第266話 買えずに終わり…
タウロは困っていた。
買い物が一転してお客から教える側に回りそうだったからだ。
タウロはサイーシの街にいた頃、アンガスの元で鍛冶師の真似事をしてた時期もあり多少詳しくはあるが、本職で一流の腕を持つ彼らと比べれば、教わる側の人間だ。
なので教えられる事はほとんどない。
アンガスに教えられてたのは偶然の知識なのだ。
「僕に教えられる事はありません。アンガスさんは僕のヒントを頼りに自分で結果を出して成功したので僕のおかげではありませんよ」
タウロはランガスのお願いに対して謙虚に答えた。
「兄貴のアンガスは壁にぶち当たってそれを越えられずにいた。それを越えさせたのは師匠、あんただ!お願いだ、そのヒントとやらを俺にも授けてくれ、頼む!」
ランガスもどうやら、兄アンガスの様に壁にぶち当たっている様だ。
「……うーん。そう言われても……。(店内を『真眼』で見渡す)──ここは素材に恵まれていて色んなものが作れる環境にあります。……ですが、ランガスさんの作りたいものは革ではなく鉄の様な材料を使用した防具にこだわりがあるみたいですね。ただ、そのこだわりの為に素材が生かせているのか疑問です。どれも価値がとてもあって出来の良いものばかりですが、魔物から得た素材の特徴が出ていません。自分の作りたいものにこだわり過ぎて素材を生かす事を忘れていませんか?」
タウロは『真眼』でそれを見極めるとランガスに厳しい質問をした。
ランガスはタウロに言われた事に衝撃を受けたのか固まってしまった。
「……確かに、俺は自分の作りたいものにこだわるあまり、素材を生かすという柔軟さを失っていた……。言われてみればうちの店内に並ぶものは素材はバラバラなのに統一感があって面白味も無いな……。ありがとう師匠!俺、一から素材を生かした防具を作ってみるぜ!」
そう言うとランガスの表情は明るくなり、立ち上がった。
「……それでは、僕は欲しい革鎧を選び──」
「師匠、悪い。今日は店を閉じて作る方に専念したいから今日は帰ってくれ!」
ガーン
いや、僕お客さんだから買わせてよ!あとは自分で改造するし!
タウロは答える暇も無く、ランガスにお店の外に追い出されるのであった。
「今日のメインイベントが……!」
タウロはガックリとその場に膝をつく。
するとタウロの腰のベルトがプルンと波打った。
そう、タウロの腰に巻くベルトはスライムのぺらが擬態したものだったのだ。
今日は革鎧を着用していないのでベルトに擬態して貰っていたのだが、励ましも兼ねて存在をアピールするぺらであった。
「ありがとうぺら。君の励ましは伝わったよ」
ベルトに擬態したぺらをそっと撫でると感謝するタウロであった。
消化不良のタウロであったが、このまま帰るにも時間があるので、食事をして散策する事にした。
食事は守備隊の人達から聞いていた『火喰い竜食堂』でする事にした。
店内に入ると、人が多く活気に満ちている。
「お1人様ですか?」
と、店員の竜人族の女性に確認されたので頷くと、
「それではカウンターにどうぞ」
と、手前の空いたカウンター席に通された。
店内で食事をしていた竜人族のお客さんが帰る際にタウロの方を見ると、
「ありがとう!」
と、言って帰って行く。
感謝は嬉しい、そして、注文を待っている間も、まあ、いいでしょう、こちらも会釈出来るし。
でも、食事中は困るので止めて下さい!
タウロは、この店自慢の火喰い蜥蜴のステーキを熱い熱いと言いながら食べてる最中、度々感謝されるので味わう暇がないのであった。
ちなみに火喰い蜥蜴のステーキは、お肉が品質上、火を常に纏っている刺激的な食べ物で、とても肉汁たっぷりの美味しい料理だったが、タウロは食べ終わる頃には口の中を火傷していたのであった。
※タウロ氏は専門家の立ち合いの元食べています。また、食後は『超回復再生』能力で口の中を治癒しています。一般の人族の方は危険ですので専門家の指導無しに食べないで下さい。
家に戻ってラグーネの兄ドラゴに聞いた話では、竜人族はこれを食べる時、口の中で軽くブレスを吐いて火を消し、食べているから火傷しないらしい。
そう、つまりタウロの様な人族には向かない食べ物なのだ。
竜人族はみんなそれが常識なので、誰もタウロが口の中を火傷しながら食べているとは、夢にも思っていないのであった。
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