第429話 敵の目的とは

 タウロは、現在の実家である領主城館まで、姿を隠したまま帰って来た。


 出入り口で魔法を解除して姿を現そうかと思っていたが、今は誰が見張っているかわからない。


 だから念の為、今日はそのまま城館に入っていくのであった。


 内部に入ると自分の部屋の前まで戻った。


 そこで、やっと魔法を解く。


 そして、中に入ると丁度、メイドが部屋の掃除をしていた。


「お帰りなさいませ、タウロ様」


「お掃除ご苦労様。父に今から会いたいのだけど大丈夫かな?」


「伯爵様は今、執務室でお仕事中かと……。緊急のご用件でしたら、今からスケジュールを確認してきましょうか?」


 メイドは掃除を中断して、タウロに確認した。


「じゃあ、お願い。その間に僕は着替えておくから」


「それならお手伝いを!」


 メイドは、タウロの着替えを手伝うべく引き返そうとした。


「わっ!──いいから、君は父の確認をお願い!」


 タウロは慌ててメイドを制止した。


 未だにただ服を着替えるだけでメイドが手伝おうとして来る事に慣れないタウロであった。


 それから三十分後、父グラウニュート伯爵は、タウロが帰って来ている報告を受けて、時間を取った。


「どうしたタウロ。緊急の用事らしいが旅先で何かあったのか?」


「実は──」


 タウロは、クエストで行った村での出来事、そして、そこでの依頼内容を簡単に説明した。


「……ふむ。正義の為と言ったか……。そうか……。心当たりは無くも無いがな……。実は、爵位を継ぐ以前の若い頃、私は放蕩息子と呼ばれていた時期があってな。まあ、当時の家臣達からの評判は良いとは言えなかった」


「そうなのですか!?」


 父グラウニュート伯爵の若い頃の告白にタウロは少し驚いた。


 街での父の評判はとても素晴らしいもので、批判している者を探す方が難しいぐらいである。


「中には、私が爵位を引き継ぐなら辞職すると、先代に直談判する者もいたくらいだ」


「でも、今はちゃんと引き継いで、善政を敷いておられます」


 タウロは、父グラウニュート伯爵の今の領政を評価した。


 地下の上下水道の一大改革を始めとし、農業、商業にも力を入れて領内の発展に努めてきた事は、タウロも話に聞いて知っている。


 時には失敗もあった様だが、圧倒的に成功例が多く、悪く言う者はいない。


「私にもその自負はあるのだがな。先ほど言った様に、私が爵位を継ぐ事に反対する者達は実際いたのだ。そして、その者達は先代の遺児が存在しないかと探していた……」


「だから、領内で先代の遺児が存在する様な噂が各地に残っているんですね」


 タウロはそこで納得した。


 それっぽい噂はあったが、確証のあるものはなく、不思議に思っていたのだ。


「もしかしたら、その村は私の事が気に入らない勢力なのかもしれないな。そこにタウロを養子に迎えた事で、パーティーで何かを起こそうとしているのだろう」


 父グラウニュート伯爵は考え込んだ。


「……どうしましょうか?僕は情報を流して目的を確認し、その内容次第によって、対応策を練り、当日までに未然に防ぐ事が出来ればと思ったのですが……」


「そうだな……。目的を知る事が出来れば、そこから期限は一週間か。そんな勢力があるとしたら、内部にも誰かいる可能性があるが……」


「相手が僕達を使って探らせるという事は、可能性的に低いのでは?」


「そうだと良いのだが……。反対勢力だった過去を持つ者も、許して一部家臣に戻って貰っているからな」


「そこは、当日の情報を一部隠して伝えておく事にしたら良いかと」


「そうだな。早速、信用出来る者に、伝えさせよう。──ところでタウロ、領内の旅はどうだ?」


 父グラウニュート伯爵は、養子である息子の感想を聞きたがった。


「はい、巡った街や村々では飢えに苦しむ者を見た事が無く、安定した生活が送れている者がほとんどだと思いました。もちろん、貧しい者もいるでしょう。ですが、他の貴族の領地に比べ、恵まれていると感じました」


 タウロは、正直な感想を述べた。


「そうか……。タウロが言うのなら間違いないな。はははっ!──ずっと領主を務めていると、自分のやっている事が正しいのかと、立っている足元を見失う事があるのだ。タウロのお陰でその確認が出来た」


 父グラウニュート伯爵は、頷くとタウロの頭をクシャっと撫でた。


 そして続ける。


「当日のタウロの紹介パーティーは領内の臣下や有力者だけでなく隣領の貴族達も招待している。そこで問題を起こさせるわけにはいかない。それを当日の主役であるタウロに任せるのも変な話だが、……頼むぞ」


「はい。相手の目的を聞き出して、当日までに解決します」


 タウロは、そう伝えると、執務室を後にした。


「……反対勢力か。うちの部下にも念の為以前から調べさせていたが、音沙汰がない部下もいる。タウロの報告通り、誰かが動いていると警戒した方が良いな……」


 父グラウニュート伯爵は真剣な表情を浮かべると、考えを巡らせるのであった。



 タウロは自室に戻り、また、冒険者姿に戻ると、魔法で姿を隠して城館を後にした。


「父の様な立派な人物でも反対勢力があるのか……。でも、反対するにも御旗が必要なはず。普通に考えたらハクという事になるのだろうけど……。ハクが先代の遺児だったら紫系の髪色に、青い瞳のはず。ハクは黒髪に、黒い瞳だから当てはまらないよなぁ……。違うとなると何が目的なのか……。大衆の面前で養子である僕の暗殺か、それとも、父を直接狙うのか……」


 タウロは可能性を色々と考えるのだったが、やはり、情報を渡して聞き出す以外ないかもしれないと、現状での結論を保留するのであった。

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