第361話 竜人族同士の対決

 ボーメン子爵の屋敷は、想像以上に広かった。


 増築に接ぐ増築で、からくり屋敷の様になっており、初見の者は十中八九迷ってしまうだろう。


 だが、竜人族の者達はそれをものともしなかった。


 感知系の能力で敵を発見し、その場所まで真っすぐ進めばいいのだ。


 そう、壁を突き破って前進するのだ。


 もちろん、一人一人が屋敷全体を簡単に吹き飛ばす事も不可能ではないが、領主邸はあらゆる証拠が沢山ある可能性が大きいので、力を押さえて殲滅する事になっていた。


 その光景を裏の林から観察していたタウロであったが、それが前世で観た未来から送られてきた殺人マシーンが警察署を襲撃する例の映画に思えて仕方がなかった。


 それも、その殺人マシーン級が15人、屋敷を襲撃しているのだ。


 悲鳴や、叫び声、断末魔が常に響いてくる。


 きっと地獄の様な光景が展開されているに違いないだろう。


「……俺達、一応、正義の側だよな?」


 アンクが、タウロに確認する。


「……ははは。力の差があるけど、その通り。──味方で良かったね」


 タウロは苦笑いしてアンクに答える。


「むっ。いくつか大きな魔力の持ち主がいるようです」


 赤髪のマラクが、索敵能力を発揮して子爵邸の中から感じる気配に気づいた。


 その瞬間であった。


 屋敷から爆発が起きて、屋敷の屋根の一部が吹き飛んだ。


 そして、そこから出て来たのは、屋敷の一部を焦がす炎にライトアップされたドラゴンであった。




 少し前──


「さっきから四天王と自称する弱い奴が次から次に現れたが、もう、ネタ切れかな?」


 大勇者の英雄は屋敷の三階まで次々に敵を倒しながら上がるとそうつぶやいた。


 そこへ一人の男が現れた。


「俺の鑑定が阻害されるとは……、貴様……、もしや、南の竜人族の者か?」


 何やら強そうな雰囲気を漂わせるその男は今宵の襲撃者の一人である大勇者の英雄の正体を見破ると指さした。


「……北の竜人族の手の者か」


「ふふふ。その通りだ。北では貴様達、南の竜人族の尾ひれの付いた伝説に長老達は怯え、俺達、若い者を怖がらせようとしていたものだが……、なんだ、さほど強そうにも見えんな。やはり昔話は真に受けてはいけないな」


「どんな話が広まっているのかは知らないが、見た限り、そちらは半人前の様だ。大人しく降伏するか、自害する事を勧める。ただし、逃がすわけにはいかない」


「俺を半人前だと!?──なるほど……。俺を怒らせて勝機を少しでも上げようとの作戦か。意外にせこい事を考えるのだな南の竜人族とやらは。俺は人との混血にして竜人族の限界を超えた最強の戦士。そんな挑発には乗らんぞ」


「実力差に気づけない時点で、勝敗は決しているぞ?」


 大勇者の英雄は、何か見えているのか、冷静にそう警告した。


「実力差?──ははは!どうやら優秀な鑑定眼を持っているのかもしれないが、俺は竜人族の限界を超える特別なスキルを持っている。それを使ったら最後、お前の負けが確定するのだ」


「──それは、もしかして『先祖返り』……、の事か?」


「!よく、気づいたな。本当に優秀な鑑定眼を持っているらしい……。しかし、気づかれても、貴様程度ではどうしようもないだろう。この力を使えば、誰も止める事が出来ない力を持ったドラゴンに俺は変貌する。恐れ戦け!これが俺の『先祖返り』だ!」


 そう叫ぶと、北の竜人族の男は、その体を爆発させ、着ていた服は四散し、見る見るうちにドラゴンに姿に変身していく。


 その爆発で、屋敷の一部は吹き飛び、その吹き飛んだ合間からその巨大なドラゴンは外に禍々しい姿を、現すのであった。




「「ドラゴン!?」」


 タウロとアンクは、その光景に驚いた。


「……どうやら、敵の竜人族が変身したようですね」


 赤髪のマラクが、冷静にその光景を解説する。


「え!?そんな事が出来るんですか!?」


「ごく稀に『先祖返り』というスキルを持って生まれる者がいるとは聞いています。ただ、我々竜人族の村で、近年、持って生まれたという報告はありません」


「そんなに特殊なスキル何ですか!?──みなさん、大丈夫でしょうか……?」


 タウロはその禍々しい姿を凝視しながら、竜人族のみんなの安否を心配した。


「え?──ああ。タウロ殿。心配はご無用ですよ。そうですね……。例えば、犬人族の遠い先祖は犬だと言われていますよね?」


 リーヴァは、タウロが心配している事に気づいて説明を始めた。


「はい?」


 突然始まったリーヴァの説明に、タウロは思わず聞き返した。


「もし、犬人族の戦士が『先祖返り』して犬になったらどうですか?……そういう事です。トカゲに戻る事を切り札だと考える様な相手に、竜人族の戦士が負けるわけがありません」


 リーヴァは笑顔でタウロにそう答えた。


「……ドラゴンが、トカゲ扱い……。ははは。でも、何となく説明は理解できました」


 タウロが、呆れ気味に苦笑いするのであったが、その瞬間であった。


 屋敷から姿を現していたドラゴンが、一筋の閃光と共に真っ二つになった。


「あ、あれは大勇者の技の一つ『一閃』だね。流石元攻略組、雑魚の討伐にも手加減しないなぁ」


 金髪のズメイが、明るい口調で、説明した。


 ドラゴンは屋敷の一部を破壊して屋敷の陰に消えていった。


「違うな、ズメイ。あれは、敵とはいえ、相手は竜人族の末裔。最高の技で敬意を表して見せたのさ」


 赤髪のマラクが、指摘した。


 どうやら、本当にタウロが心配する事態は何もないようであった。


 竜人族の暗殺ギルド殲滅作戦は、こうして終わりを迎えようとしていた。

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