第330話 竜人族の望む物

 始まりのダンジョン最下層である265階層、『迷宮核ダンジョン・コア』の部屋──


 族長がタウロ達一行と共に最下層に辿り着くと、そこはカレーの匂いが充満しており、攻略組とサポート組一同が、和気藹々とした和やかな雰囲気で食事をしている光景が広がっていた。


「……これは一体?」


 族長リュウガは、想像していた竜人族悲願のダンジョン攻略に伴い、感動的な場面が展開されている思っていたのでこの状況に戸惑うのであった。


「みんなが喜び、感涙する展開は、族長が来る前に一通り終わりましたよ」


 攻略組の1人である大賢者が族長に気づくとその表情を察して説明した。


「……その説明はいらないだろ」


 置いてけぼりの族長リュウガは軽くツッコミを入れるのであったが、気持ちを入れ替えると攻略組の苦労を労うのであった。


「お前達、そのまま聞いてくれ!──よくぞこの最下層まで辿り着いてくれた!族長としてお前達の活躍は竜人族の誇りだ。過去数百年の間、このダンジョンに何度も挑戦し、命を散らしていった者達も少なくない。お前達はそれらの竜人族全体の想いを成し遂げてくれた……。本当にありがとう!……話が長すぎてもいかんな。それでは長年の悲願に終止符を打つとするか……」


 族長リュウガはそう口にすると、マジック収納から大きな戦槌を取り出した。


 そして、迷宮核のある台座に歩み寄って行く。


「族長リュウガさん。それを砕くと、ダンジョンの機能は停止し、砕いた者が望む品が手に入ると思います。何を望みますか?」


 タウロはふと竜人族の悲願達成の先に何を得るのか興味を持って聞いてみた。


「望む物……、どうだろうか……?──砕いてみなければわからないだろうな」


 族長リュウガはタウロにそう答えると台座の前で立ち止まる。


 その場にいる竜人族達はいよいよ悲願達成の時が近づいている事に、室内は緊張した雰囲気に包まれた。


 ついにダンジョン攻略に終止符が打たれる歴史的瞬間だ。


 みながそれを見逃すまいと族長リュウガに視線が集中する。


「……では、我ら竜人族悲願の時だ」


 族長リュウガはそう短く口にすると、手にした戦槌を構え、『迷宮核』に向かって振り下ろすのであった。


 ガシャン


 族長リュウガの一撃は、その大きく硬い『迷宮核』を一撃で砕いた。


 一面に『迷宮核』が砕けて欠片が四散する。


 タウロは『迷宮核』が砕ける瞬間を二度も体験するとは思っていなかったが、前回の通りなら、この後、ダンジョンはその機能を停止する事になる。


 そうだ、機能停止後も『空間転移』は使えるのだろうか?


 タウロはふと思った。


 使えない場合、265階層から地上に戻るのにどれだけの時間を費やすのだろうかと怖い想像をした。


 ……


 …………


 ………………………


 うん?


 タウロは、何も起きない事に気づいた。


 前回の通りなら、明滅してダンジョンが死に絶えるはずだ。


 竜人族達も何も起きないので、ざわざわしだした。


「?」


 族長リュウガも、タウロの方を振り返って視線で確認する。


「……あれ?」


 タウロが族長に向かって首を傾げていると、台座の地面の床が盛り上がり、宝箱がせり出してきた。


 あ、宝箱を回収したらダンジョンが機能停止するのかな?と、タウロは予想すると、


「族長、宝箱を開けて中身を確認してみて下さい」


 と勧めた。


「そうか?」


 族長リュウガは、頷くと勧められるがまま大きめの宝箱を開けてみた。


「こ、これは!?」


 族長リュウガが、中身を確認すると大きく驚いた。


 タウロは側に駆け寄ると、族長リュウガの脇から宝箱の中を覗き込んだ。


 そこに入っていた物は──


「え!?『迷宮核』!!?」


 タウロは宝箱の中身が色こそ違うが、先程砕いた青色の『迷宮核』と瓜二つである白色の『迷宮核』が入っているのを確認した。


「……そうか。我々竜人族の悲願であったダンジョン攻略は生活に根付いていた。俺はどこかでそのダンジョンが失われた後の竜人族の生活を想像出来なかったのかもしれない……」


 族長リュウガは、自嘲気味にそう呟いた。


 タウロは、試しにこの『迷宮核』を、『真眼』で鑑定してみた。


 すると、


『竜人族製・人工迷宮核』


 ・竜人族の望みによって生み出された、人工の迷宮核。


 ・これを台座に据えるとダンジョンは竜人族の管理の元、生き続ける事が出来る。


 ・ただし、人工のダンジョンの為、これ以上、ダンジョンが成長する事は無く、ダンジョンの特性の1つである領域守護者の生成、魔物氾濫スタンピードは起きる事が無い。


 ・魔物の生成もこの『人工迷宮核』で調整する事ができる。


「……鑑定できる時点で、人工なんだとわかるけど……、つまりこれは、ダンジョンを死なせずに今後も活用できるという事ですね」


 タウロは、鑑定結果を読み上げると、そう最後に付け加えた。


「……ははは。ダンジョンは本当に欲しい物を与えてくれるのだな……」


 族長は苦笑いすると、宝箱から『人工迷宮核』を取り出し、台座の上に据えた。


 すると、ダンジョン全体を揺るがす、地響きが起きた。


 ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ……


 いつまでも終わらないと思われる地響きに室内の竜人族達は流石に動揺するのであったが、そこに地響きの原因であろう階段が、目の前にせり上がって来た。


 そして、それが天井まで続き、天井にも穴が空いて階段が昇って行くのを確認すると、ようやく長い地響きが収まった。


「……どうやら、上までの直通階段が出来たみたいですね」


 タウロが、階段を見てそう呟いた。


「そのようですな……」


 族長リュウガは、タウロの意見に同意すると、気が抜けたのか呆然とその階段を見つめ、座り込むのであった。

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