第326話 思わぬ怪我

 タウロ達一行は、タウロ個人が冒険者ギルド竜人族の村支部での『ダンジョン攻略組送迎クエスト』が再開されるまでの間は、冒険者ギルド王都本部を中心に活動する事にした。


「リーダー、ハーピィ討伐クエストがあるみたいだぜ?」


 アンクがその王都本部の大きな掲示板のDランク帯に張り出されたクエストを指さす。


「ハーピィかぁ。飛行タイプの魔物の討伐は苦手な冒険者多いから、避けられがちだよね」


タウロはクエストを見ながら答えた。


「そうなのか?以前にも討伐したが、うちにはタウロの弓もあれば、アンクの飛ぶ斬撃もあるし、エアリスの魔法もある。私はブレスもあるが、みんなを守る役に徹すればバランス的にいいから、十分やれると思うのだが?」


と、ラグーネが最もな分析をした。


「そうね、それにこのクエスト誰も引き受けないから貢献度高いみたいよ?」


 エアリスが張り出されたクエストの隅に貢献度上昇のマークを見つけて指さした。


 張り出されたクエストは、字があまり読めない冒険者の為に討伐対象の魔物の絵や、討伐数、報酬額、貢献度など、簡単にわかる様に数字や、マークなどで表現されている。


 タウロ達は全員、読み書き出来るので関係の無い話ではあるが、識字率が低いこの世界では重要な事である。


「じゃあ、点数稼ぎも踏まえて引き受けようか」


 タウロはそう言うとクエストを受注する為、張り出された紙を剥がして受付に向かうのであった。




 ハーピィ討伐戦は、北に向かって片道半日の距離にある小さい山で行われた。


 棲みついたハーピィの群れが数体との事だったが、着いてみると、十数羽いた。


 だがそれでも当初は、何の問題も無く討伐も行われていた。


 ハーピィの歌声による幻惑攻撃にも基本、耳栓をして対処していたので惑わされる事も無い。


 だが、討伐の最中、少しの休憩を取った時にラグーネが耳栓を付け忘れ、そのまま討伐戦の続きを行った事でトラブルが起きた。


 ハーピィの歌声にラグーネがまんまと幻惑状態に陥ったのだ。


「ラグーネ目を覚ませ!」


 アンクが、声を掛けるが幻惑は解けない。


 なので、タウロが状態異常回復魔法を使おうとしたが、ハーピィが飛来して邪魔をしてきた。


 それをぺらが擬態を解いて、防ぐ。


 ぺらは常にタウロを守る事に徹して、攻撃は仕掛けない様だ。


 詠唱を思わず中断したタウロであったが、すぐにまた詠唱する。


 その間に、幻惑状態のラグーネは、魔槍を持って近くのアンクに襲いかかる。


「黒い色のゴブリンとは珍しい。亜種だな!成敗してくれる~!」


 目が、血走っているラグーネはそう言うと、アンクに魔槍の強烈な一撃を繰り出すのだ。


「誰がゴブリンだ!」


 アンクは容赦の無いラグーネの鋭い一撃をタウロから貰った装備の付与能力で飛躍的に上昇している敏捷でギリギリかわし、ラグーネに反撃する。


 反撃しないと防戦一方になってこっちが危険だからだ。


「ちょっと、ラグーネ!目を覚まして!」


 エアリスも仲間の混乱に慌てて回復魔法を唱えたが、幻惑に対しては効果が無かったのかラグーネに変化はない。


 その間に、タウロがラグーネに状態異常回復魔法を唱えると、ラグーネは回復した。


「はっ!私は一体!?」


 ラグーネが正気に戻り、落着かと思った瞬間であった。


 またしても、ハーピィは間髪入れずに歌声でラグーネを幻惑状態に再度引き込んだ。


 またも、混乱状態に陥ったラグーネは、今度はエアリスに対して攻撃を繰り出した。


「え?」


 アンクもタウロも、そしてエアリス本人もこれには反応できなかった。


 ぺらを除いては。


 ラグーネの強烈な魔槍の一撃をぺらは瞬時にエアリスの傍まで移動して弾くとその槍先を逸らした。


 いや、咄嗟には逸らすのが精一杯だったのだろう。


 魔槍はエアリスのお腹を逸れて右足の太ももを掠めた。


 掠めるだけだが、魔槍をそれで充分なダメージを与える。


 地属性が付与されている魔槍は傷口を荒らすのだ。


 通常綺麗な刺し傷になるところが、刃こぼれでもした荒々しい刃で切り裂かれた様な傷口になるのだ。


「きゃあー!」


 あまりの痛みにエアリスが悲鳴を上げてその場に倒れ込む。


 タウロはすぐには駆け寄らず、まずは状態異常回復魔法を唱えてラグーネを治療する。


 そして、すぐさまポーションをエアリスにかけた。


「そんな……!エアリスごめんなさい!」


 ラグーネが正気に戻って、目の前の惨事に動揺する中、アンクはすぐさま、風魔法付与の飛ぶ斬撃で歌っているハーピィを斬り落とした。


 タウロは、残りのハーピィも弓で撃ち落とすと、改めてエアリスに歩み寄り、傷口に貴重な上級ポーションをかけて治療にあたった。


「ラグーネ私は大丈夫だから」


 エアリスは苦悶に顔を歪めながらも動揺するラグーネに声を掛けた。


 アンクも歩み寄ると、タウロが貰っていた緊急用の上級ポーションをエアリスの傷口にかける。


 エアリスの傷口はすぐに回復したのだが、魔槍のダメージはそういうわけにはいかなかったのかエアリスはまだ、相当痛む様で眉間にシワを寄せている。


 ラグーネは動揺を抑えられず、エアリスの傍で涙を流して手を握った。


「エアリス、ごめんよ……!」


「うん、大丈夫よ。痛みはあるけど、すぐタウロ達が治療してくれたから出血も少ないし気にしちゃ駄目……」


 エアリスは痛みを我慢しながらラグーネに声を掛けた。


 タウロは、エアリスの傷が表面上は治っても内部は治り切れていないと判断すると、


「ラグーネ、『次元回廊』で竜人族の村にエアリスを運ぼう。あっちで治療した方が早い」


 と提案した。


 動揺していたラグーネもタウロの言葉に少しは冷静さを取り戻すと、すぐに『次元回廊』を開き、タウロの『空間転移』でエアリスを竜人族の村まで運ぶのであった。

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