第350話 3人の訪問者

 タウロ達『黒金の翼』一行は、カクザートの街での火焔蟹討伐が一段落つこうとしていた。


 冒険者不足からフリークエスト化されたこのクエストも、地元のEランク帯冒険者達でクリア出来る程にはタウロ達が教育し直したし、他所の冒険者ギルドに要請していたDランク帯の冒険者もやっとカクザートの街に集まり始めていた。


 この感じならば、塩湖の火焔蟹殲滅の日も近いだろう。


 思ったより早くその道筋が出来たのでタウロも意外であったが、そうなるとシオンを竜人族の村から早々に呼び戻す事になる。


 村に送り出してまだ、一週間しか経っていないのでどのくらい経験を積んだかわからないが、シオンには一段落ついたら呼びに行くと約束していたので行くべきだろう。


 そうタウロが考えていると、宿屋の一室に面会を求める一団が現れた。


「タウロ殿お久しぶりです!」


 ドアの向こうにっ立っていたのは、赤髪に金眼の高身長、美形の男マラクと、金髪に金眼、身長が小柄で一見すると美少年系のズメイ、長い青髪ポニーテールに、金眼の細身体型の美女リーヴァの、竜人族3人組であった。


「あ!三人とも元気でした?──ここに来たという事は、王都の暗殺ギルドは殲滅したって事でしょうか?」


 タウロは、竜人族が暗殺ギルド殲滅の為に再び動いている報告を以前に受けていたので、その事だろうと察した。


「それもですが、実はさほど重要と思わず、タウロ殿に報告していなかった事がいくつかありまして……」


 赤髪のマラクが三人を代表して申し訳なさそうに答える。


「?」


 タウロは何の事か予測がつかず、疑問符が頭に浮かぶのだったが、立ち話もなんなので、アンクとラグーネにも声を掛け、一階の食堂で話を聞く事にした。




「それで、報告とは?」


 改めてタウロが赤髪のマラクに発言を促した。


「まず、王都の暗殺ギルドについての報告から。半年以上かけてようやく、王都内の暗殺ギルドの拠点を調べ上げる事が出来たので、一週間前、我々竜人族の精鋭で全ての拠点を同時刻に襲撃、殲滅しました」


「おお!いい報告じゃないか!これでリーダーも安心出来るってもんだな」


 アンクが、タウロの肩を軽く叩いた。


「その際、王都内の拠点を調べ上げるのに泳がせていた者がいたのですが……」


「ああ、以前言っていた特殊スキル持ちの下っ端ですよね?」


「……はい。その者を泳がせていた事で、王都における最大の拠点もやっと発見する事が出来ました。その拠点にはお恥ずかしい事ながら、我々とは別の竜人族の血筋の者がいて戦闘になりました。──その話は後でまたするとして……。その泳がせていた小者がどうやらタウロ殿の元父親だったみたいなのです」


「「「え?」」」


 ダレーダー領暗殺ギルド支部殲滅作戦時以来、忘れていたその存在を聞いて、タウロをはじめ、アンク、ラグーネはただただ驚くのであった。


「……なるほど。亡くなった事でそれを確認したという事ですか……」


 完全にその存在を忘れていたタウロは、呆気ない幕切れに何の感慨もなくそう感想を漏らした。


「いや、それがですね……、まだ泳がせていて、このグラウニュート伯爵領のお隣にあるボーメン子爵領に逃げ込んでいるのです。こちらとしても捕まえるか迷ったのですが、暗殺ギルドの本拠地はボーメン子爵領にあると調べ上げていたので、その領内のどこにその本拠地があるのか確認する為に泳がせる判断をしました。──やはり捕らえた方が良かったみたいですね……」


 タウロの反応を見て赤髪のマラクは後悔したようだ。


「ほら、やっぱり!僕もマラクに、あんな最低な男殺した方がタウロ殿の為になるって言ったんだよね」


 金髪の美少年系であるズメイが会話に入って来た。


「ズメイ静かに。マラクが報告の途中よ」


 青髪の美女リーヴァがズメイを注意する。


「はーい」


 注意されて金髪のズメイは大人しくなった。


「……そういう事で、タウロ殿の元父親は、現在ボーメン子爵領にいます。我々は、それを追跡しつつ暗殺ギルドの残党狩りをしてやってきたという状況です。──先ほども少し報告しましたが、暗殺ギルドの幹部には竜人族の血筋を持つ者が含まれているようで少し予想外の戦いになりましたが、ここまでは想定の範囲内です」


 マラクそう言うと報告を終える。


「元父親の事はどうでもいいのですが……。その暗殺ギルド側の竜人族の血筋とは……?」


 タウロは一筋縄ではいかない様子の暗殺ギルド殲滅について詳しく聞いた。


「……我々竜人族はダンジョン攻略を一族の悲願として一致団結して生きてきました。しかし、お恥ずかしい事ながら、ごく一部には犯罪を犯し、処断される前に逃亡した者、村のやり方に反感を持ち村を出て行った者もいます。暗殺ギルドにはその様なはぐれ竜人族の者が複数人紛れているのではないかと、族長は睨んでいます」


「……なるほど。だから竜人族に伝わる技術の変異版と思われる呪術を暗殺ギルドが使っていたのですね」


「はい。タウロ殿から話を聞いた時点で、その可能性を疑っていました。あ、もちろん、純粋にタウロ殿の命を脅かす時点で暗殺ギルドは我々の敵である事に変わりはありませんでしたよ?」


 マラクが弁解する。


「それは疑ってませんよ。──そうなると敵はかなりの強者がいる可能性があるんですね?」


 タウロをはじめ、アンクとラグーネにも緊張が走る。


「それは大丈夫でしょう」


 マラクがタウロ達の緊張をよそに、確信をもって続ける。


「王都の拠点で対峙した者は、竜人族の血を引いてましたが、大した事はありませんでした。逃げる事には秀でていましたが、ズメイが追い詰め仕留めました。もちろん、本拠地にはそれ以上の大物がいる可能性もあるので慎重にならなくてはいけませんが、今回は元攻略組も参加しているので殲滅は確実に行いますよ」


 マラクは迷いなくそう答えるのであった。


「……ははは。それは確かに逃げられそうにないですね……」


 タウロは攻略組の凄さは十二分に理解していたので、暗殺ギルドに対し、同情しそうな気分になるのであった。

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