第373話 仲間の為の買い物へ

 族長宅で、おもてなしを受けたタウロ一行は、一晩、そのままお世話になり、翌日の朝も食事をさせて貰って族長宅を後にした。


「これからどうするんだいリーダー」


 アンクが確認する。


「とりあえず、あと二日はあるわけだから、この竜人族の村で自由に過ごすのもいいのだけど……。まずは、シオン君の装備を買っておいて、戻って来た時にプレゼントかな?」


「本人がいなくて大丈夫か?サイズ調整とかあるだろう」


 ラグーネが、大事な事を指摘する。


「体格は僕と一緒くらいだから、サイズ選びは大丈夫だと思うよ。それに、僕の方でも購入後、改造したいから、それをシオンにプレゼントしたいんだ。微調整は後で必要にはなると思うけどね」


 タウロは、新しい仲間を喜ばせたいと思ったのだった。


「歳も十四とリーダーと近いし、あっちも苦労してきた過去があるみたいだから、気さくな友達は欲しいよな。それに『黒金の翼』の仲間でもある。手っ取り早く距離を縮めるのには、プレゼントは凄く良いと思うぜ」


 アンクが、もっともらしい事を言う。


 アンク、意外に女性に貢いでいるのかな?


 そう思うタウロであったが、そこはプライベートな部分なので、聞かない事にしておいた。


「それでは、どこにいくのだ?」


「まずは、シオンの武器になる籠手購入の為に、『竜騎士武具店』かな。その後に、『ランガス鍛冶屋』で革鎧の購入をしようかと」


「うっ……。『竜騎士武具店』に行くのか……」


 ラグーネは、少し嫌な顔をする。


「「?」」


 タウロとアンクはそのラグーネのリアクションに疑問を持つのだが、あまり気に留めず、竜人の村名物の『滑車』に乗る事にした。


 三人とも、何度か試しているので慣れたもので、滑車の担当者にVの字のブレーキ用の木を貰うと、滑車をセットして貰って次々に降りていく。


 三人は、風を切ってあっという間に、麓にある竜人族の村のメイン通りに到着するのであった。


「やっぱり滑車は楽しいね」


 タウロは、族長宅から降りる滑車が大好きなのだ。


「便利なのは確かだな。わはは!」


 アンクも上機嫌だ。


「二人とも、乗り慣れていないからな。私ほどの現地民になると、普段、ブレーキを使用せず、勢いよく最後まで降り、終点で止め具にぶつかった勢いを利用してどこまで、飛べるか試していたぞ。勢いあまって血だるまになる者もいるくらいなのだ。今日は、タウロ達が前にいるから出来なかったけどな。ふふふ!」


 良い子は絶対真似しちゃいけないやつだ……。


 タウロは、現地民の遊び方に問題がある事を知ったのであった。



 三人はそのまま、『竜の騎士武具店』に向かった。


「いらっしゃいませー。あ、タウロ殿じゃないですか!それに、ラグーネ、久しぶりだな!」


 お店に入るとすぐ無駄にカッコいい男性店員が歓迎してくれた。


 思い出した。


 確か、ラグーネの親戚のお兄ちゃんだ。


「……久しぶりだな。モグ兄」


 ラグーネは、モグ兄が苦手なのか、ちょっと後退ったのがわかった。


「?」


 タウロは不思議に思ったが、そのラグーネの親戚であるモグ兄にお願いして籠手を見せて貰う。


 モグ兄は、テキパキといくつか商品を出して来て分かり易く説明をしていく。


 タウロが、一つ一つ商品を手に取って気になった事を質問する。


 モグ兄は、すぐに疑問に答えて、別の物を勧めたりするのであった。


 その間、ラグーネはモグ兄に近づかない様にしていた。


 気になる行動だったが、触れない方が良さそうだとタウロは判断し、放っておいた。


 すると、モグ兄の商品説明が終わった直後。


「なんだラグーネ静かだな。昔なら、沈黙に耐えられず、変な事の一つや二つしてただろうに。八歳の頃なんて──」


 と、モグ兄が、ラグーネに話を振った。


「ちょ、ちょっと、昔の話は止めてくれ!──これだから親戚に会うのは嫌なのだ!くっ殺せ!」


 ラグーネは慌てて、モグ兄が昔の事を話そうとするのを遮り始めた。


 なるほど、ラグーネは過去の自分の事をバラされるのが嫌だったのか。


 微笑ましい光景にタウロはくすくすと笑うのであった。


 タウロ一行は、シオン用の籠手を選ぶと、ラグーネの名誉の為にも、『竜騎士武具店』を早々に後にした。


 ラグーネが、ほっとしているのがまた、微笑ましい。


 そして、そのまま、その近所にある『ランガス鍛冶屋』に直行する。


「いらっしゃ……、──タウロ殿じゃないですか!久しぶりですな、がはは!」


『ランガス鍛冶屋』の店主であるランガスがタウロ見るなり、大歓迎ムード出迎えてくれた。


「お久し振りでランガスさん。今日も革鎧を見に来ました。良いのありますか?」


 タウロは、サイーシの街のアンガスという鍛冶屋に、そっくりである弟のランガスに会うのが楽しみであった。


 以前の事も思い出されて懐かしい気分になるのだ。


「もちろんです。とっておきの素材を入手したんで、サイズを言ってくれたら、仕立てますよ」


 そう言って、見せてくれた素材にタウロは身に覚えがあった。


「これって、もしかして、202階層の領域守護者、聖獣亜種の革ですか?」


「よく気づきましたな。──タウロ殿が討伐した魔物だと勧められるから、仕入れたんですよ」


 ランガスは嬉しそうにそう教えてくれた。


「──なるほど、確かにこれは良い素材です。これでひとつ革鎧をお願いします」


「わかりました。一日で仕立てるんで、明日また来てくれ」


 ランガスはそういうと、表に出て看板を外しだした。


「え?もうお店閉めるんですか?」


「当たり前です。タウロ殿からの注文だ。集中したいので、店なんてやってられないですよ。がはは!」


 ランガスはそう豪快に笑うと、タウロ達も店外に追い出す。


「じゃあ、お願いします」


 タウロはお願いすると、早く用件が済んだので、三人でお昼ご飯を食べる為に大通りに戻るのであった。

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