第268話 兄妹邸の庭にて

 買い物から改造までを行った翌日の事。


 タウロは、久しぶりに仮住まいのドラゴ邸の庭先で、リバーシの特別盤の製作を行っていた。


「見事な彫刻ですね!ところでこれは、何をするものなのですか?」


 ドラゴが、タウロの作業風景に興味を持ち、質問して来た。


 タウロは、快くリバーシについて説明すると、実際に相手をする事にした。


「ほう、なるほど!ここでこう取ると、沢山ひっくり返るわけですか!」


 ドラゴは飲み込みが早く、すぐにハマってしまった。


 なので、タウロは、そのまま、特別盤をひとつドラゴに上げて、ドラゴがそれに喜んでいると、ラグーネが『次元回廊』を使って珍しく昼に家を訪れた。


「タウロ良かった、うちに居てくれたか!今日は、少し報告があったのだ」


 ラグーネは、タウロの姿を見てほっとすると、自分の部屋から庭に出て来た。


「どうしたんだいラグーネ。お兄さんへの言伝で一応そっちの状況は聞いてるよ?」


 タウロが「?」と、頭に浮かべ、ラグーネの報告とやらを聞く事にした。


「実はな、今『黒金の翼』の、Dランク帯クエストは上級冒険者達をサポートするフリークエストを中心にやってるのだが……」


「うん、らしいね。Dランク帯から上級クエストの斡旋が増えるから、サポートに回って色々と学ぶ時期なんだよね?」


「ああ、そうなんだ。それで、今度、Bランク帯の遠征のサポートで遠出する事が決まってな。ダンサスの村を当分の間離れる事になりそうなんだ」


「へー、どのくらいの間なの?」


 タウロはまだラグーネが何を言いたいのか話が見えてこなかった。


「そのクエスト自体は、1週間程なのだがリーダーのエアリスの意向でその後、王都に活動拠点を当分置こうという事になったんだ」


 ラグーネの説明では何か奥歯に物が挟まった様な感じに聞こえた。


「王都に?僕も今のままでは身動き取れないから、こちらには長居する事になると思うからあれだけど、王都だと暗殺ギルドの動きとか大丈夫?」


「そ、それは大丈夫だ!タウロが我が同胞をダンサスの村に3人送ってくれただろう?」


「ああ、竜人族のみなさんね」


「そう、その3人がここ最近ずっとダンサスの村で暗殺ギルドの密偵と思われる怪しい連中を密かにずっと狩っていたんだが、処理してるところを村人に見られたらしく、こちらで情報入手がこれ以上はやりづらいという。なので冒険者登録させて一緒に行動することにしたのだ。そこで王都でその3人と一緒に暗殺ギルドの情報を収集する事になったのだ」


「……急展開だね?暗殺ギルドの情報収集って、エアリスが言いだしたの?」


 タウロは、ダレーダー伯爵や、竜人族のみなさんが動いてくれているので、そちらに任せているのだったが、エアリスが動くとなると話は別だ。

 自分がチームを一旦抜けたのは、メンバーに危害が及ばない為の処置だ。

 それなのにエアリス達が暗殺ギルドを嗅ぎ回るとなると状況が悪化する可能性がある。


「いや……。暗殺ギルドの情報収集は、我が同胞3人の役目であって、私達はあくまでサポートだ。王都での活動は3人も不慣れだからな。エアリスや、アンクの手助けが必要だと思うのだ。あ、エアリスは言い出しっぺではないぞ?みんなで話し合ってそういう結論に至ったのだ」


 ラグーネは、嘘を吐くのが下手だ。

 というか多分、エアリスやアンクも下手だから、伝言役をそのままラグーネに任せたのだろうが、何か隠しているのは確かだ。


「……色々と引っ掛かるところはあるけど。みんなで決めた事なら僕は反対しないよ。でも、十分気を付けてね」


「わかった!だが、タウロ、そちらも大丈夫か?私達がいないから1人だと大変だろう?」


 ラグーネがみんなを代表してか心配してみせた。


「僕は大丈夫だよ。あ、そうだ。実は新しい仲間が出来てね。みんなにも紹介しておきたかったのだけどこんな状況だからラグーネにだけ紹介しておくね。──ぺら、擬態解いて」


 タウロは、お腹のベルトを撫でると言った。


 そうすると、擬態を解いたスライムのぺらがプルンと身を震わせラグーネとドラゴの前に現れた。


「「こ、これは、擬態スライム!?」」


 流石、竜人族の二人だ。

 スライムには詳しいようだ。


「擬態を使うけど、これはスライムエンペラーの亜種の『ぺら』だよ。僕、スライム使いになったから、このぺらをテイムしたんだ」


「「スライムエンペラーの、それも亜種をテイム!?」」


 流石兄妹だ。

 息が合った台詞で一言一句違わずに言うのであった。


「そう。珍しいそうだけどね。このぺらが今相棒になってくれているから、大丈夫だよ。ぺらは魔法耐性、物理耐性両方持ってるから強いよ」


 ぺらはタウロに褒められて嬉しかったのかぴょんと跳ねてアピールした。


「「……まさかスライムの頂点、それもその亜種をテイムするとは……。驚くところが多過ぎて頭が回らない……。くっ殺せ!」」


 これまた、兄ドラゴと妹ラグーネは、口を揃えていつもの口癖を言うのであった。

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