第376話 属性
シオンの自分を見つめる目に、宗教的な信者のそれに近いものを感じたタウロであったが、一緒に旅をすれば、その洗脳的な自分への憧憬の念も薄れるだろうと、期待して放置する事にした。
タウロは、気持ちを切り替えると、シオンにその姿について直接、確認する事にした。
「この姿……、ですか?ボクの母は猫人族でした。父は人族だったので、普通はどちらかの形になるものなのですが、ボクの場合は、その間、人族の見た目に耳と尻尾のみが付いている形です……。ですから人として認めて貰えず、獣人族からも半端者として仲間にも入れて貰えなかったので、フードを常に着て身を隠す様に生きてきました」
シオンはどうやら、悪徳冒険者チーム『灰色禿鷹』に隷属魔法で従わされる前から苦労をして来た様であった。
「でも、この竜人族の村では差別される事なく過ごす事が出来ました!なのでついついフード無しで行動を。──あ、ボクの事嫌いになりましたか?」
シオンは、捨てられた猫の様な目でタウロを見つめてくる。
「シオン、僕達は、君を仲間として迎えると決めたんだよ?それを容姿が少し違うからという理由で嫌になるわけないじゃない。というか、かわいいよ。ははは!」
タウロはそう答えるとシオンの心配を笑い飛ばした。
「そうだぜシオン。俺達、チーム『黒金の翼』に見た目なんかで差別する奴はいないさ」
と、アンク。
「うむ。私は竜人族だが、タウロ達は最初から歓迎してくれたから安心するのだ」
ラグーネも他人種として人族の多い世界では珍しい事を自覚していた。
だから普段は、魔法で竜人族の姿を隠してはいるが、それはトラブルを避ける為である。
シオンの気持ちはそういう意味では一番理解できるのは、ラグーネだろう。
「……ありがとうございます。もし、この姿を咎められて仲間に出来ないと言われたらどうしようかと不安だったので……。くっ、生きる……!」
シオンは、何度もタウロ達にお礼を言う。
だが、少し、シオンの語尾に引っ掛かるタウロ。
気になって、その事について聞きたいタウロであったが、
「ここでの立ち話をなんだし、中に入ろうか」
と、家に入るのを勧める。
「そうだった、私の家だから私が最初に言わないといけなかったな。くっ、殺せ」
ラグーネは笑うと、いつものやつが思わず出てしまうのであった。
そこで、タウロは「あっ」となる。
「……そう言えば、シオン。君、修行の中で何か口癖になった事とかない?」
家に入りながらシオンに質問した。
「え?特には無いと思いますよ?」
「そう?」
気のせいか?
タウロは、気になったが、今は、シオンと話す為に室内でゆっくりする事にするのだった。
「タウロ殿、みなさんお帰りなさい。シオン、良かったな」
ドラゴが、一行の帰宅を迎え入れた。
シオンの様子を見て、無事、仲間として受け入れられたのだと理解したのだろう。
ドラゴもほっと安心した様子だ。
きっと、シオンから悩みの相談の一つも受けていたに違いない。
「ところでシオン。修行はどうだったの?」
みんなが席に着くと、タウロは興味がった『竜の穴』の修行について、聞いてみた。
なにしろ鉄人の様な竜人族が、「くっ、殺せ」という口癖になる程である。
それ以外の人族が参加して短期間とはいえ、その修行を完了してここにいるのだ。
聞いてみたい事は多い。
「……とても大変でした。でも、他の竜人族のみなさんの修行内容に比べたら僕はまだ、楽だったと思います。……それでも地獄でしたが……。くっ、生きる……!」
シオン……、やっぱり変な言葉が語尾に付いているのだけど?
今度ははっきりと聞き逃さなかった、タウロである。
「「くっ、殺せ」」
その話になると、やはり過去を思い出してしまうのか、ドラゴとラグーネの兄妹も思わずいつもの台詞が出てきた。
「……ごめんね。無茶なところに君を預けて……。それで、修行の成果はあったかな?」
タウロは、気持ちを切り替えて本題に入る。
「タウロ様の力になれるならと、それだけを糧に生き延びる事を考えて修行に励みました。『灰色禿鷹』の隷属時代が甘く感じる程の地獄でしたが、タウロ様の為という目標があると頑張れました……!くっ、生きる……!」
シオンは、タウロの存在が励みになった事を口にすると、その苦労を思い出したと思われる間の後、やはり変な台詞が語尾に付いて来た。
「……シオン。やはり君、語尾に変な台詞が付いてるよ?」
タウロが、どうしても気になったので、指摘した。
「え?なんでしょうか?」
「『くっ、生きる……!』って、語尾に何度も付けてるよ?」
「え?口にしてました!?タウロ様の為に頑張ると自分に言い聞かせる時に、口にしていたのですが……。恥ずかしいです……」
シオンは、顔を赤らめると、下を向く。
シオンは、ちょいちょい可愛らしい仕草を見せる事がある。
まさかと思うけど……、男の娘じゃないよね?
タウロはシオンの属性を疑うのであった。
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