第385話 染物の村
タウロ一行はカクザートの街近郊の村にやって来ていた。
その村は傍に森があり、村の半分は森に隠れているが、各所から煙が沢山上がっているので、遠くからでも人が住んでいるのがよくわかる。
それに、沢山の染物をした布が乾かす為にいくつも、はためいているのでそれも目印になるのだ。
近くまで来ると、その村全体は柵で囲まれていて意外に厳重で、出入り口には門番が立っている。
「ここは、染物の村ゼンユでしょうか?」
タウロはみんなを代表して門番に確認した。
「うん?そうだが、君らは何の用かね?客にも見えないが?」
武装した子供二人、大人二人の一団である。
門番としては警戒もするが、この組み合わせに不思議になるのは仕方がないだろう。
「僕達はカクザートの街から来た冒険者です。今回、ゼンユの村の村長さんからの依頼で、護衛任務の為にやってきました」
「ああ!話は聞いている。それにしても子供が二人もいる冒険者チームが、カクザートの様な大きな街では最強のチームなのか?──もちろん、疑うわけではないが、実力の方は大丈夫だろうな?」
門番が確認するの仕方がないだろう。
村長の娘の嫁入りは村にとって一大イベントであり、今後の村の発展の為にも重要な事である。
今回、村を訪問していた腕利きの旅人や、腕自慢の村人の護衛を差し置いて、そのリーダーとしての役割を冒険者に任せる事になっている。
それが、子供のリーダーと思われる冒険者がやって来たのだ。
心配になるというものであった。
「一応、カクザートの街でD+冒険者として活動しています。これが依頼書の写しと冒険者を示すタグです」
タウロが、一枚の書類と首から下げた銀製のタグを出して見せた。
ラグーネ達もタウロに続いてタグを見せる。
「確かに、本物みたいだな……。世の中広いって言うが、子供でDランク帯になる冒険者がいるとはな……大したもんだ。──ほら、村の奥に人一倍大きな煙が上がっている家があるだろう?あそこが村長宅だ。今、丁度、染物の『染め』の段階でピリピリしているからあんまり周りを刺激しないでくれ」
門番はそう教えてくれると村の門を開けて中に通してくれた。
「わかりました。ありがとうございます」
タウロは門番にお辞儀すると中に入る。
ラグーネ達もそれについて行くのであった。
「最近の冒険者は礼儀正しいなぁ。俺が冒険者やってた頃は、そんな感じじゃなかったぞ?」
門番はタウロ達に好感を持つと笑って見送ってくれるのであった。
タウロ達は村の中を突っ切って村長宅を目指す事にした。
周りは門番の言う通り、『染め』の段階らしく、各家の室内では職人が刷毛で一色一色丁寧に染めている様子が伺えた。
「へー。ここはかなり技術が高い作業をしてるみたいだね」
タウロが窓や、風通しの為に開けられた扉の隙間から各家を覗いて感想を漏らした。
「この村はこのグラウニュート伯爵領内では塩湖の塩の次に有名だからな。俺も来るのは初めてだが、ここの染物は『ゼンユ染め』として、高値で取引されると聞いた事がある」
アンクがタウロに豆知識を披露してくれた。
「ボクも聞いた事あります。領外にも輸出されるほど人気だとか」
シオンもカクザートの住民なのでご近所の情報はあるようだ。
「なるほど、それなら一番の冒険者を雇うとか羽振りがいいのも納得できるな」
ラグーネは、自分達がその一番評価されている冒険者である事が誇らしいのか胸を張るのであった。
「おい、あんたら、今、なんて言った?」
ラグーネの言葉を聞き咎めて、若い村人が声を掛けてきた。
「僕達は、カクザートの街から依頼を受けて来た冒険者チーム『黒金の翼』です」
タウロはラグーネが答える前に村人の前に出ると挨拶代わりに名乗った。
「おいおい、勘弁してくれよ。ちんちくりんの子供が二人もいる冒険者チームなんか聞いた事ないぞ?こんなのに指図されて俺達もお嬢さんをお守りできるのか?」
「それが今回の仕事なので、やりますよ」
タウロは笑顔で対応する。
「さっきから、子供がしゃしゃり出てしゃべってるが、そこの大剣背負ったリーダーさんはだんまりか?お宅ら本当に大丈夫かよ?」
若い村人は余程腕っぷしに自信があるのか、それとも余所者に仕切られるのが嫌なのかしつこく絡んでくる。
「彼、アンクはリーダーではないですよ。僕がリーダーのタウロです。よろしくお願いします」
タウロは、トラブルを避ける為なら、アンクをリーダーにしておいても良かったのだが、護衛中この手の若者が下につくのなら、理解して貰った方が良いと判断して自分からリーダーである事を名乗り出た。
「はぁ?本気か?子供がリーダーなんて誰が従うんだよ。勘弁してくれ!」
いよいよ若者の不満が膨れ上がっていく。
周囲も何事かと集まって来た。
「うーん。それでは、軽く僕と手合わせしてみますか?そちらの望む対戦でよろしいですよ?」
「本気かガキ?この村で棒を使わせたら俺に敵う奴はいないんだぜ?」
若者はそう言うと、家の軒先に立てかけてあった棒を二本掴み、タウロに一本投げて寄越した。
「棒ですか。得手ではないですが、棒も以前は練習していたのでいいですよ」
タウロは、そう答えると棒を軽く振って風を切る音を鳴らすと、すっと構えて見せた。
「……構えだけは一丁前だな。俺はガキが相手でも容赦しねぇぜ?」
若者は、そう答えると、タウロに対して身構えるのであった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます