第408話 領主の城

 タウロ達が登録の為に訪れた冒険者ギルドグラウニュート支部は、緊迫した雰囲気であったが、この後の予定もあるので早々に受付で登録をして、ギルドを後にした。


 外に出て改めて街の雰囲気を感じる。


 伝統と格式のある街だが、閉鎖的ではなく新しいものを取り入れる気風がある街だと父であるグラウニュート伯爵本人から聞いていた。


 領主邸である城館がある方向にタウロ一行が向かっていると、通行人から興味深い会話が聞こえてきた。


「聞いたか?領主様が新たな農業方針を打ち出したみたいだぞ?」


「そうなのか?」


「何でもこれまでにない、新しい、とても品質の良い種子をいくつも手に入れられたとか。それを今期から早速試験的に育てて、その結果次第で来季から大規模に展開するらしい」


「最近、農家は、豊作が続いたお陰で俺達庶民の生活も食べ物の価格が安定して余裕が出来てたが、価格がその分下がったから、農家の利益は停滞気味だって友人が言ってたな。領主様がやる事だ。きっと、農家が喜ぶ大きな改革になるに違いない!」


 通行人の二人は熱く語っている。


 え?それってこの間僕が上げた種子の事!?決断ちょっと早すぎない……!?


 この聞こえてくる噂話には流石のタウロも驚くのであった。


「そう言えば、その種子を入手したのが、領主様の養子になさった世継ぎららしいぞ?」


「へー、そうなのか?最近、そのお世継ぎのいい噂をよく聞くが、お披露目はいつするんだろうな?」


 え?良い噂?父上、僕の噂って何を広めているんですか?


 タウロは、完全に通行人の会話に聞き耳を立てる格好で歩いている。


「さすがに俺もそこまでは知らないなぁ。お世継ぎの噂が広まっているって事は、もうすぐじゃないか?その為に領主様自身が噂を広めている可能性も高いからな」


 この通行人の方、事情通だな……。


 タウロはこの街の住民の知識力に感心しながら聞き入っていたが、分かれ道で通行人は別の方向に行ってしまった。


「ああ、もう少し聞きたかったなぁ」


 タウロが、思わずぼやくと、


「ははは!今から親と会うのだから、直接聞けば良いではないか!」


 と、ラグーネが指摘した。


「そうなんだけどね?住民の意識調査にもなるじゃない?」


 タウロは苦笑して答える。


「タウロ様は、そんな事まで考えてらっしゃるのですね!さすがです!」


 シオンは、無邪気に感心した。


「ほら、三人とも、城門が近づいて来たぜ」


 アンクが、領主邸がある城館を囲む城壁を指さした。


「遠目から見ても立派に見えたけど、近づくと、より立派だね」


 タウロは感心する。


 城門まで回っていくと、当然ながら門番がいて道を阻んだ。


「何者だ?ここは領主様のお城。観光地ではないから、ここより先は控えて貰おう」


 当然の反応である。


「僕は領主であるグラウニュート伯爵に会う為に参りました。領内巡検使のタウロが来たとお伝えください」


 タウロは、どこまで通用するのかわからないが、そう伝えると巡検使の証を出して門番に見せた。


「……確かに、グラウニュート伯爵家の家紋である天秤と塩の山、剣が入った巡検使を証明する札……。最近では発行していないはずだが……。しかし、これは本物なのか!?」


 門番は子供であるタウロをまじまじと見つめると、


「ちょっと待て。──いや、お待ちを!上に確認して参ります!」


 と告げて、もう一人の門番にその場を任せて城内に走っていった。


「リーダー、何で息子です。って名乗らないんだよ。そっちの方が速そうだがな」


 アンクがもっともな事を聞いた。


「ほら、通行人がお披露目がどうのと言ってたじゃない?それまではあまり言って回らない方が良いのかなって」


「確かに……、言われてみれば、今は黙っておいた方が良いかもな。──お?戻って来たぜ?」


 門番は上官を呼んで来たらしく、背後には兵士も数人連れていた。


「この方々がそうなのだな?」


 上官らしい人物が門番に確認する。


「はい!この方々が領内巡検使の証を示されました!」


「うむ。失礼ですが、その証である札を確認してもよろしいですかな?」


 上官は、まだ、子供であるタウロに恭しく対応した。


「はい、どうぞ」


 タウロは話の分かり易そうな、この年配の上官に証を示した。


「確かに!これは領内巡検使の証そのもの……。現在、これを持つ者は一人のみ……。そして、傍にいるのが、アンクという事は……、確認しました。お通り下さい」


 上官の男は、これ以上言うのは憚られると思ったのか自ら道案内をしてタウロ一行を案内するのであった。


「おっさん、久しぶりだな」


 アンクが、門番の上官に声を掛ける。


「お前もそのおっさんの様な年齢になってきてるだろうが!」


 上官の男は、アンクを知っているらしく、アンクの軽口に反論した。


「わはは!違いない!リーダー、このおっさんとは以前、戦場で一緒した事があるんだよ」


「……昔の話だ。──失礼しました。アンクが傍にいるという事は、タウロ様ですね?領主様からは話を伺っております。タウロ様の事はお披露目会まで秘密にして、みんなを驚かせたいとおっしゃっておられる一方で、街に噂を流して認知させる事を進めていますので、ご令息である事を名乗らずにお出で下さり助かりました」


 上官の男は歩きながら軽く会釈した。


 そして、城館内にタウロ達を案内する。


「街で噂は軽く聞きました。詳しくは聞いてないですが、どんな噂が広まっているのでしょうか?」


「冒険者としての武勇伝や、リバーシでの宰相閣下との立ち回りなどですね。領主様が嬉しそうに何度も話されるので、私も覚えてしまいましたよ。ははは!」


 上官の男は笑うと、応接室まで案内した。


「ここでお待ち下さい。──あと、アンク。お前は領主様の前で粗相がないようにな?」


 上官の男はアンクに注意をして部屋を出て行くのであった。


「仲が良いね?」


 タウロは上官の男とアンクとの良い関係性を茶化すのであった。

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