第404話 二人でお出かけ

 タウロ一行は、宿を取ると各自、自由時間とした。


 アンクは明るい内から飲みに出かけると言って外出した。


 タウロはそれを見送ると、自分も出かけようと普段着に着替え、ぺらにはベルトに擬態して貰って部屋の扉を開けた。


 すると、丁度扉をノックしようとしていたシオンが目の前にいた。


「シオン、どうしたの?」


 タウロは、いつものフード姿であるシオンに確認した。


「あ!──ラグーネさんは、『次元回廊』ですぐ出かけてしまったので、タウロ様はどうしているのかなと……」


 シオンはばったり扉の前でタウロが出て来たので、驚いてもじもじしながら答えた。


「ラグーネが『次元回廊』で?竜人族の村に顔を出しに行ったのか、珍しいね。──僕は、今から街長邸に出かけようかなと思ったんだけど……、シオンも付いてくる?」


「いいのですか!?──お供します!」


 シオンは、嬉しそうにしている。


 シオンは猫人族の血が流れているが、容姿は通常の猫人族と違う。


 ほとんど人の姿に猫耳と尻尾があるだけという姿は、普通の猫人族とは違うし、かと言って人でもないという特徴の為、本人はその事を気にしていつもフードを目深に被っている。


「そのフード姿、革鎧の闇魔法のやつかな?休みだから脱げばいいのに」


 と、タウロが提案した。


 今日は休みだからリラックスして欲しいのだ。


「この革鎧は便利なので、脱ぐに脱げないです。革鎧の闇魔法効果でフードも風が吹いたりしても脱げないですし。それに、何よりタウロ様から頂いたものなので部屋に置いておく事も出来ません」


 シオンは当然とばかりに答えた。


「え?という事は、そのフードの下、籠手も着けたままなの?」


「もちろんです!」


「……流石にそれだとゆっくりできないでしょ?ほら、革鎧と籠手は一緒の間、僕が預かっておくから装備外しな。──街長邸に行く前にシオンの服を買いに行こうか」


 タウロはそう言うと、シオンが戸惑うのも無視して装備を外させる。


 シオンは観念して革鎧の効果を解除すると、黒色のフード姿は消え、猫耳、尻尾姿の完全装備しているシオンが現れた。


 よく考えると、装備一式を上げてからずっと、シオンのフード姿ばかりだったので、この姿は新鮮だ。


「ほら、革鎧と籠手も外して。預かっておくから」


 タウロはそう言うと、まずは、籠手を外させてマジック収納に入れ、革鎧も脱がす。


 革鎧は動きやすい様に露出度が高いので、一瞬「あれ?」っと、タウロはなった。


 というのも、革鎧の下から覗く部分は地肌が覗いていたのだ。


「シオン、革鎧の下って何も着ていないとかないよね?」


「革鎧の下は、暑いので下着以外着ていないです!」


 シオンがタウロに言われるがまま、革鎧を脱ぎ出したので、タウロはそれでやっと慌て始めた。


「わぁ、こんなところで脱がそうとして、ごめん!一旦部屋に入って!」


「はい?」


 シオンは、そこでやっと自分が恥ずかしい格好をタウロの前でしようとしている事に気づいた。


 普段、安心しきっていてそういう意識が全くなくなっていたのだ。


 タウロはそんなシオンを急いで部屋に入れた。


 そして、マジック収納からタウロの普段着の替えを取り出すとシオンに渡す。


「革鎧を脱いだら、これを着て」


「タウロ様の服を!?ありがとうございます!」


 シオンは、女性としての恥ずかしさより、タウロの服を渡される嬉しさの方が勝ると、革鎧をすぐ脱いでタウロの普段着に着替えるのであった。


 タウロは背中を向けて着替えるのを待ち、シオンの革鎧をマジック収納に収納する。


「うん、これでよし……。僕もシオンが普段からフード姿に見慣れてる上に、ボクって口調だから女の子なのをつい忘れてたよごめん。──着心地はどう?新しい服を着るまではそれで我慢してね」


 タウロは苦笑して謝罪すると確認した。


「いえ、ボクもラグーネさんといつも一緒で気にかけていなかったので、安心しきってました……。タウロ様の服はもちろん、着心地は良いです!あ、でも、胸の辺りがちょっときついかもしれないです……」


 シオンはちょっと服の裾を伸ばす素振りを見せた。


「僕のサイズは小さめだからね。そろそろ僕も服買っておかないといけないなぁ。──それじゃあ、僕もシオンと一緒に服を買う事にするかな」


 タウロはそう決めると改めてシオンと二人で街長邸に向かう前に服を買いに出かけるのであった。




 シオンは、最初、定着しているフード姿ではない事から、視界に晒される猫耳と尻尾を気にしていた。


 タウロはそんな落ち着かないシオンの手を引いて歩く。


「シオン、自分の姿に自信を持ちなよ。少なくとも恥ずかしがるところはないから」


「!──はい、タウロ様!」


 シオンは尊敬するタウロに背中を押されて勇気づけられたのか猫の様に丸めていた背中をピンと伸ばして歩き始めた。


「あらあら、可愛らしい子だね」


 通行人のおばあちゃんが、シオンを見て褒めた。


「かわいいな!どこで買ったんだい?え?それ、仮装じゃなくて本物なのか?うちの娘に買ってあげようと思ったのになぁ」


 人間でも獣人族でもない珍しい姿のシオンに仮装だと思って猫耳と尻尾がどこで売っているのか聞いてくる通りすがりのおじさんもいた。


「あら、珍しいタイプの猫人族のお客さんね!──ちょっと待って。猫耳付きのカチューシャに、付け尻尾……。お金になる気がするわ!」


 二人が入った裁縫店の女店長が、シオンのかわいい姿を見て創作意欲を刺激されたのか接客を忘れて紙に筆を走らせ始める。


 そんな周囲の嬉しい反応に、新鮮なものをシオンは沢山感じると、コンプレックスはどこかへ飛んで行ってしまったのか、タウロと一緒に心の底から買い物を楽しみ始めるのであった。

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