄したと、伝承が残っているから楽しみだ!」


「これでサート王国は増々栄える事になるぞ!」


 王宮に集まった貴族達は口々に今回の『祝福の儀』を楽しみにしていた。


 王宮内の庭には関係者が所狭しと並んでいる。


 『聖女』の取り巻きであるタウロとハク、エアリスにシオンも特等席でその状況を見られるのだから、運が付いていると言えるかもしれない。


「『祝福』……ねぇ?」


 エアリスは何やら意味ありげに首を傾げた。


「どうしたの、エアリス?」


 一緒に参列しているタウロが、声を掛けた。


「あ、何でもない。──実際に見てみないと確かな事は言えないから」


 エアリスはそう答えると口を閉ざした。


「?──あ、始まるよ」


 『聖女』を連れたルワン王国代表の挨拶が始まった。


 多分まともに話を聞いているのは、王家関係者くらいだろう。


 タウロも話をスルーしていると、サート王家側からも短い挨拶があり、儀式用に着飾った『聖女』マチルダが参列者が取り囲むスペースの中央に入って来た。


 お付きの者が、厳粛な雰囲気の元、先導し、そのまますました表情で『聖女』の傍に佇む。


 そして、『聖女』マチルダが祝詞を唱え始めた。


「……祝福するだけなら、すぐ終わるはずなんだけど……」


 エアリスがぼそっとつぶやいた。


「え?」


「祝福についてエアリスは何か知ってるの?」


 エアリスにタウロは確認する。


「あ、やっと始まるわ」


 エアリスが『聖女』の方を指差した時だった。


『聖女』マチルダが、「サート王家に栄光と祝福を!」と告げると、続けて『祝福』と、大きな声で詠唱した。


 すると、淡い穏やかな光が一瞬『聖女』を包み、その光が次の瞬間にはパッと広がっていく。


 参列者はその光に包まれて行くのだが、その光が王宮一帯を覆うとすぐに消え去った。


「なんと温かい光なんだ……」


「これが『祝福』……!」


「なんと素晴らしい……!」


 参列者から口々に『祝福』の力について賛辞が送られた。


聖女マチルダもその賛辞に満足そうだ。


「……やっぱりだわ」


 エアリスが、タウロの傍でつぶやいた。


「どうしたの?」


「……彼女の『祝福』はまだ、覚えたてのものよ。あれなら私にもできるから」


 エアリスが小声でタウロに答えた。


「え……!?」


 エアリスはとんでもない事を口にした。


 それはつまり、エアリスも『聖女』という事になる。


「あ、違うわよ?私は聖女じゃないからね?──タウロ、ヴァンダイン侯爵家に滞在してくれている竜人族の守護者達の存在を忘れていない?」


「あ、竜人族で『真聖女』スキル持ちのマリアさんだっけ……?」


「そう、私、そのマリアさんの元で修行みたいな事していたから、色々と教えてもらったの。その中で、いくつかのスキルの上位能力を覚えるとそれに付属して使えるようになる能力がいくつかあるのだけど、そのうちのひとつに『祝福』があるの……」


「……それはまた……」


「だからわかるの。マチルダの『祝福』ってまだ、初歩の初歩なの。それだとね?タウロの使う『浄化』とか、治癒魔法など複数の魔法を同時にかける事ができるだけで、特別凄い事ではないのよ」


 いや、それだけでも十分凄いんだけどね?


 真聖女の元で修行していたエアリスが、感覚が少しおかしくなっている事にタウロはやっと気づくと、内心ツッコむのであった。

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