第372話 族長宅でのおもてなし

 タウロ一行は、族長リュウガの元を訪れていた。


 用件は暗殺ギルド殲滅の件のお礼を言う為だ。


 今回、竜人族の全面協力が無ければ、タウロ達だけでは不可能な作戦であった。


 あちらにも北の竜人族とやらがついていたのだ。


 人のみでは返り討ちにあっていた可能性が高い。


「タウロ殿、ようこそ。元気そうで何よりです!」


 族長リュウガは、村の英雄を笑顔で大歓迎する。


 そして続ける。


「報告で聞きました。タウロ殿が敵の本拠地に潜入し、危険を冒してくれたとか。お手数をお掛けしました」


 族長リュウガは深々とお辞儀をするとタウロ達を労った。


「いえ、僕達は、みなさんを敵の拠点に招き入れただけなので大丈夫です。お陰で暗殺ギルドの本拠地を叩いて、組織を潰す事が出来た事は僕にとってもこの国にとっても良かったと思います。きっと、今頃王都では大騒ぎだと思いますよ。本当にありがとうございます」


 タウロは、族長リュウガに笑ってそう答えた。


 実際、グラウニュート伯爵の領兵と竜人族の護衛によって、暗殺ギルドの首領であるボーメン子爵と、北の帝国から派遣されていた召喚士達が、王都に到着した頃であった。


 罪人達を王都の騎士団に引き渡すと、竜人族はお役目御免、グラウニュート伯爵の領兵と共に帰路に着く事になる。


「我々がお役に立てて良かった。こちらとしても今回の作戦は、竜人族が加担している可能性が大いにあった事ですから、他人事ではありませんでした。……それに報告を聞いて色々と思い当たる事がありましたから、タウロ殿達がおられて本当に良かった。村で流行した病も北の帝国の差し金の可能性が大きいと判断しましたから、タウロ殿には助けられてばかりです」


 族長リュウガは、そう答えるとタウロ手を取って握手をする。


「大袈裟ですよ、族長。僕は大した事はしていませんよ」


「いえ、大した事です。──そうだ、今、派遣した者達はどうしていますか?」


「ああ、カクザートの竜人族のみなさんですか?暗殺ギルド残党の討伐と、それ以外では休養だと思って各自ゆっくりして貰っていますよ」


「そうですか。戻りましたら伝言を伝えて貰ってよろしいですか?」


「はい。いいですよ」


「それでは……。『族長命令。竜人族の各自は、暗殺ギルドの残党の討伐の為に全国に散って励む様に。また、タウロ殿の救援要請を第一とし、何事にも優先して駆け付ける様に』です」


「ええ?僕は大丈夫ですよ?」


「いえ、我々竜人族は恩人であるタウロ殿に恩を返さないといけません。これぐらいはさせて下さい」


 族長リュウガが引かない姿勢をみせるので強く断れないタウロであった。


 でも、確かに緊急事態の時に竜人族の力を借りられるのは助かる。


「……ではお言葉に甘えます。そうだ、もし、僕達に出会う竜人族のみなさんがいたらその時は村に送り届けます。村に帰りたいと思う竜人族の方もいるでしょうし」


「お気遣いありがとうございます。その時は、交代要員を出しますので助かります。そうだ、タウロ殿、シオンには会いましたか?」


「いえ、まだです」


「あの子は、良いセンスを持っていますな。『竜の穴』の教官からよい評価が上がってきています。きっとタウロ殿のお役に立つでしょう」


 族長リュウガはそう褒めると、ご機嫌だ。


 余程、シオンを気に入った様だ。


「それは頼もしいですね。シオンの得手は拳闘術になるのでしょうか?」


「ええ。その様に、修行させているようです。棒術もやらせていますが、教官が丁度、拳闘術に秀でている者がいましたので、そちらに集中させています」


「……そうですか。では、シオンの装備を整えるのに良いお店はやはり……」


「そうですな……。やはりそうなると、拳闘術専用の籠手は、一点物を扱っている竜騎士武具屋が良いかと思います。あとは、鎧の方は最近また、評判を上げているランガス鍛冶屋店が良いかと」


「そうなりますよね」


 タウロは、自分もお世話になったお店なので笑って頷く。


「シオンは確か今は調整中でしたから、その間、タウロ殿達は数日滞在されるのでしょう?今日は良かったらうちで食事をして行って下さい。妻の手料理を振舞います。最近はタウロ殿が作ったカレーのルーを使って凝った料理を色々と試してるのですが、これがまた美味しいのですよ」


 タウロ一行は族長リュウガのお言葉に甘えて食事させて貰う事にした。


 タウロはカレー屋さん経営しているので、メニューのヒントが得られると思ったのだ。


 族長リュウガの妻オリュウは、流行り病から助けてくれた命の恩人であるタウロの為に料理の力を振るってくれた。


 竜人族の名物肉料理から、アレンジしてカレーのスパイスが効いた煮込み料理、サラダに火蜥蜴テールスープ、そして、タウロが驚いたのが、カレーうどんであった。


「カレーうどん……!?」


 食べてみると、確かに出汁も効いていてちゃんとしたカレーうどんだ。


「あ、ご存じでしたか?うどんというものが、遠方の国で食べられているのを知りまして、それをアレンジしてみました」


「この世界にもうどんあるんだ……」


 タウロは、感心すると前世以来のカレーうどんを堪能するのであった。

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