第265話 楽しいお買い物(3)

 竜騎士武具屋店内。


 タウロは、引き続きラグーネの親戚の説明で商品を見て回っていた。


 丁度、黒色の板金胴鎧が目に入った。


「これは、どんな特徴があるんですか?」


 タウロはアンクに良さそうな鎧だと思って興味を惹かれた。


「あ、それですか?それは、徘徊幽霊鎧という魔物を討伐して入手した物を作り直した物です。普段は溶かして鉄くずにして再利用するのですが、それは最初から『軽量化』が付与されていたので、職人がそれを活かして改造した一品ですね。胸の裏側には今、竜人族の村で流行してる加工した魔石を嵌められる様にして、軽量化にプラスして魔石で付与ができますよ、本当に軽いので手にしてみて下さい」


 店員の勧めで重そうな板金胴鎧を持ってみると片手で簡単に持ち上がった。

 見た目は重そうなのに不思議な感覚だ。


「かなり良いですね、これ下さい、あと、僕のサイズにあった籠手や脛当てありませんか?」


 タウロはアンクへのお土産として多少値が張るこの板金胴鎧を躊躇する事無く購入するのであった。


「タウロさんの大きさだと女性用のが丁度良さそうですね。このセットなんかどうでしょうか?ダンジョンの宝箱から出たハズレアイテムを一度ばらして加工したものです。軽めの素材ですが、加工するのも大変だったくらい丈夫ですよ」


 渡された籠手と脛当てのセットは灰色で地味な感じであったが、確かに軽く今の革製の物と遜色無いほどだ。


「ちなみに元のアイテムは何だったんですか?」


 タウロは原型について聞いてみた。


「元のアイテムですか?さあ、見た事も無い形でしたね。たまにハズレの宝箱であるんですよ。用途がわからない物が出てくる事が。それを安くうちが回収して素材として利用してるんです」


 店員は、仕入れの裏話を教えてくれた。


 なるほど、見た事がない素材でも利用できる物は利用しているのか。

 試しに『真眼』で鑑定してみると、鑑定阻害を受けて表示はされなかった。

 もしかするとアルテミスの弓と同じ素材かもしれないが、よく加工出来たものだ。


 タウロは感心すると軽くて丈夫そうなので気に入って買う事にするのだった。



 タウロは、メインイベントとも言える自分の革鎧を『ランガス鍛冶屋』で買う事にしたのだが、よくよく考えると鍛冶屋なのに革鎧がお勧めで良いのだろうか?と、首を傾げつつ、店員に教えて貰った場所、大通りからひとつ裏に入った路を歩いて目的のお店を探した。


 看板が出ていないが、鉄を金槌で打つ甲高い音が響いてくる。

 お店の前に立つと、小さい表札の様なものがあり、そこには『ランガス鍛冶屋』と、殴り書きしてあった。


 どうやら店主は宣伝する気がゼロの様だ。


 中に入ると意外に沢山の武具類が狭い店内に所狭しと並んでいる。

 ただし、店内に店員はおらず、奥から金槌を叩く音だけが響いてくる。

 どうやら、自分の知っているドワーフ同様、商売っ気が無い様だ。


 うん?ランガス…?まさかあのドワーフ鍛冶屋の関係者じゃないよね?


「すみませーん!アンガス…じゃない。ランガスさんはいらっしゃいますかー!?」


 タウロは懐かしい鍛冶屋を思い出しながら店主を呼んだ。


「何じゃ、客か?俺はアンガスじゃなくて弟のランガスの方だぞ!?」


 奥の部屋から1人のドワーフがひょこっと顔を出した。


 あ、アンガスさんにそっくり…。弟って言ったから、アンガスさんの弟に間違いない!


 サイーシの街で色々とお世話になったドワーフの鍛冶職人アンガスを思い出すと、世間の狭さに驚きながらタウロは挨拶をした。


「僕はタウロと言います。アンガスさんには過去にお世話になった事があります。まさか弟さんにこんなところで出会えるとは思っていませんでした」


「兄貴の弟子か何かか?…うん?タウロ!?まさか兄貴に『刀』の作り方を伝授したっていう人族の神童か!?こりゃ驚いた!俺はそれに刺激されて鍛冶修行で旅に出てここに辿り着いたんだよ。まさかこんなところで兄貴の師匠に出会えるとはな!がはは!」


 ランガスはそう言うと大笑いした。


 笑い方も似てる…!


 背格好も、似ているこのランガスに記憶の中のアンガスが重なるのであった。


「兄貴が武器鍛冶師として成功したからな。俺は防具を極めようとしてるんだが、人気が出るのは革製の鎧ばかりなんだよ、どうか師匠。俺にも何か伝授してくれないか?」


 ランガスは正座するとタウロに無茶なお願いをしだした。


「ちょ、ちょっと止めて下さい!僕はその革鎧を買いに来ただけですから!」


 タウロは妙な展開になったので慌てるのであった。

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