第416話 戦闘開始と終わり

 山村内で、戦闘が始まった。


 タウロが、短剣の男を一人仕留めていたその時、シオンは自分に向けられた矢を左手で見事に掴んで防いでいた。


「俺の矢を手掴みで防ぐ、だと!?」


 弓矢の男は、敵の後衛職と思っていたシオンに驚愕した。


 驚く相手に対しシオンは、すぐに光の矢の魔法を詠唱して反撃する。


 シオンは距離を取っている弓矢の男に距離を詰めようとすれば、その間にまた射られると思っての判断であった。


 弓矢の男は最初こそ驚いたが、光の矢は想定内だったのかギリギリで躱す。


 そして、二射目を放とうと弓矢を構えてシオンに視線を向けた時だった。


 距離があったはずのシオンが、眼前に迫っていた。


 そう光の矢は接近する為の時間稼ぎでしかなかったのだ。


 後衛と思えない素早い動きに弓矢使いは、驚いて後方に飛ぶ。


「それは無理です」


 シオンは、一緒のタイミングでその懐に飛び込む様に拳を繰り出した。


 まばゆい光の拳が、弓矢男の体に吸い込まれて行くと、鈍い打撃音と共に一筋の光がその体内を貫通した。


 ぐはっ


 弓矢男はその場に倒れ込むと意識を失うのであった。



 その頃、アンクは二人相手に圧されていた。


「こいつら戦い慣れてやがる……!」


 アンクは大剣だから、小回りは利かない。


 だが、魔剣であるから軽いのも確かで、二人相手に押されているとはいえ、上手く捌いている。


 敵のリーダーと剣の男は、すぐにアンクを片づけて、槍の男に加勢するつもりだったのだが、それが出来ずに内心驚いていた。


「こいつがこのチームのエースと見た!畳みかけるぞ!」


 敵のリーダーはそう判断すると、他の仲間に加勢するのを諦め、アンクに集中する事にした。


 だが、思いもよらない事が起きた。


 短剣の男が、子供相手にあっという間にやられてしまったのだ。


「くっ!この大剣使いは俺がやる。ガキをやれ!」


 敵のリーダーは剣の男にそう命令すると、アンクに斬りかかる。


「食らえ!双影斬!」


 敵のリーダーは独自の技を持っており、二本の斬撃がアンクに襲い掛かる。


「おっと!」


 アンクはその技に呼応する様に風魔法を宿した飛ぶ斬撃を繰り出し、双影斬を相殺してみせた。


「俺の双影斬を、馬鹿な!?」


 敵のリーダーは、自分の技が防がれた事に驚いた。


 こんな事を出来る敵には久しく出会っていなかったのだ。


「……双影斬……か。まさかお前、傭兵界の有名人『二刀いらず』のシャドか」


「!その名を知っているという事は……、その出で立ち……、『黒衣の赤鬼』と呼ばれたアンク……か?貴様、生きていたのか……!」


「誰も死んじゃいないさ。傭兵は引退したんでな。それにしても道理で強いわけだ。俺も当時はあんたの名前を聞いたら敵に回したらいけないと気を付けていた一人だが、こんなところで出会うとはな」


「現役当時は、避けていたのに、戦場では無いところで遭遇するとはな……。噂以上の強さには驚いたが……な!」


 シャドは、不意を突こうとアンクに斬りかかった。


 だが、アンクはそれにすかさず対応する。


「現役当時の俺なら負けていただろうが、『今』の俺の敵じゃないな」


 アンクはそう宣言すると、大魔剣の一振りでシャドの剣を断ち、その勢いで斬り捨て、勝利するのであった。


 その頃、ラグーネは槍の男を魔槍で圧倒し、抵抗もほとんどさせずに仕留めていた。


 そして、タウロは、小剣『タウロ』の敏捷性で剣の男を一方的に攻め立てる。


 すると、剣の男は目の前の子供との圧倒的力量差に勝てないと判断、剣を捨てると降伏するのであった。


「そ、そんな……。五人とも一流冒険者にも引けを取らない腕利きの傭兵だったのに!」


 商人を名乗るグラドは、その場で踵を返すと、乗って来た馬車を置いて走って逃げようとした。


 だが、俊敏なシオンが簡単に走って追いつき捕まえるのであった。


「くそっ!」


 グラドは、まだ、観念しきれないのか悪態を吐いている。


「ガーデさん。この村の次は領都まで行きますよね?」


「……は、はい!行きます!」


 腰を抜かして一部始終を眺めていたガーデは、タウロの声を掛けられると敬語で返答した。


「そこで領兵に引き渡しますね。村長、この男との取引していたものは危険なものです。ですから、本来なら罪に問われてもおかしくないのですが、知らなかったようなのでなんとか不問にしてもらえる様に、上には相談してみます。とはいえ、村の収入源が急に無くなるのも、問題でしょう。その辺りも僕から領主であるグラウニュート伯爵には一言添えておきますので、悪いようにはしませんよ」


「「え?」」


 村長とガーデは、目の前の少年の口から領主の名前が出てきた事に困惑した。


「僕はこういうものです」


 タウロは、そこで初めてマジック収納から領内巡検使の証を出して見せた。


「そ、その紋章は、領主様の!」


 村長は、驚くとその場に平伏する。


 集まって来た村民達はそんな村長を前にして、何事かとこちらも動揺した。


 ガーデはガーデで、自分が雇った冒険者が領内巡検使の証を出して村長を平伏させているのをポカーンと間の抜けた表情で眺めていた。


 腰も抜けているので、なんとも笑える光景である。


「これにて一件落着~。ふぉっ、ふぉっ、ふぉっ!」


 タウロは前世の時代劇の様な台詞を言うと、取り敢えず解決した事に満足するのであった。

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